第12話【レオン視点】
第一期生――神セブンの卒院が決まってからというもの、俺は内心でワクワクしていた。
いよいよだ。いよいよロリヒモ光源氏スパイラル計画が始動する。
長かった。本当に長かった。
待ちに待ったセミリタイア。口を開けていれば勝手に餌が落ちてくる生活まであと少し。
そんな俺とは対照的にここから巣立つ孤児院のみんなはどこか陰を含んでいた。
おかげでみんなが稼いだ大金でパーッと豪華な祝いの席を用意することが躊躇われ、ウキウキ気分を表に出すこともできない。
……高級ステーキに海の幸。貴族しか口にすることを許されない甘味。
美少女が稼いだお金で美味しいものを食べようと考えた途端、このありさまである。
まるで牽制されているような雰囲気。険悪な空気になっていた。
その原因に心当たりがない俺はジッちゃんの名にかけて推理を始める。
見た目は青年。頭脳はオヤジ。その名は名探偵どスケベとは俺のことである。
俺と離れるのが嫌――という線はまずないだろう。
たしかに彼女たちの父であり、師という立場ではある。
だが天賦の才が発揮できる環境を捨ててまで一緒に居たいと問われれば当然ノーだろう。悲しいがそれが現実だ。
俺が逆の立場なら恩を感じながらも鳥かごから羽ばたくことを選ぶ。えっ、なにそれ俺カッコいい。
王都には一流が集う。
そんな場所で才覚を発揮し、第一人者となれるにも拘らず、この小さな孤児院でにゃんにゃん――だらしない性生活を送りたくはないだろう。
孤児院から巣立ちたくない、というのはまず考えられない。
濃厚なのは俺ではなく響さんとの別れか。彼女の母性はハードボイルドの俺をおぎゃらせるほど。
まさしく圧倒的母性。俺もなんどその豊満な、胸に飛び込みたいと考えたがわからない。谷間に顔を埋めるのが俺の夢だ。
しかし、いくら響さんとの別れが寂しいからと言って王都を諦めるだけの理由にはならない――と思う。
さすがにそれはマザコン、シスコンの域を出ている。
いくら俺が娘たちの仕送りで生活する寄生虫でも、一応は父親だ。
可愛い子には旅をさせよ、ともいう。
巣立ってもらわないと俺のセミリタイア生活が成り立たないことを抜きにしても、彼女たちは活躍できる場所にいるべきだ。
えっ? 俺?
俺は異世界転生者にも拘らず、万年Eランクだから。魔術師養成機関、冒険者、商人、鍛冶師、ありとあらゆる可能性を模索したけど、どれも中途半端。良くて中の下が限界。泣ける。
というわけで本当は高級食品や嗜好品を存分に堪能したかった俺は目から血が出るほど我慢しながら、まだ貧しかった頃、みんなの誕生日パーティでよくやった手作りの輪っかを作ることにした。
誤解されがちだが、俺はみんなが稼いでくれた大金にはよほどの理由がない限り手をつけていない。
娼館などもっての外。
それは俺が聖人――などではなく、響さんに嫌われたくないからである。
娘が稼いだお金で父親が女を買う。
言うまでもなく軽蔑ものである。
おかげで城が建つほどのお金を預かっておきながら、さほど昔と変わらない生活である。
ぱあーっと散財できるのは孤児院の子たちの誕生日を祝うときぐらいである。
お別れ会で美味しいものをたらふく食べようという俺の計画が台無しである。
いや、待てよ。
俺は顎に指を乗せて熟考する。
こうは考えられないだろうか。
レティファは人身掌握に長けた少女だ。そんな彼女がわざわざ俺のところに来て「巣立ちたくない」と主張してきた。
ちょ待てよ! とツッコミたくなる俺の本心も見透かしていたんではないだろうか。
なにせ才女の寄付で悠々自適の生活を送ることは彼女がまだ幼女だった頃からの夢である。
さすがの俺も居候は看過できない。
むろん彼女たちが稼いだ大金を貢いでくれるなら話は別だ。当初の計画とは違うがヒモ生活を送ることができるだろう。
彼女たちがその才覚を存分に発揮できないことに目をつぶれば。
看過できない俺は即座に断を入れた。
――これは言質を取られたのではなかろうか。
孤児院から巣立つよう、他ならぬ院長がそう宣ったんだから、気前よくみんなの大金は返せや。おっと、その金で豪華なパーティなんて言語道断。幼女を自分好みの女の子に育て上げ、寮母長を視姦するようなクズは残飯でも食ってろ、と。
そもそも王女であることが発覚しておきながら、孤児院に残りたい理由ってなんだよ!
なにもないこのど田舎に残留したいなんて、俺のような何もしたくない人間の思考回路である。
つまりレティファの巣立ちたくないという訴えには裏があると考えるべきだった。
おそらく彼女は俺の脳が単細胞であることも計算していたのだろう。もしかしたらヒモ生活を送ろうとしていることを見破られて……?
だとすると、俺にとって孤児が巣立つことは投資でいうところのリターンである。
飛び立つように言葉を並べ立てるに違いないと読んでいやがったのか⁉︎
うぐっ……策士策に溺れるとはこのことか。
孤児が稼いだお金で美味いものを食おうとしてんじゃねえ、そういうことなのか⁉︎
俺は自分の意志で折り紙で輪っかを作っていると思っていた。しかし、違った。これはそう仕向けられていたのだ。
レティファ、恐ろしい子!
正解にたどり着いた俺が悲しげに輪っか作りを再開したちょうど次の瞬間。
「レオンちゃんの手を煩わせるわけにはいかないから私にお別れ会の幹事をさせてもらえるかしら⁉︎」
ノックもなしに勢いよく扉が開かれる。
バンッという音に驚く俺に乱入してきたシオンがそんなことを言う。
まさか俺は輪っか作りさえもさせてもらえないと?
神セブン最後のイベントなんだからお前は引っ込めと、そういうことか⁉︎
……嫌だ! 俺もパーティに参加したい!
せめて飾りつけぐらいやらせてよ!
「……ぐっ。わかった。シオンに任せよう」
「レオンちゃんは何もしなくていいから!」
「ええっ⁉︎」
そんな……。
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