第49話【レオン視点】

 商会に転移した俺は美しく成長したシオンを一目見て彼女がまだ幼女だった頃を思い出していた。


 ☆


「第一回リバーシ選手権を開幕する」

 俺の宣言を皮切りにわぁーっと駆け寄ってくる神セブン。

 異世界人ならではの遊びは娯楽が少ない孤児たちにとっても楽しめるらしく、毎回好評なのである。

 折り紙で鶴や王冠を作ってあげただけでめっちゃ立ててくれんの。もう俺、ロリコンでいいや。

 面白そうなことをまた院長が言っていると思ったのだろう。いつもは引っ込めている狐耳と尻尾をぽんっと生やして俺に飛び乗ってくるクウ。先祖返りしたドワーフ。

「お父さんと遊べるの! 嬉しいなの!」 

 うっは! もふもふ! クウちゃんもふもふ!

 今はまだつるぺたすとーんのクウだが、大人になったら必ず巫女服を着させようと俺は心に固く誓っている。

 狐巫女。もはや定番中の定番だろう。

 悲しむべきは、巫女服が手に入らないことである。巫女――神霊に奉仕する存在はこの世界にも存在するものの、それらが市場に出回っていないのである。

 これすなわちこの世界、コスプレという概念が浸透していないことを意味するなり。

 うっは! 金の匂いがする! 

 そもそも男尊女卑の風潮が残るこの世界は女性がオシャレすることを良しとしない傾向がある。とんでもない!

 購買意欲は女性の方が圧倒的に高いのである。ましてや、こちらがお願いするまでもなく、可愛い女の子がさらに可愛くなろうと自主的に盛ってくれるのである。

 正直に言えば、女性を押さえつけるなどとんでもないわけで。

 そもそも女性がいなければ男なんてちっぽけな存在に過ぎない。誰のおかげでうまれてこれたと思っているのか。

 レティファが女王に上り詰めた暁にはぜひ女性をどんどん抜擢する国作りを進めて欲しい。

 現状、化粧品などに手を出せるのは一部の貴族だけ。おそらく商人たちも気がついてはいるだろう。国が改革に踏み込めばまだまだ儲けられそうだ、と。

 そのためには『商売』の才能をつい先日覚醒したシオンが鍵を握ると言っていい。

 このリバーシ選手権は彼女の知能をより発達させるための余興。ふへはははは! もっと高みへ! もっと賢くなるのだ神セブン! そしていつか十倍、百倍の寄付で俺を太パイプ持ちのヒキニートにさせてくれ!

 そのためなら俺はなんでもしようではないか。君たちが才能を発揮し、グングン健やかに育つためなら、こんな頭、いくらでも下げてやる! 

 そんなことを考えながらニヤニヤする俺はさらに次の展開も思案する。

 俺が魔術大学校に通っていたときに王都でその名を知らないレオモンド商会の令嬢と顔見知りになっている。

 レオン七つ道具『土下座』を駆使すればレオモンド商会代表にシオンを弟子入りさせることも不可能じゃない。

 ただし、王都という魔窟で常に業界トップを爆走し続ける商会への弟子入りだ。

 あらゆる面においてシオンの魅力を叩き上げておく必要がある。

 もちろん無理やりはいくない。シオンが心底望むなら、俺の欲望のためにも全力を尽くそう。

 大して好きでもない習い事ほど上達しないものはない。嫌々や義務感でやるものほどのめり込むはできない。それは俺自身、嫌というほど痛感してきた。

 商売という才能こそあれど、シオンが別にやりたいことがあるならばそちら優先である。

 その方が最終的には商売の才能と相まって大金が転がり込んでくる可能性が高い。

 ゲス野郎?

 ゲスで結構、コケコッコー! 全ては俺に無双できるチートを授けなかった女神が悪い! なんだよ【天啓】って! マジ使い道がねえじゃねえか!

