孤児院から巣立った美少女たちに好意と寄付を寄せてもらうだけでよかったんです……泣
急川回レ
第1話【レオン視点】
計画は完璧だったはず。
一体どこで歯車が狂ったんだろうか。
俺は引き攣った笑みを浮かべながらオープンタイプの馬車から手を振ってみる。
誰に向けて? 未だに俺も信じられないのだが王国民に対して、だ。
するとどうだ。
「きゃああああっ! レオン王子がお手を! お手を振ってくださいましたわ!」
「いいえ! レオン王子はわたしくに――」
「いやいや。王子は――」
手を振った先では誰が慈悲を向けられたかで言い争いが勃発する始末。
……えっ、えぇー……!
若い女の子からの声援――それは俺がこの世界に転生してから追い求め続けたものの一つ。
本来なら泣いて喜ぶべき状況だろう。まして俺は平民だった人間。
そんな男がこれから王になろうとしている。普通じゃありえない大出世だ。
新世界の神になり損ねた青年のごとく「計画どおり……!(ニチャァ)」と真っ黒な笑みを浮かべるべき場面。
だが――。
ちらり、と横を見やる。
俺の腕を決して離さないとばかりに抱きしめる美少女。
彼女の名はレティファ。
ただの平民である俺を王にするため、このバカげているパレードを主催した
俺にとって彼女は娘であり、弟子であり、パトロンだった。早い話がヒモ。養ってもらうだけの間柄。にも拘らず、そこに『妻』という関係が追加されようとしている。NEWと光り輝くその文字がただひたすらに憎たらしい。
もちろんレティファの見てくれはパーフェクトだ。正直に告白すればすぐに抱き寄せたい。頭を撫で、くんかくんかして、ぺろぺろしたい。ぶっちゃけ合体したい。本能の赴くまま腰を打ちつけ、孕ませたい。
童貞に双穣の女神の感触は刺激的すぐる。
レティファは腰ほどまである純金を溶かしたような黄金の髪によく実った二つのたわわを持っている。なのに腰はくびれており、スラリと伸びた脚はキュッと引き締まっている。
えっ、どスケベボディじゃん。シコシコどスケベボディじゃん。俺の遺伝子を搾り取る気満々じゃん。淫魔なの? セックスをするために生まれてきたの?
男好きする躰つき――どスケベボディなのに王族特有の気品があり、それ故に下品とは程遠い。下品なのは俺の思考と愚息であって彼女じゃない。やかましいわ!(俺がな!)
真っ白な肌は雪をも欺くほど。そんな彼女は己の武器をよく理解しており魅惑の双丘がぐにゃりと俺の腕の中で歪んでいる。
むにゅり、むにゅり。
柔らかーい! めっちゃいい匂いするぅ! いいじゃん、もういいじゃん。本能に従ってパンパンしちゃおうよ。よーし、今夜はハッスルしちゃうぞぉ――ハッ。いかん。つい素の俺が顔を出して……! おのれ
出てこいもう一人の相棒こと理性!
……。
…………。
………………。
おっ、おい理性⁉︎ どうした理性! なぜ出て来ない⁉︎ 早く出て来いや!
本能「なに勘違いしているんだ。まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ」
俺「ひょぉぉぉぉ⁉︎」
理性「HA☆NA☆SE‼︎」
おっ、落ち着け……! あまりに非現実的な状況に脳内がバグってやがる。
いくら俺を慕っている王女とはいえ、この膳に手を出しちまったらいよいよ後には引けなくなるぞ⁉︎
思い出せ、俺の夢を!
前世で過労死した世界とは違い、この世界では怠惰な性活――違う、生活を送ると決めたじゃないか!
孤児院の幼女たちに――愛情と食に飢えたロリたちに愛とご馳走を恵んで洗脳――げふん、げふん。慕ってもらおうって。
十六歳となり、独り立ちした彼女たちから寄付を募る形で孤児院を運営し、間接的に養ってもらおうって……そう画策したじゃないか!
そのための前世の記憶だったろうが!
教育を施し、才女に育て上げることで――師匠としてチヤホヤされようって……俺はただ孤児院院長としてハンコを押すだけの――定年間際の税金無駄食い公務員のような生活を送るって心に誓ったじゃないか!
こんなところで王になんかなっちまったらそれこそ殺人的な業務が待っているに違いない!
「レオン様……レオン様……ようやく、ようやく貴方様を王に――レティファは歓喜のあまり失禁してしまいそうですわ」
やめてくれレティファ。
いや、じゃなくて!
えっ、怖⁉︎ マジこわっ! なんで瞳孔開いてんの⁉︎
俺のことを無条件で慕ってくれるのは嬉しいけどその盲目なまでの崇拝――もう狂気が混じり始めてんだろ。怖えーよ!
なぜだ! どこでしくじった⁉︎
将来有望なロリっ娘に教育を施し、才女に育て上げ恩を売ることで、がっぽがっぽ儲けてもらい、寄付を募る形で孤児院を運営。
その運営資金から俺の給与を支払い、たまーに贅沢できるぐらいの生活水準で日々を過ごしながら、次世代の才女を育て上げ、立派に成長した彼女たちからまた寄付募る。
まさしくロリヒモ光源氏スパイラル‼︎
俺は餌付けされた鯉のごとく、ぱくぱくと口を開閉するだけで懐に金が転がり込み、さらには女の子を理想のレディに育てられるという、一才隙のない計画!
あわよくば洗脳――げふん、げふん、俺のことを崇拝した少女の誰かを娶ることもできるかもしれないという――天才過ぎて怖い計画だったはずなのに!
マジでどこで破綻した⁉︎
「きゃああああっ! 剣聖様よ! 剣聖様ああああっ!」
「見て! 聖女様よ! 特権階級しか恩恵を受けられなかった法医術を一般市民に普及させた聖女様!」
「すごい! こっちは数々の発明により王国の文明をたった数日で数百年以上発展させた創造の錬金術師様だわ!」
「待って! 次はこの世界に書籍を流通させ、まるで別人が執筆したかのような大ベストセラー作家、シェークスピア様だわ!」
「いやああああっ‼︎ 今度は創世の錬金術師様と共同開発した乳液を瞬く間に浸透させた凄腕の大商人様よ!」
「今度は最強の魔術師――大魔導士様まで⁉︎」
背後からさらなる黄色い声が響き渡っていた。
見れば俺が乗っている馬車とは別の馬車が続いているではないか。
しかも全員、俺の孤児院から巣立っていった教え子たちである。
「……彼女たちの父にして師――無欲で、紳士で、耐えず善行を続ける大賢者レオン様。もはや国王は彼以外にありえないですわ!」
とどこの馬の骨ともわからない女性が恍惚とした表情で呟く声を聞いて俺は思った。
俺の教え子たち半端ないって。
剣聖に大商人に聖女に魔道士に王女って――半端ないって。
アイツら半端ないって。そんなん普通ならへんやん。そんなんなれる?
言っといてや、なれるんやったら。
俺の計画に誤算があったとすればそれはおそらく――愛情をかけて育てた幼女たちの潜在能力が俺の予想を遥かに上回っていたことだ。
俺の弟子たちハンパないって!
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