第70話【レオン視点】
どうもみなさんこんにちは。お説教はもう嫌だ、レオンです。
ようやく、ようやくです。ようやく桃源郷の手前まで来ましよ、ええ。
ちなみに現在俺と孤児たちは響さんの前で絶賛土下座中です。
なんと寮母長はまだ幼い彼女たちに俺の監視を言いつけていたらしく、それを守れなかったことで注意するという。
やめてよ! こんなのやめてよ響さん! みんなは何も悪くないんだよ⁉︎
というか、それを目の前で折檻混じりに知らされる俺の身にもなってよ!
「聞いてますかレオンさん⁉︎」
鬼おこじゃん。
「はい」
「貴方はいつもいつもそうやって——どういうつもりですか⁉︎」
混浴する。ただそれだけでよかったんです……。
慈悲深き寮母長が【
もちろんその元凶は俺。泣ける。
それからしばらくコンコンと説教が続き——それは一時間以上にも及んだ。
幼女にも容赦しない響さん。鬼の鑑である。かわいそうだからやめて欲しい。
とはいえ、俺も一流のドスケベだ。
ドすけべに関しては右に出るものはいないと自負している。ここまで来て湯けむりパラダイスを諦められることなどできようか、いいやできない!!!!!
途中、エリスたんやレベッカたんを庇いつつ、『どうやって風呂にありつくか』を練り上げていた。
「——というわけで今後、錬金術の発動は禁止です」
「……」
「いいですね?」
「はい!」
真紅色の瞳で睨みつける響さん。あかん、これはマジのやつですね。わかります。その一線は超えないよう注意深く貴女を観察してきた私はわかります。逆鱗だ。これ以上の錬金術発動は寮母長の逆鱗に触れてしまう。
控えてください
とはいえ、その反応に俺は内心黒い笑みを浮かべていた。
まだ笑うな……堪えるんだ…しかし。
甘い、甘いわ!!!! 帰ってくるのがあと一歩遅かったな響さん!
俺がクウに教えたのは《形質変化》だけにあらず。
《化学変化》を始めとする理学を叩き込んでいる! クウからは「よくわからないの!」と元気よく不安になる返事ではあったが、錬金術師としての天賦の才が覚醒し、すでに石鹸は完成!!!!!!!!!!!!!!!
ぶあーはっはっはっはっはっはっはっは!
これで孤児院は石鹸と女の子特有の甘い香りを漂わせた楽園となる!
お風呂? ああ、そっちも抜かりなどない。クウの《形質変化》により木材の浴槽(どちらかと言えば巨大な釜)が完成。当然この孤児院には水道なるものがないため(いずれ、クウに整備してもらう予定)近くの川から水を汲めるよう桶も作成済み。
幼女とはいえ女の子。一度お風呂を味わえば水汲みもそこまで苦と感じないことだろう。
あとは、レベッカたんの秘めた才覚——剣術により薪を調達するだけ。
だったのだが……。
響さんは株の上に置かれた斧と木材を一瞥し、こう告げた。
「まさか私に黙って薪を調達されていたのですか……?」
ギクリ。まずい、これはまずいですよ奥さん。一体どこの世界に幼女に斧を持たせて薪割りをさせる保護者がいる?
けど、違うんですよ! 俺だって幼い子にそんな重労働をさせるつもりなんてなかったんです。チカラ仕事は俺が全部やるつもりだったんです。
なのにレベッカたんがさ、「見ていられないわ!」みたいな感じで俺から斧を奪ったの!
だったら俺悪くないじゃん! ここはどんな手段を使ってでも誤魔化さなければ——、
「安心して響さん! 薪割りは私がやったわ! だから大丈夫よ」
うおい! なに暴露してくれてんねんレベッカたん!
チミ、バカすぎぃ! 何一つ安心できる要素がないじゃん!
さあ、お前の罪を数えろ?
一つ。混浴を企んでいることを直前まで隠し通すため、響さんとリディアちゃんが買い物に出かけているときに事に及んだこと。
(人はそれを確信犯と呼ぶ)
二つ。欲望塗れのドスケベ野郎が幼女の純情を利用して錬金術を指南したこと。
だめだ、言い訳のしようもない。
三つ。院長、脅威の無能。
魔術もダメ。錬金術もダメ。薪割りもロクにできない——できることといえば聖人ヅラしてロリヒモ光源氏計画を遂行することだけ。
俺は生きていていいのだろうか。
四つ。薪割りを幼女にさせてしまう。
五つ。それを本人からバラされてしまう。
クソッ、オーバーキルにも程がある!
