第66話【レオン視点】

 幼女が——クウが過去を乗り越えようとしてんのにさ、ひよってるやついる?

 いねえよな?

 どうもみなさんこんにちは。変態ドスケベチキン、レオンです。ぶっちゃけ、ひよってます。

 いや、そりゃ慎重にもなるだろ。クウは錬金術が原因で両親に捨てられたんだ。ここで上手く行かなかったなら小さな女の子の心にもっと深い傷を負わせてしまうかもしれない。

 今後の人生を大きく左右する瞬間——それが万年Eランクのレオンさんの手にかかっているという。責任重大にもほどがある。


 ……よし。とにかく褒めて伸ばそう。焦らず、楽しさ最優先だ。

 実験形式を採用した俺は魔法金属『キューブ』を取り出す。嗅覚が鋭く、ドワーフの先祖帰りであるクウは、すぐに正体に気がついたらしく頭上に狐耳、お尻に狐の尻尾が生えてくる。


 うひょおおおおおおおおおおおおおおお!

 モフモフ幼女やんけ!

 クウは狐耳、狐のしっぽという『先祖帰りモード』の制御コントロールが上手く行かず、感情の起伏が激しいときにひょこっと飛び出す。


 嬉しいときや楽しいときの感情表現だと俺は捉えている。

 一方のクウは過去のトラウマからドワーフであることを隠したい女の子。耳先が黒い狐耳を手で引っ込めようとしていた。


「うう……恥ずかしい、なの」


 可愛い。幼女にモフモフという最強の組み合わせにも拘らず、そこに恥じらいが混じるという。あざとい。実にあざとい。しかもこれが養殖ではなく天然でやっているというところもポイントが高い。


 異世界に転生してからというもの、定番の一つであるモフモフを味わってこなかった俺の腕が疼く。

 

 くっ、右手が勝手に……!

 俺はどうしようもない変態ドスケベ院長だが、さすがに幼女で興奮するようなことはない。だからこそレオン七つ道具の一つ『撫でる』によるボディタッチは頭と髪だけだと決めている。

 俺のなでなでは気持ち良く、幼女とはいえレディのみんなも許容してくれている。

 いずれ俺はこの『撫でる』を『尻撫で』に進化させるつもりでいる。その頃には神セブンたちも美少女・美人に成長していることだろう。ぐへへ、夢が広がるね。レオンまいっちんぐ。


 いや、落ちけつ……! バーロ! 落ち着け……! 時と場所を弁えろ変態ドスケべ。現在はクウの一生がかかっている大事な場面だろうが! 何がレオン七つ道具『尻を撫でる』だ。俺ってやつは本当にどうしようもない変態野郎だな。


「恥ずかしがることはないさ。実に可愛らしい狐耳だ」


 気がつけば俺はクウの頭を撫でながら、狐耳をモフっていた。

 悔しい。YESロリータNOタッチを信条としてきたのに、触れたいという欲を抑えきれず撫でてしまった。モフモフには勝てなかったよ……うっぴょおおおおおおおおおおおお!


 すごい! すごいよクウたん! ふわふわの綿毛のようだ。レオン病みつきになっちゃう。

 これって成長したらすごいことになるんじゃないだろうか。

 ロリヒモ光源氏計画を実行に移している以上、俺は第二、三期生と——欲を言えば二十、三十期生と続けていくつもりだ。特に渇望しているのはデザイン・装飾に才覚を持つ娘である。『狐耳、狐の尻尾』+『巫女服』……ぐはっ、破壊力があり過ぎる! そこに加えてもし巨乳なんて凶器が入ってみろ。俺は死ねる……!

 

 ハッ。いかん。また俺は妄想世界に落ちていたか?

