ロッシュ限界を超えて(6)

 アヴィオールは叫ぶ。

 幼なじみであり、親友であり、大好きだった彼女の死。

 自分のためにという言葉は残酷で、心臓を貫かれるような思いだった。


 麦の塔に一人残され、解け行く金色の雪を見下ろし、その美しさに絶望する。

 麦の塔は、枯れて崩れ去ろうとしている。


 冷たい空気が張り詰め、やがて氷となり、麦穂と共に落ちていく。

 金と銀が手を取り踊る。


「ああ、綺麗だ」


 アヴィオールは呟いた。


 白鳩を呼び出し、旋回させる。

 麦の塔が完全に崩れ去り、アヴィオールの体は落下する。白鳩のおかげで落下速度は緩やかで、舞い落ちる羽根のように地面に降り立った。


 街からは、麦が消え去っていた。

 代わりに降り注ぐ、雪と光。それは星々の煌めきを照り返し、くるりくるりと降りていく。


「アヴィ!」


 レグルスの声が聞こえ、アヴィオールは辺りを見回す。

 時計塔の近くで待機していたらしい。レグルス、ファミラナ、カペラ。そしてキャンディとマーブラが、アヴィオールの帰還を喜んだ。


「大丈夫だったか?」


 レグルスが問いかける。アヴィオールは力なく笑う。


「スピカちゃんは? いなかったの?」


 ファミラナが問いかける。それにもアヴィオールは笑って返した。

 皆、触れてはいけないと感じ取ったらしい。沈黙が流れる。


「あ、あれ!」


 不意にカペラが空を指さした。アヴィオールは顔をあげる。


 空に浮かんだ星々の光。そして、美しい満月。濃紺の星空に流れる、幾千もの流れ星。

 それはまるでスターライトパレード。

 生まれて、流れて、消えて、生まれる。

 流れ星は絶え間なく、絶え間なく、空を光で彩った。


「綺麗だね」


 アヴィオールは呟き、隣を見る。

 いつもそこにいたはずの姿は、今やどこにもない。


「アヴィ、大丈夫ですか?」


 カペラに問われ、アヴィオールは瞬きする。

 いつの間にか、涙を流していた。


「ああ……もういないんだな……」


 アヴィオールはぽつりと呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る