第69話【レオン視点】
——こんな世界、滅んでしまえばいいのに。
あっ、どうもみなさんこんにちは。センチメンタルレオンです。
誰か生きる意味を教えてください。
俺にとって全てだった横乳の感触。
それを失った俺は三日三晩寝込んだ。
頬と顎は痩せコケてしまい——体重は五キロ減。もちろん喉は何も通さない。
そんな院長の異変を心配してくれたのか。クウを始め、孤児のみんなは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
幼女の純情? アリですね。こんなどうしようもないダメ人間のことを本気で心配してくれる。みんな天使過ぎる。
このまま育ってくれたら「大丈夫? おっぱい揉む?」なんて励ましてくれるようになるんじゃ……。
こっ、こうしちゃいられない! 一刻も早く元気を取り戻さなければ!
ポジティブ思考は俺の数少ない——というか、唯一の長所。ハードモード過ぎる異世界で生き延びるための武器だ。
勃ち向かえレオン!
☆
というわけでやってきました裏山。
形質変化を高い次元で習得したクウは煉瓦の孤児院に屋根付きストーブを作り上げていた。この世界にも冬があり、これからの時期に重宝すること間違いなし。
というわけでストーブの必需品、薪の調達である。
神脳を持つ俺は寝込みながらある心理にたどり着いた。この孤児院で生活する幼女は間違いなく美人・美少女に育つ。
まさに才色兼備といえるだろう。
彼女たちに媚びろう。媚びて媚びて媚びろう。寮母長が横乳の感触をもう二度味合わせてくれないなら、「お揉みになられますか?」と提案してくれる女の子を育てればいいのである。
その第一歩として俺は彼女たちに風呂を提供する! やはりというか、お約束というか、異世界では風呂は貴族や王族の娯楽となっている。
なんと孤児のみんなは冷水に濡らした布で毎日身体を拭いている。
お湯に浸かることの気持ち良さを幼女たちが知ってしまったら——。
きっと大きくなった孤児はこう思うに違いない。
お風呂を教えてくれた院長のお背中を流したい、と。
うっひょおおおおおおおおおおおおおお!
はい、視えた! 視えました! 桃色天国が視えました! あまりに具体的な妄想なので謎の光や局部を隠す湯気までありありですよ!
さらにさらにこれだけはありません!
さすがの俺もまだ幼い彼女たちとの混浴は抵抗がある。
だからここで刷り込みだ。
成人した女は恩人の背中を流す、ジャパニーズ独自の文化『裸のお付き合い』についてこんこんとい言い聞かせ、いずれ来る未来を確定させる!
というわけで嬉々として木々を伐採していたのだが——、
「ぜーはー、ぜーはー」
「大丈夫ですかレオン様? 休憩された方が……」
とエリス。膝をついて、息を切らす俺に寄り添ってくれる。
「これ以上は身体に毒よレオンちゃん。エリスの言う通り休憩にしましょ」
続いてシオン。同じく心配そうな表情で俺を見つめてくる。
クウに作ってもらった斧に《
きっと現在の俺は滑稽だろう。
ドワーフの先祖帰りのクウに《形質変化》を伝授すれば魔力が欠乏し、気絶。
目が覚めたら錬金術を一瞬で幼女に追い抜かれて出番を失くし。
響さんの横乳の感触を奪われ、折檻されたあげく、三日三晩寝込んで頬と顎がコケ落ちる。
一応は魔術使いであるにも拘らず、太い木を切り倒すことすらままならない。
クソが! マジで無能すぐる!
誰か俺に生きる意味を教えてよ! 一体どこにカッコ良い要素があった⁉︎ もはやピエロじゃねえか!
あれ、ヤバくね? これ下手したら幼女全員、『院長マジ情けなさすぎる説』あるぞ!
ここらで木を刈れる院長を見せつけないと夢のお背中流しが! 夢の「大丈夫? おっぱい揉む?」が!
俺は欠陥だらけの肉体に鞭を打ち、立ち上がろうとする。
せめて大人の男の後ろ姿を見せておきたい。そんな下心だったのだが、聞こえてくるのは幼女たちの「もうやめて!」という悲痛な叫び。
それ、俺の台詞。
えっ、なに? もしかして俺が一生懸命になればなるほど幼女たちの院長に対する尊敬度が下落する感じ? いま、なんかすっごい金切り声だったよ⁉︎
ただでさえ使えないのに、また気絶されたらたまったもんじゃないとか幼女に思われてんの?
こっちがたまったもんじゃないんだけど?
男のプライドにかけてカッコいい姿を一つだけでも——。
俺が斧に手を伸ばしたときである。
「もういいわよレオン。あとは私たちに任せて」
先に斧を持ち上げたのはレベッカたんである。覚醒こそしていないが、剣術の才覚——それも剣聖に登り詰めることができる幼女。
寒気がした。
嫌な予感がこう、背筋からジワジワと。
この危機感。もし世界の外側から俺を覗いているヤツがいたらきっとわかってくれると思う。
院長、また出番を取られちまうぞ! 情けない姿をまた晒しちますぞって。
レベッカたん! レベッカたん! 返すんだ! 斧を……斧を返すんだ! もしもここでレベッカたんが木を切り落としてみせろ。
いくら純粋無垢な幼女たちといえど、俺が無能であることが露呈してしまう。ダメだ。それだけは絶対にダメだ!!!!!!!!!!
