第64話【レオン視点】

 お、おおお落ち着け……!

 錬金術は金のなる木。ロリヒモ光源氏スパイラル計画の要! 失うわけにはいかない。

 それに指南しない限り、響さんの湯上り姿__バスタオル一枚の姿、身体を拭かれるのを嫌がって飛び出す孤児を必死に追いかけ俺とバッタリと遭遇__巻いていたタオルがハラリ__ぶはっ、エロすぐる……!__を諦めるということだ。

 ……論破だ。論破するしかない。エロチャンネル開設のレオユキになるしかない。

 脳内でバチバチと細胞が発火していく。まず色は要らない……。

 崇高な思考をするため、視界から色が失われていく。あっという間にモノクロの世界である。深い、深い思考の海にダイブしていく感覚。嗅覚、味覚、触覚も不要だ。

 肌色多めの響さんを見たいという一心だけで五感を次々に切っていく俺。

 研ぎ澄まされていくのがわかる__! これならイケる__! 

 今こそ俺は社会人が嫌いな説教ベスト3にランクインするであろう奥義__【正論攻め】を発動する。これは発動者は気持ち良くなり、受けた側は不快になる必殺技である。

 俺も前世時代、なんど上司にこれをやられたことか。お金を稼ぐのは大変なこと(だから働け残業しろ)、しんどいのは皆同じ(だから文句を言わずに働け。会社に忠誠を捧げろ)など。正論ってマジ卑怯だよね。使うヤツはとんでもないロクでなしだよ、まったく!←ブーメラン!!


「響さん。この孤児院に足りないものは何かわかりますか」

 俺は優しく語りかけるように質問する。

 答えは肌色です。

「足りないもの……ですか。すみません。すぐには__」

「__答えは将来性です」

「っ!」

 俺の正論に響さんは目をハッとさせる。

 この孤児院の執務&経営は俺が担当している。むろん俺はどこの馬の骨ともわからない男なので金庫番は響さんがやっており、孤児院の状況は共有されている。

 この孤児院は補助金でなんとか回っている__と言っても毎年赤字が出ている状況。このまま何の対策もしないままだと廃墟と化すのも時間の問題だろう。


 端的にこの孤児院はお金がないのだ。

「これはクウに限らないことですが、ここにいる孤児たちは皆、十年後、成人を迎えます」

 明らかに響さんの動揺が見て取れる俺はここぞとばかりに猛プッシュ。不要な五感を切ったことで、今の俺はゾーン状態。

 たとえどのような反論が来ようとも容易く論破してしまうだろう。


 俺はさらにダメ押しの覚悟を見せつける。

 __ジャラリ。

 金貨入りの巾着を机下から取り出すや否や、頭上に「?」を浮かべる響さん。

 

 俺は波の立たない水面のような心境__明鏡止水で続ける。

「あの……これは?」

「私の全財産です」

「えっ?」

「孤児院の将来性__などと聴こえの良い言葉を発してしまいましたからね。私も覚悟を見せなければ、と思いまして」

「まっ、待ってくださいレオンさん! こんなの受け取れません!」


「では今月の支払いはどうするんですか?」

「それは……!」


 またしても俺の正論に言葉が詰まる響さん。いくらゾーン状態とはいえ、正論を振り翳して逃げ場を潰していくのは胸が痛い。

 錬金術を指南させると言え響……! 死んでしまうぞ……俺のメンタルが! 良心が!

 まさか結婚したい愛しい女性を言葉でねじ伏せるのがこんなに不快だとは思わなかったぜ。よもやよもやだ。

 だが、俺は心を鬼にする。湯上りの__浴衣の響さんをいつか拝むその日のために!


「信じられないかもしれませんが、私はこの孤児院に骨を埋めるつもりです」

 

 これは本音。この程度の覚悟もなしにゲス極まりない計画を遂行できるわけがない。

 ロリヒモ光源氏計画とはそういう賭けだ。一世一代の大勝負。美少女や美人から一切チヤホヤされたことのない俺が楽園に招聘されるかもしれない唯一のチケット。

 元金の全財産が溶けることが怖くて、イチャラブハーレムラブラブチュッチュ性活を夢見ることができようか。いいや、できない!

 歩く生殖器(ただし、両思い)に私はなりたい。レオを。


 男の覚悟を目の前にした響さんは大変申し訳なさそうに俺の財産を受け取り、

「申し訳ございません。助かります……ですが、この借りは必ずお返しいたします」

 じゃあ結婚してください。エッチさせてください。躰で返してくださっても全然いいんですよ? むしろガン望み、みたいな?

