星の賢者と1等星

星の賢者と1等星

 湖を臨む神殿。ユピテウス像の正面に、僕は立つ。

 湖は相変わらず。最近修繕工事を終えた宮殿は、前より一層輝いて見えた。


 辺りには誰もいない。当たり前か。

 サビクさんに無理を言って、夜明け前に入らせてもらったんだから。グリードさんは怒ってたけど。

 

 誰にも邪魔されたくなかったんだ。一人だけでいたかった。


 春が来て一週間。あれから僕は、彼女の光を探していたけど、全く見つからなかった。

 わかりやすい目印でもつけてくれればよかったのにさ。


 色んなことを話したい。

 レグルスが剣の修行を始めたとか。

 ファミラナがサビクさんの直属の部下になったとか。

 カペラは相変わらず銀河鉄道に執心だけど。


 ねえ、いつまで待たせるの?

 早く帰って来ないと、君のこと忘れちゃうよ?


 なんて。

 忘れられるはずがないんだ。君のこと。


 長い長い夜が明ける。

 太陽は空を天色あまいろに染めていく。


「アヴィ?」


 声が聞こえて振り返る。

 彼女を見て、目を見開いた。


 深い夜のような黒髪。

 柔らかな深紅の瞳。

 ああ、見間違えようがない。


「ただいま」


 思わず駆け出した。そして抱きしめる。

 ああ、やっと見つけた。


 おかえり、僕の一等星。

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