第71話【大魔道士リディア&レオン視点】
【リディア視点】
あーしは内心で焦ってた。
ようやく見つけた安息の地、孤児院に異物が紛れ込んできたから。
名前はレオン。
物腰は柔らかく、大人の男性として言動も相まって他の娘はコロッと騙されちゃった。今じゃみんなの方からレオンに甘えてる。
あーしはそれがどこか気に食わなかった。当然じゃない! 大人の——それも男なんて裏じゃなに考えているかわかんないんだから!
あーしの警戒をよそにクウたちはレオンに気を許してしまった。それも驚くほどあっという間に。
たぶん、みんな本来父親から授かるはずだった愛情を求めてしまうんだと思う。
うちじゃ響さんが親代わりだったけど、やっぱり性別の壁は越えられない。どこまで行っても母親が限界。
だからレオンを求めてしまう気持ちもわかる。
でも、ダメ! ダメだってば! どうせレオンだって本音じゃみんなのことを——。
あーしには『異能』がある。触れた対象の胸中を覗くことができるチカラ。
本当はもっと早く、あいつの本性を覗いておくべきだった。それができなかったのはあーしにもわからない。
けど、案の定、レオンの本心はとんでもなかった。えっ、えっちだし、響さんにセクハラすることばかり考えてるし、何より許せないのが、最終的にみんなに養ってもらうために偽りの愛情を注いでいること!
はっ、はぁっ〜⁉︎ ロリヒモ光源氏スパイラル計画ぅ⁉︎
バッ、バカじゃないのこいつ! あたまイカれているんじゃないの⁉︎
なんであーしたちがレオンを養わなきゃいけないわけ! 信じられない!!!!
こうしちゃいられない。こうなったらゴン詰めしてこの孤児院から追い払ってやる!
あーしはやっと見つけた憩いの場を、そして大切な友だちから悪い虫を払うため、レオンと二人きりで対峙することにした。
【レオン視点】
どうもみなさんこんにちは。レオンです。終末です。なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?
ピンチです。絶対絶命です。ようやく孤児のみんなとも打ち解け、お風呂まであと一歩まで漕ぎ着けたのに、ここへ来て真ボス登場。
しかもそのお相手は全然俺に懐いてくれなかったリディアちゃん。
おかしいなーとは思ってたんだよ。折り紙しても全然褒めてくれないし、息してるだけで賞賛ものなのに「生きていて偉いね」って褒めてくれないし。やっぱり俺のことを敵視してたんだ!
ちくしょう! なんでだよ! いいじゃん! 幼女ぐらい好感度マックスでいいじゃん! これまで全然モテなかったのに!
なのに幼女にまで嫌われたら俺は一体なんのために生まれてきたんだよ!!!!!!!
「ちょっ、ちょちょ! 待ちなさいよ! ツッコミが渋滞するっての!」
俺の手に触れて内心を暴くリディアちゃん。
「生きていて偉い?」
「偉くないわよ! むしろ生きていちゃダメなタイプでしょあんたは!」
「ぐっ……!」
現況を整理しよう。ようやくお湯を張ることができた俺は例のどスケベ思考。
これまで心の壁を隔てていたリディアちゃんが初めての接触をしたかと思えば、まさかの『異能』持ちという。しかもなんと触れた対象の胸中を覗けるという。
もはや俺にとって天敵としか言いようがない。おかげでせっかくの混浴タイムは俺とリディアちゃんを覗き、みんなで入浴しているという。
「……目から血出てるわよ、あんた」
悔し過ぎて出血しちゃったじゃん。
これから待ち受けているであろう詰問に真摯に対応するため遠聴魔術も発動できず、現在に至るというわけだ。
「弱みを握って俺に何を命令するつもりだ⁉︎」
「なんであんたの方が被害者っぽく振る舞ってんのよ。ちゃんと状況を把握してんの? あんたの本心全部バレちゃってんのよ」
リディアちゃんの口からロリヒモ光源氏スパイラル計画の名が出た瞬間の衝撃と言ったらもう!
よくぞ西川くんにならなかったもんだと自分を褒めてやりたいぐらいだ。あやうく意識を持っていかれるところだった。
だが、しかし!
バレてしまったものは仕方がない!!
こぼしてしまった水は元には戻らないのだ。
だったら俺にできることは一つ!
開き直りだ!!!!!!!!!!!!!!
「内心でキメ顔してんじゃないわよ! バレたんだから出て行きなさいよ!」
「そこをなんとか……お願いしますよー」
スリスリ。リディアちゃんのぷにぷにしているお手てをスリスリ。
「ちょっ、なんか触り方がいやらしいんだけど! 離しなさいよ!」
「生きていて偉い?」
「偉くない——っていうか、その質問やめなさいよ! 何度聞いても同じ答えになるに決まってんでしょうが!」
「どうしたらみんなに黙っててくれる?」
「サイテーな男だわ! 最低! ほんっっっっと最低! クズがバレてんのにまだ居残ろうしてるわ! 図々しいにもほどがあるっての!」
「えへへ」
「褒めてないっての!」
「楽しいね」
「楽しくないわよ! えっ、怖! いまあーしの方が弱みを握ってるのよね⁉︎ なんでこんなに堂々としていられるわけ⁉︎」
「俺の後ろにはもう道がないから、かな」
「きっしょ!」
まさかリディアちゃんの正体が毒舌ギャル幼女だったとは! きゃわいい!!