「当然ですレベッカ! 非力なレオンさんにチカラ仕事をさせるなど言語道断です。当たり前のことで威張らない」
ぐあああああああああああああああああ!
寮母長の衝撃的な一言にマインドクラッシュする俺。
ちらりと視線を横にずらせば「……しゅん」と落ち込むレベッカたんの姿が。
非力なレオンさんにチカラ仕事をさせるなど言語道断です……?
幼女に薪割りをさせてしまったことに対する折檻ならいざ知らず、俺にそれをさせることの方が問題ですと⁉︎
まさか俺は響さんに男として見られていない……? 家畜か何かだと思っていらっしゃる? じゃないとここまで男の
……しゅるしゅるしゅる。
どこからともなく取り出してきた袋から剣を取り出す響さん。
ひょおっ⁉︎
突拍子のないその行動に俺と孤児院たちの目が点になる。
株の上に頭を置け、レオン、などと命令されるのだろうか? 嫌だァァァァァァァァ!
「——【鬼人化】」
そう呟くや否や、響さんの肌が赤褐色に染まっていき、やがて額から二本の角が生えてくる。文字通り、暴力的な美しさではあるのだが、「コォォ!」と口から吐き出される熱を帯びた息が怖すぎる。
骨も残しませんよ? とか言われるのだろうか? 嫌だァァァァァァァ!
やがて響さんは剣を構えて——、
「鬼流——〝
剣術名を呟くや否や、轟と強風が巻き起こる。背後から聞こえる斬撃の音に恐る恐る振り向くと、そこには大量の薪が宙から落下し、積み重なっていく。
一応、魔術師としての顔を持つ俺が推測するに、生えている木々を剣術と魔術の混合——超技巧【魔法剣】により薪にしたようである。
その光景に全身からドッと汗が吹き出す俺。
響さんはこうおっしゃっておられる。
「言いつけを守らないと貴方もこうなりますよ、と」
ひえっ⁉︎ もっ、もしかしてじゃなくても俺が結婚したい女性はヤベー女なんじゃ?
そんな失礼な思考がよぎったところで、響さんは【鬼人化】を解く。
……ドヤ顔に見えるのは俺だけだろうか。ちな、俺涙目。
クウ、エリス、レティファ、スピア、シオンは俺に抱きつき、身体を震わせる。もちろん俺もみんなを抱きしめ、ビクビク。レベッカたんだけ、キラキラ。尊敬するような眼差しで見つめている。どうやらヤベー幼女も紛れていたようだ。さすが内に剣術の才覚を秘めた女の子。
「……どう、でしょうか?」
どうでしょうか⁉︎ えっ、どうでしょうかだって⁉︎
あんな物騒な光景を見せつけて感想を求めてくるの⁉︎
しかも若干、期待しているのか、チラチラ俺に視線を送ってくる。
怒→喜に至る感情の経緯が謎すぎる! 凄まじい剣術を見せつけておいて、誇らしげにされましても!
「すっ、すごかったです……」
「! そうですか! ……ごほん。今後、チカラ仕事をされるときは必ず私に声をかけてください。いいですね?」
コクコクと首肯する俺。その反応に響さんは満足気に立ち去っていく。
たっ、助かった……! どうやら俺は九死に一生を得たようである。
俺はぷるぷると震える孤児たちと「響さんの逆鱗には触れてはならない」と固く誓い合った。
☆
というわけで、みなさんお待ちかね。入浴のお時間です!
孤児たちと一緒に桶で川の水を汲んだ俺は初等火魔術【火球】でお湯を作っていく。
理想は初等水魔術【水球】も発動できれば水を汲むという一手間なくなるんだが、魔力の欠乏は固く禁じられてしまった。
まあ、【火球】も初回だけ。薪がある以上、魔術なしでも火を起こせるだろう。その辺の環境整備は後日にすればいい。
「【火球】! 【火球】! 【火球】!」
と必死に唱える俺の頭の中はもちろん、
響さんと混浴! 響さんの湯上がり姿! 孤児たちの「響さん大きいー!」というきゃっきゃうふふ、黒曜石のような髪から漂う石鹸の香り、朱色に染まった躰……ぐふ。ぐふふ。あー、夢が広がるねえ!
と妄想し、油断していたときだった。
まるで激流に飲まれたように俺の思考がとある人物に漏れ出てしまう。
「……ふーん。やっぱそういうことだったんだ」
そこには俺の脚に触れたリディアちゃんがいた。
その瞳の奥には敵意と軽蔑、そして警戒の色が強く滲み出ていた。
【あとがき】
リディアちゃんが初めてレオンに接触したときになります
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