「レベッカ。斧を返すんだ」
うわっ! 自分でもビックリするぐらい低い声が出たぞ。
ポタポタと大粒の汗が俺の額を滑り落ち、地面を叩く。かつてここまで無能な異世界転生者がいただろうか。スライムという最弱なモンスターに転生したって最強だってのに。
どうして俺はここまで無力なんだ。おい女神! いつになったら主人公補正がかかるんだよ! えっ? 俺は主人公じゃない?
マジでクソじゃねえか!!!!!!!!!
恐る恐る孤児たちを見つめれば、皆、目に涙を浮かべ、悲痛のそれである。
うわ、幼女たちにドン引きされてんじゃねえか⁉︎
見ていられない、カッコ悪すぎてもう泣き叫びたいって顔してんじゃん! 泣きたいのは俺なんですけどぉぉぉぉぉ⁉︎
「レオンはここで休んでなさい——はああああああああああああああああああああ!」
裂帛と共に斧を振るうレベッカたん。
俺が切り倒そうとしてぜんっっっっぜん倒れなかった木から「ピキピキピキ……パカーンッ!!!!!!」と芯を捉えた心地良い音が裏山に響き渡る。
さすが剣術の才覚を秘めた幼女。たったひとスイングで巨大な木を切り落としてしまっていた。剣聖に登り詰める片鱗を垣間見た瞬間だ。
だが、しかし。
「なんだ。簡単じゃない」
チミ!!!!!! チミぃぃぃぃぃ!!!
なに犬の死体を蹴り飛ばしてんねん。そんな非人道的なことをして良いなんて誰が教えた⁉︎ レベッカたん! レベッカたん! キミには失望した! どうやら道徳の補習が必要なようだね!
「ブイ」
なに笑顔でピースしてんねん。大人の男がぜんっっっっぜん歯がたたなかった巨木を切り倒して、なんで笑顔でピースサインやねん。
「すごいのレベッカ」
「すごいですレベッカさん!」
「お手柄ですわレベッカ」
「すごいですねレベッカさん」
「……すごいじゃないレベッカ」
クウ、エリス、レティファ、スピア、シオンがレベッカを賞賛する。
あーあ。まーた鼻くそホジホジタイムじゃん。
いや、知ってた。知ってたよ。みんなを一目見た瞬間に化け物レベルの才覚を秘めているのは【天啓】で視えていたからさ。
けど、これはダメなんじゃない? ダメでしょ? あろうことか院長がかませになってんじゃん。レベッカたんの引き立て役になってんじゃん。こんな情けない男に「お背中流しますね」つっておっぱいを押し付けたくなる女なんていないでしょ?
なんでみんな俺からおっぱいを奪っていくん? なんでなん? 揉みたいだけじゃん。指の間にむにゅうって脂肪を挟みたいだけじゃん。俺にはそれすら高望みなん?
あかん。悲し過ぎる現実に眩暈が——。
気絶するほどではないにせよ、ふらふらと千鳥足になってしまう俺。
「レオンさん⁉︎ まさかまた無茶をされたんですか?」
響さん、貴方はなんちゅうタイミングで帰って来るんですか。こんなドンピシャなときに会うなんて狙っていたとしか思えませんよ?
「——お説教です!」
誰か生きる意味を教えてください。
☆
【神セブン視点(心情)】
レティファ『ああ、ああ……わたくしは本当に素晴らしい殿方に育てていただいて。魔力の欠乏は命に関わりますわ。なのにレオン様はクウの過去のために——この胸の高鳴りはなんですの? 胸が締め付けれますわ』
クウ『お父さん、いつもクウに優しくしてくれて嬉しいの! 大好きなの! だから頑張るの♪』
レベッカ『どうしてよ……どうして私たちのためにそこまで必死になれるのよ……そんな格好良いところを見せられちゃったら私も役に立ちたいじゃない!』
エリス『汗をかいたレオン様も素敵です………ね。介添えするふりをして肩と手に触れてもバレないでしょうか。あっ、かっ、硬いです! やっぱり男性なんですね……できることならレオン様を癒して差し上げたいのですが……はぁ……はぁ』
スピア『レオンさん、また無理をされているじゃないですか! だっ、ダメですよ! 魔力を欠乏させないよう響さんにキツく言い付けられているんですよ⁉︎ あっ、あわわ……』
シオン『レオンちゃんが私たちのために傷ついてるのに……どうして私はただ黙って見守ることしかできないの⁉︎ いつになったらレオンちゃんのことを養ってあげられるの⁉︎』
【神セブン視点(心情)
レベッカがレオンの代わりに巨木を切り倒したとき】
(これでレオン/様/さん/お父さんに無理をさせなくて済む!)
【響視点】
レオンさんがまた無茶をされていらっしゃるじゃないですか……!
私は咎めるように孤児のみんなに視線を送ります。
ここ最近、レオンさんの徳は度を過ぎており、魔力欠乏による気絶、さらに三日三晩寝込むなど明らかに無理がたたっています。
私は幼い彼女たちを招集し、レオンさんの魔力が一般の魔術師と比較して四分の一程度しかないことを打ちあけ、身体を大事にしてもらうよう、みんなからも注意して欲しいことをお願いします。
もはやレオンさんはお一人だけの身体じゃなく、この孤児院全員のお身体です。
なのに……!
私は娘たちに説教するのは筋違いだとわかっておきながらも、彼女たちの目を見据え、こう告げました。
「——お説教です!」
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