正体がバレたときはどうなることかと思ったけど、これはイケる——!
「イケる——! じゃないわよ! 出て行きなさいって言ってんの! 自主的に去るならみんなに本性を秘密にしておいてあげるから。レオンだって響さんにバラされたくないでしょ?」
「それは平にご勘弁ください」
レオン七つ道具オープン!
コマンド、『土下座』を発動!!!!!!!
「幼女に頭を下げるとか、プライドはないのかしら?」
ようやく俺が下手に出たことでリディアちゃんの加虐心がくすぐられのかもしれない。嘲笑を浮かべている。
だっ、ダメだよ! 幼いうちから男を弄ぶなんて! その愉しさに目覚めるのは十年早いって!
と必死に頭を何度も下げているとしゅるしゅると衣擦れの音。
バッと視線を上げると真っ白の脚を向けてくる。
「いいわ。だったらチカラづくで追い払ってあげる。あーしの脚を舐めて奴隷になりなさい。それが嫌ならさっさとこの孤児院から出——ひゃうっ」
ぺろぺろのお許しが出たぞー!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
いつか女の子の脚を舐めたいとは思っていたけど、最初が幼女になるとは! よもやよもやだ! だが、俺は俺の責務を全うする!
「ストップ! ストップだって! ちょっ、止まりなさ——あっ」
せっかくの機会なので内腿もぺろぺろしておいたよ。ご主人様に忠実な犬、その名はレオン!
とはいえ、これ以上は犯罪者になってしまうからね。この辺で辞めておくのが紳士の嗜みかな。
「いまの言動のどこが紳士よ!!!!!!」
リディアちゃんは頬を紅潮させ、スカートの丈を摘んで必死に下げながら睨みつけてくる。心なしか目が潤んでいる。
やりすぎちゃったかな? でもこれが最期になるかもしれないし、大目に見て欲しい気持ちもある。
「どうしてもダメ?」
「ダメったらダメよ!」
「そっかー。じゃあ仕方ないね」
無念。レオン、散る! ぐっ、ぐぐっ、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
悔しい! ロリヒモ光源氏スパイラル計画。良案だと思ったんだけどなー。
本当なら地を張ってでも粘りたいのが本音だ。少なくとも数日前にリディアちゃんの生い立ちを響さんから聞かされていなかったらそうしていたと思う。
彼女は名門の魔術家系で生を受けたものの、忌み嫌われている『異能』のせいで両親からの愛情を受けられず、捨てられたという。
触れた対象の胸中が視え手しまう弊害は、それから貰い手がいないという悲惨な現実と、大人は汚いと思わざるを得ない思考に塗りつぶされてしまっている。
俺もその一人か。ごめんね。
この孤児院と孤児を大切にしたい、汚されたくない、もう居場所を奪われたくないっていう気持ちは痛いほど理解できる。
さすがの俺も幼女のトラウマを抉ってまで養ってもらおうとは思わない。これは嘘偽りない本音だ。
でもリディアちゃん。俺の内心を暴くならもうちょっと早くして欲しかったんだけど!
クウに錬金術を指南する覚悟を見せるために響さんに全財産預けちゃったじゃん! やっべ! 俺、死んだかも!
ちなみにいまはリディアちゃんと触れ合っていないので、おくびにも出さず、内心で血の涙を流しながら覚悟を決める。
「わかった。じゃあ出て行くよ。ごめんね。リディアちゃんが覗いた本音は本物なんだ。俺はエッチでスケベで怠惰で欲張りな男でさ。クウに錬金術を指南したのだって自分のため。でも幼い女の子の大切な居場所を奪うほど落ちぶれてないつもり。だから、その、元気でね」
俺はリディアちゃんの頭を撫でながらできるかぎり優しい笑みを心がける。
あー、ちょっとカッコつけ過ぎだな。地味ヅラのくせにらしくないこと言っちゃって。本当はむちゃくちゃく残念なくせにさ。
クッソ、たしかにフツメンだけど、内心優良物件じゃん! なんでモテたいんだよちくしょう! 女の子もさ「男は顔じゃない。中身だ」って言うくせに全然俺のこと見つけてくれないじゃん! イチャイチャさせてよ! 柔肌を触らしてよ! 色んなとこ撫で撫でさせてよ! おっぱい触らしてよ! 揉ませてよ!
あっ、ヤバいって! リディアちゃんの頭を撫でながらこんな文句を呟いてたら——。
【リディア視点】
えっ、ちょっと待ちなさいよ。なにこれ——⁉︎
頭の中にこれまであーしたちに接してきたレオンの感情が——。
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