 クソッ、これじゃ理性が働かない変態ドスケベ院長だ。それはまずい。こんなんもう性犯罪者予備軍じゃねえか! 詰所の世話になるのも時間の問題かもしれん。


 モフモフモフモフモフモフモフモフモフ。


「あっ……そこは……あっ♡なの」

 あかん。抜け出せん。モフ沼にハマってしまった。

 しかも相手は幼女。頬を紅潮させ、内股になりながらもじもじするクウ。さすがにこれ以上はまずい気がする。


「恥ずかしいけどお父さんにならクウの全部を捧げられるの」


 アァァァァァァァァァァァァウト!

 バッターチェンジ! レオン、ゲームセット!!!!

 クウの爆弾発言によりようやく我に帰ることができた俺はクウの狐耳から手を離す。


 あっぶねええええええええええええええ!

 こんなところを俺を信用して任せてくれた響さんに見られてみろ。一発退場だ!

 

「はぁ……はぁ」と熱を帯び、艶っぽい息を吐くクウを横目に俺は今度こそ気持ちを切り替える。いつの間にか明鏡止水のような気分だ。


「これから私はクウに実験をしてもらおうと思っている」

「実験……」

「だが、約束する。上手く行かなかったり失敗しても私はクウにがっかりなんてしない」

「お父さん……」

「だからクウも肩を張らずに遊びだと思って欲しいんだ。そういう感覚で一緒に一喜一憂していきたい」


 と実験が失敗しても気にしないことを明言しつつ、錬金術式をチョークで書き込んでいく。陣の中心に魔法金属の『キューブ』を置き——想像イメジネーションを固めていく。


「《形質変化》」

 

 立方体だった『キューブ』は熱に溶かされたように固形から液体上に変化し、火花と紫電をバチバチと散らせる。


 この世界の錬金術はアイテムと呼ばれるものを組み合わせ、新たなものを生み出すのが主流となっている。俺が魔術大学校時代に聞いた講義によれば、錬金術は天賦の才を必要とし、ごく一部の限られた存在しか扱えないらしい。


 石鹸を例にすると、『ストの実』『ケンの実』という地球では存在しなかった木の実を錬成することで完成するらしい。


 科学ガン無視の魔術が存在している弊害がまさに生じている。つまり、理学の発達が異常にお粗末。


 あれ、じゃあ金持ちになれたんじゃね? と思うじゃん。俺も「はい、現代知識チート来ました。ずっちょ俺のターン」と思っていた時期がありました。

 詳細は割愛するとして、俺は錬金術において致命的な欠陥があり、やはり他人に寄生することしかできない無能なんだが——、


「すごいの!!!!! クウの銅像なの!」

 

 魔法金属『キューブ』は鉄、銅、銀、金、プラチナに加えて、少量のオリハルコン、ミスリル、アダマンタイト、ヒヒイロカネが含まれている。

 なので、掌サイズのキューブにも拘らず、銅なら巨大な像に形質変化させることもできる。


 この世界の錬金術はとにかく新たなアイテムの創造、需要のあるアイテムの錬成ばかり注目されて、形質変化を始め、色んなことが軽視されている傾向がある。


 金の匂いしかしないそれに気が付いた俺ではあるのだが……、


「お父さん! どうしたのお父さん⁉︎ すごい汗なの⁉︎ お父さん!!!!!」


 額から大粒の汗が床を叩く。たぶん背中も汗でびっしょりだろう。ごっそり魔力も持っていかれ、魔力が欠乏。はぁ……はぁ……マジでムカつくぜ。


 なんで形質を変化させたぐらいで魔力を根こそぎ消費する上に体力まで持っていかれなあかんねん。マジで辛すぎだろ俺の異世界転生。


「レオンさん! どうされたんですかレオンさん⁉︎」


 クウの悲鳴を帯びた呼びかけに気が付いた響さんが駆けつけてきたところで俺の意識は、途絶えてしまう。


 まさか、このときの情けなさ過ぎる貧弱院長の失態がとてつもない誤解を生むなんて思せずに、だ。

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