「リバーシってなんなのレオン」

 とレベッカ。

 もちろん、ルール説明をしようとは思うんだけど……ごめんねレベッカたん。君はおそらく一回戦敗退、良くても二回戦敗退だ。

 これは脳筋が活躍できる遊びじゃないんだ。ごめんね。でも安心して欲しい。人にはそれぞれ得手不得手というものがある。

 得意なことがあれば、不得意なこともある。当然だ。人間だもの。

 むしろレベッカたんは『剣術』という私TUEEEEできる才能があるんだから羨ましいぐらいだ。

 胸に手を当てて考えてごらん。俺の長所でどこよ。才能どこよ! こちとら他力本願でしか生きられないヒモだよ? 剣術、商売、創作、魔術、法医術、錬金術の才能はなし。平民、地味ヅラ。身分による特権もなし。

 できることといえば幼女に媚を売りまくって捨てないでくださいと必死に嘆願することのみ。なんなん。前世で女性をめちゃくちゃ泣かせてたのか? そんな大罪を犯した記憶なんて全然ねえぞ! 童貞だったじゃねえか! ちくしょう! やっぱり叛逆だ。いつになったら人生で三度訪れるモテ期が来るんだ! このままじゃ神殺しの異名がつくのも時間の問題だぞ!

「リバーシというのは――」

 レベッカたんのナイスアシストに便乗して懇切丁寧に説明する俺。

 リバーシ――オセロはとにかく簡単である。プレイヤーが交互に石を置いていき、裏返していき、最終的に多く取った方の勝利。

 シンプルでありながら奥が深く、その時々で多く裏返すことができる一手が最良とは限らないところがミソである。

 まさしく先を読むチカラ、先見の明が試され、培われる頭脳ゲーム。

 娯楽が少ない孤児院に売ってつけだ。

 ここでぶっちゃけるとこの大会はシオンのためだけに開催していると言っても過言じゃない。これまで次々に周囲の孤児たちが才能を発揮していくところを目の前にしてきたのだ。ようやく商売というそれが開花した今、彼女に花を持たせてやりたいというのが、親心というものだ。

 当初こそ寄生先を自ら育てる算段だったものの、無条件で好意と敬意を寄せてくれた彼女たちに愛着や愛情が芽生えるのは当然である。

 変態どスケベのゲス院長とはいえ、人の心を捨てたわけじゃない。

 まあ……レティファは王都に帰ると言い出すし、レベッカたんはセクハラから守る剣になるとか、早すぎる反抗期を迎えたわけだけど、それはそれ。これはこれ、だ。

「へえ、すごく面白そうなゲームですね、レオンさん」

 とスピア。すごい。幼女なのにすでにあざといとかどういうこと⁉︎ 

 人差し指を頬に当て、考えながら首を傾げているだけなのに!

 スピアちゃんは将来、思わせぶりな言動で世の中の男子たちを絶望に叩きつける魔性の女の子――小悪魔になりそうだ。

 たぶん、いや、間違いなく毛先にパーマとかかけるに違いない。

 いずれ美容室などにも手広く進出しようと考えているんだけど、スピアちゃんが色んな意味で一番ハマりそう。

 ……大きくなったら俺も弄ばれるのかな? 悪くない気はする。

「どうせまたロクでもないこと企んでるんでしょ? 本当、男ってバカなんだから」

 と口では言っておきながら興味津々のリディアちゃん。ぺろぺろしてあげよっか?

「結構よ! レディの身体を舐めたいとかあんたマジでバカじゃないの!」

 俺の腕にピタッとくっ付いていたリディアちゃんが顔を真っ赤にして勢いよく離れる。

 ここでリディアちゃん攻略法について補足しておこうと思う。彼女は触れた対象の胸中を覗き見ることができる異能の持ち主だ。

 ロリヒモ光源氏スパイラル計画というとんでもないクズ計画と本心を知っている人物でもある。

 しかし、リディアちゃんの読んだ思考が本当に考えていたことなのか、周囲に証明する術はない。すなわち俺が変態どスケベにふさわしいことを妄想していても外ズラを真摯にしておけば他のみんなは『また始まった。リディアちゃんの院長イジリ』となるわけだ。

 ふはははは! 内心を読まれたぐらいで美少女のヒモを諦めるレオンではないわ! 

「詳しく聞かせていただけますのリディア」

 あかん。レティファがおった。最近俺のことを裏でかぎ回っている王女さんがおった。

 まずい……! 策士策に溺れるとはこのことか。無念。

「べっ、別になんでもないわよ」

 リディアちゃん! リディアちゃあああああああああああああああああああああああ!

 ただでさえ俺にダダ甘なのに、空気まで読めるなんて! 大好き! 俺をおぎゃらせてくれる幼女リディアちゃん大好き!!!!!

 愛してる!