 いやまあ、空気的にムリなんで口が裂けても言えませんけど。というか、そんなことをこの流れで言ってみろ。

 男っていつもそうですね……! と軽蔑されかねない。タイプど真ん中とはいえ、弱味に漬け込むのは、気が引ける。俺の息子もしゅん太郎だ。

 響さんの方から「抱かせろ」と命令されるのは大歓迎なんですけどね。


 響さんは俺の財産を預かると、とても大切そうに抱える。それはまるで我が子のように慈しむように。

 ……お金、大切だよね。響さんも諭吉や栄一が好きなタイプな女性なのかな? 個人的には貧乏でも「寒いですけど、くっ付けば温かいですよ、ほら」みたいに、好きな人となら悪環境でも幸せを感じてくれたら嬉しいんだけど。


「レオンさんがここまでしてくれたのですから、私も覚悟を固めなければいけませんね」

 視線を落とした響さんはやがて決意に満ちた表情で俺の顔を見据えてくる。

 もっ、もしかして躰で恩を返す覚悟でしょうか。だっ、大歓迎です! 俺と一緒に永遠に愛し合いましょう!


「__クウにはトラウマがあるんです」

 __ん? んんんん?

 あれ、ちょっ、待__あれれ? なんか急に空気がシリアスな感じになってない?

 レオン知ってる! これ、なんか思っていたのとは違う方に話が転ぶときのやつだ!

 全財産をベットした後に新たなルールの提示って反則じゃない⁉︎


「彼女はドワーフの先祖帰りなんです。それに期待した両親は彼女に錬金術を強要した。けれど、魔術大学校を卒業しているレオンさんならご存知のとおり、錬金術はごく一部の人間にしか扱えない高難易度の業。クウは今より幼き頃に何度も何度も失敗し__そしてそれに失望した両親は彼女のことを捨てました」


 あかんあかんあかん!!!!!!!!!!

 マジモンのトラウマやないか、それ! マジか? マジですか⁉︎ そんな悲しい過去があるなんてふつう思わへんやん。言うといてやそんなんあるんやったら。響さんマジハンパないって!


 響さんにはユニークスキル【天啓】のことをそれとなく伝え終えている。俺には他人の才覚を見抜き、それを叩き上げることができる__といった感じだ。

 俺の「クウに錬金術を指南したい」という真意はなんとなく理解しているだろう。

 

 だが、クウにそんな暗い過去があるなら話は変わってくる。俺は変態ドスケベ銭ゲバ院長のクズ野郎だが、畜生じゃない。

 折り紙の鶴だけで全肯定してくれる幼女たちを悲しませることは断じてしたくない。

 いや、美人に育て上げ、寄付を募ってにゃんにゃんしたいヤツが都合の良いことを言っている自覚はあるが、それにしたって、無理矢理はいくない……!

 今まで俺は女の子には見向きもされなかった存在だ。そんな俺の自己承認欲を初めて満たしてくれる存在__それがここの孤児たち。彼女たちの涙を見るぐらいなら【天啓】奴隷ハーレムによる第二プランに移行するつもりだった。

 しかし、俺の全財産は響さんの腕の中。第一プランに全賭けしてしまった状態。カッコつけたい女性の前で今さら「あの……その、やっぱりお金ー、返してもらえないでしょうか」なんて言えるわけがない! カッコ悪すぎる!


 なんということでしょう! 俺はたった一瞬で全財産を失い、さらにスペアの計画までもパー。さらにさらにこれから俺にはクウのトラウマを抉りかねない『指南』が待っているという……。

 ……はぁ……はぁ……レオンさんっ! レオンさんっ!! レオンさぁぁぁぁっん!

 俺の脳内でもう一人の俺が心配そうに声をかけてくる。

 心の鬼が「聖人になれ、レオン」と悪魔の提案を持ちかけてくる。

 幼女を己好みの美人・美少女に育て上げ、ヒモになりつつ、にゃんにゃんまでしてもらう。そんなの無理なんだよ、理解できない表情で語りかけてくる。

 俺はすでに満身創痍だ。心の中の俺は吐血し、片目は潰れ、内臓は機能していない。呼吸を整える。

 心を燃やせ__! 俺は俺の__石けんの匂いを充満させた響さんの湯上りを拝む責務を全うする!!!!!!

 ゲスの呼吸、玖の型、奥義__

 

 __土下座!!!!!!!!!!!!!!


「私を信じクウを任していただけませんか」

「……はい。よろしく、お願いしますレオンさん」

 勢いのまま先走っちゃったけど、変態ドスケベ院長に幼女のトラウマを克服させることなんてできるのか⁉︎ 誰か助けて!!!!!!!


 ☆


【響視点】

 レオンさん……貴方という人は……!

 (↑感動し、聖人を前にしたときのような感情)

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