第14話

神界でのフェムトの地獄のしごきが終わって、人間界に戻ってきた。


ちゃんと元いた部屋に帰ってこれたらしい。

フェムトを信用して無いわけじゃないけど、巻き込まれて異世界にやってきた身としてはちょっと不安だった。


「無事帰って来れたみたい。取り敢えずただいま」


部屋には、まだ3人が残っていてマルタとメル殿下は魂が抜けたように固まってる。

俺が帰って来たのも気づいてなさそう。


フィアは大丈夫そうだし、なんでこんな事になってるのか教えてもらえばいいか。


「おかえりなさい。敵に攫われた訳じゃないからそこまで心配はして無かったけど、無事戻ってきて安心した。それで、フェムト様と何をしていたんだ」


「異世界の神対策のために、フェムトと2人ででずっと修行してた。詳しく話すと長くなるしフェムトに新作お菓子貰ったからそれ食べながら話そう。こっちもどうなってたのか気になるし」



獣王国に来る前にフェムトの専属料理人をしている。料理が好きな水の上位精霊に餡子を使ったお菓子とかは作らないの?って聞いたところ、この世界に餡子が存在して無かったらしく。聞いたことの無い甘味、是非食べてみたいと小豆を探すことから始まった。

日本に似たダイワって国があるしそこにあるんじゃないとフェムトに言って探してもらったけど、見つからず。

結局、獣王国の1地域で少量栽培されてるのをようやく発見した。

大変だったらしく、美味しくなかったらコウはお仕置だからね!と言われてしまった。


お仕置きは嫌だと、頭の中のにあるあやふやなレシピを思い出し、何とか餡子を作った。

フェムトに合格を貰い、餡子料理を何品か教えて終わってたんだけど。


ようやく満足のいく物ができたからと言って今回どら焼きと、粒あんそのまま貰ってきたのだ。

粒あんパンに乗っけるだけでも美味しいしね。


ちょうどメル殿下もいるし食べてもらって、輸出できないか増産できないか、お願いしてみるか。

小豆の価格が一気に上がるかもしれないけど、そこは貴族さんたちに頑張ってもらおう。


と、どら焼きを用意しながら熱く語っていたら。


「お菓子を食べながら今回、何をして来たのか話すと言っていたのに。お菓子を食べながらお菓子の話になってるぞ。それにメル殿下は今の話聞こえてないと思うぞ」


同じ部屋で話しているのに、まだ2人は固まっている、大丈夫これ?なんか呪いとかかけられてる?


「2人ともなんでこんなになってるの?」


「突然、神様が現れれば普通こうなる。何度か会ったことがある私も心臓止まるかと思ったんだからな」


どうやらフェムトと日常的に会いすぎて、俺の感覚が麻痺してるみたい。


日本でいる時で考えてみると、目の前に突然天照大神が現れるようなものか。

確かに、2人みたいになるかも。


「あれ、コウさんが帰ってきてる!」


話してる間に、マルタが復活した。



「テーブルに見たことの無い食べ物がのってます。なんですかこれ?」


どら焼きに興味を持ったか!しっかりと説明しないとと思ったが、フィアに話が始まらないと怒られる気がしたので簡単に説明する。


「精霊が作ったお菓子だよ。美味しかったからお土産に貰ってきたの」


「精霊が作ったお菓子ですか。やはり精霊独自の料理とかもあるんですね。どんな味がするのか気になります」


勘違いされちゃったけど、この世界では存在しない物の筈だし、精霊独自の料理と言っても問題ないだろう。


「食べてもらう為に持ってきたから、好きに食べて貰ってかまわないんだけど」


メル殿下がまだフリーズしてるから果たして放置して食べ始めていいものか。


俺がちらっとそっちを見たので、言葉にしなくても伝わったのだろう。


「メル、いつまでぼーっとしてるんですか?

もうコウさんが帰ってきてますよ」


マルタがほっぺをぺちぺちしながら喋りかけてる。


他国のお姫様なんだけどあんな事して大丈夫なんだろうか。


「もうちょっと方法があるでしょ!」


あ、起きた。


「もうちょっと優しく出来なかったの!ただでさえ緊張してたのに、神様まで現れてもう限界を超えてるのに」


この感じ2人は前から仲が良かったのかな?

よく良く考えれば仲が良くない相手にあんな起こし方しないか。


「そうですね、それについては謝ります。ですが良いんですか?ここに誰が泊まってるのか忘れたんですか?」


マルタがそう言った瞬間、ハッとメル殿下が振り向き俺と目が合った。


「マルタはなんで私の事いじめるの。コウ様の前では、大人しめのお姫様って感じでキャラ作ってたのに」


「だって、コウさんと結婚してもキャラ作って生活するつもりですか?絶対ボロ出ますよ。なんなら今、辞めさせようって思っただけです」


「それは、仲が良くなるにつれて話し方が変わるみたいな感じで、徐々に戻してくつもりだったの」


「無理ですね。やめ時が分からなくなって、そのままズルズル行くのが目に見えてます。それに今私なんかよりも、コウさんと話す事があるのでは?」


メル殿下がどうしていいか分からなくなって、オロオロし始めてしまった。

マルタって以外にブラックなところあったりする?


「メル殿下まずは落ち着きましょう。ちょうどお菓子もありますし、食べながら気持ちを落ち着けてそれからお話しましょう」


椅子をひいて座らせてあげる。


「見たことないお菓子、どこのお菓子?」



「精霊がお土産にもたせてくれたお菓子です。どら焼きって言うらしいですよ」


既にどら焼きを手に持って、興味深そうに見ている。

恐る恐る一口食べたあと、何も言わずに黙々と食べ始めた。


「ひとまず、大丈夫そうかな」


食べ終わった後にまた焦りださなければいいなと思いつつ、自身もどら焼きを食べるのだった。


読んでいただきありがとうございます。



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