「あっ、愛して――ばっ、バカ! いいからさっと説明を再会させないよ」

 直球に弱いリディアちゃん。これが俺が新たに編み出した邪念セクハラ! これをやられた相手はツンデレになる。

 さらにここで神セブンのみんなのやる気を鼓舞するため、とっておきの提案をする。

「ルール説明は以上。対戦形式はトーナメント制。クジで対戦相手を決めることにしよう。優勝者にはなんでも一つお願いごとを聞いてあげよう」

 その言葉に最も速く反応したのは神セブン――ではなく、なんと鬼の響さんである。

 さすが元殺人鬼。凄まじい反射神経だ。

「なっ、なんでもいいのですか⁉︎」

「「「「「「「⁉︎」」」」」」」

 俺の提案よりもそれに食いついた響さんに驚く神セブンたち。

 そりゃそうだろう。歳上のお姉さんがなに参加しようとしてんねん。いや、物珍しいのはわかるよ? リバーシなんてなかったんだよね? だからまあ、そっちに興味を持つのは百歩譲って理解できますよ?

 けど、なんでもの方に食いつきますかね普通。

 まさか――、

「本当になんでもいいんですか?」

 なに目をキラキラさせてねん。あれか、優勝した暁には院長クビ、みたいな?

 響さんの承諾を待たない間にシオンを覚醒させたことを根に持って――。

 ――ダンッ!

 響さんのやる気に潜む真意を深読みしていると、神セブンのみんが勢いよく立ち上がる。

 えっ、ちょっ、なにっ……⁉︎ みんなしてどうしたの! なんで急に対抗心燃やしてんの⁉︎

 何する気⁉︎ みんな俺に何させる気?

「レオンちゃんは心配しなくても大丈夫。勝つのは私だから」

「自信満々ねシオン。ついこの前まで落ち込んでいた子と同一人物に見えないんだけど」

 レベッカたん。煽っちゃだめ! それフラグ! 負けフラグビンビンだよ!

「えへへ。言質は取りましたからね」

 スピアちゃん⁉︎

「優勝はクウのものなの。勝ってまたおとうさんと色々錬成するの、なの!」

「じゃあ私はレオンと一緒にダンジョンに潜るわ」

 レベッカ。君が俺を殺す気だということはわかった。

「けっ、ケンカはダメですよ……はぁ……はぁ……」

 エリスたん? チミ、なんで息上がってるん? 何考えてんねんほんま。

「なんでもいいのでして? ふふふ。これは王都に戻る手間が省けますわ」

 レティファ。さては君、俺を追放しようとしてるな? というか王都に戻ってなにしようとしてんだよ。君にはがっかりだよ! 土下座ならいくらでもするから、死刑だけは赦してくれる? 美少女のヒモになってあわよくばにゃんにゃんしたいだけだったんです。

「ちょっ、レティファ! 何考えてんのよ! そんなのダメに決まってんでしょ!」

 レティファに触れたリディアちゃんの血相が変わる。なにを考えていたんだろう。怖くて聞けない。

「第一回リバーシ選手権、私も参加していいですよねレオンさん?」

 鬼! 響さんの鬼! いや、鬼だけどこの鬼畜! そもそも幼女たちに頭脳戦を挑もうなんて大人気ないですよ! 

 ええい、ままよ! こうなりゃ全力でシオンを応援しよう。次点はリディアちゃんだ!

 間違ってもクビと追放命令を下そうとしている響さんとレティファはダメだ。

 レベッカとクウは申し訳が完敗確定。ダークホースはエリスか。呼吸が乱れた原因がわからない以上、警戒は必要か。

 クソッ! 俺はただ幼女たちと楽しく遊びながら将来ぶっ太いパイプ――大商人を育てようとしてだけなのに! いつの間にかレオン追放の危機に瀕したデスゲームになってんじゃねえか⁉︎

 最も警戒すべきはレティファか。人身掌握に長け、思考能力の高さは神セブンの中でも随一。

 いいだろうリバーシだけに白黒つけようじゃないか! 負けるなシオン! 不届き者を蹴散らかしてしまえ! やっちゃえ狂戦士シオン

 俺をよそになぜかめちゃくちゃやる気の神セブン+鬼をよそにクジの結果を発表する。


 一回戦は、


 響さんVSレベッカ

 レティファVSクウ

 エリスVSシオン

 リディアVSスピア


 俺の予想は、

 ○響さんVS●レベッカ

 ○レティファVS●クウ

 ●エリスVS○シオン

 ○リディアVS●スピア


 がんばれー! 負けるなシオン、リディアちゃん! くそ、一体誰がリバーシに院長の命運がかかることになるなんて予想できたってんだ!

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