第24話 ドワーフの薬屋(6)
「野菜はもういいか? 次は
女将に頼まれていた野菜はある程度収穫したので、今日はもう良いだろう。またすぐに足りなくなるかもしれないが、まだ数日はこの迷宮に通うので、その時でいい。
レイは、サクサクと下に降りていく。この迷宮の地図は、以前潜った時に大まかに頭に入っている。下への階段への最短ルートを進むことが可能だ。
五層は薬草とゴブリンと呼ばれる小さく醜悪な人型魔物しか出現しないので、無視。六層も昨日行ったところだ。サクッと進む。七層では果物を採集し、八層では木の実とキノコをいくつか採取した。九層は昨日牛を狩りまくったので、これも無視。
(さて、十層。鹿と熊は一頭ずつくらいは狩るか)
ここは入ってすぐは平原だが、奥に森が広がっている。その森に灰鹿と灰熊がいるはずだ。どちらの魔物も群れを作らないが、体が大きく、警戒心が強い。灰色魔物といえども、初心者パーティーの最初の壁となる魔物で、初心者殺しとも呼ばれている。そうはいっても、レイの敵ではないのだが。
この迷宮は、十層ごとにボスと呼ばれる敵が配置されており、それを倒さねば次の階層へは進めなくなっている。最短距離でそのボス部屋へ向かうレイの前に、大きな灰色の巨体が立ちふさがった。一見細身のレイは、巨体の魔物にとって、格好の獲物に見えただろう。
だが、レイはそんなことをものともせず、まっすぐ突き進む。近づいてくるレイに、頭を低くし、今にも飛びかかってこようと後ろ足に力を込める灰熊。灰熊の間合いまで接近したレイに、今まさに飛びかかろうと体に力を込めた灰熊はしかし、残念ながら飛び上がる前にその頭と胴体を切り離されていた。
続いて、レイが灰熊を仕留めた隙をついて、頭上に大きな影が差す。灰鹿だ。警戒心の強い鹿は、チャンスをうかがっていたらしい。
(向こうから出てきてくれるとは、探す手間が省けて有難い)
自分の頭上に見える腹を切り裂いてもいいが、そうすれば返り血を浴びてしまうのは明白である。鹿は、足が強い。角での突きと後ろ足の蹴りに気を付ければ、灰熊よりは討伐しやすい魔物だ。ただし、足も速いので、自分が不利だと悟れば、すぐに逃げてしまう。
(まぁ、逃げる暇を与えなければいいだけのこと)
レイは鹿の着地点を避けて横に飛び、そのまま木を蹴って鹿のマウントを取ると、鹿に跨ったままその首に剣を滑らせた。
「さて、さっさとボス部屋を通過しよう」
レイは、ボスの部屋へ続く扉へ手をかけた。十層のボスは、五層に出てくるよりもちょっと大きなゴブリン三体である。左側のゴブリンは弓、中央は剣と盾、右のゴブリンは槍を手にしている。
部屋に入って早々に、左側のゴブリンが矢を放ってきたので、その矢を剣で切り伏せる。向こうは初めからこちらを認識しているし、戦闘態勢に入っているので、さっさと正面から切り込んで倒してしまう。
(いつも思うが、正直灰熊の方が強いんだが……)
本当に迷宮は謎が多い、と思いながら、ポンッと軽い音を立てて上から降ってきた小さな宝箱を受け止める。中身は、一層から十層までのこの迷宮の地図であった。
「……」
レイは微妙な顔 ――といっても無表情だが―― をして、戦利品をマジックバッグに収納した。
そのまま反対側の扉へ向かう。扉を開けると、そこは下への階段があり、他は何もない少し広めの空間になっている。
レイはそこで少し休憩をして、昼食をとった。先ほど定食屋で受け取った軽食は、硬めのパンに薄切り肉と野菜を挟んだものだ。どうやら早速、昨日の灰牛を使ってくれたらしい。途中で採取した果物も水で洗って齧り、果実水を飲んだ。
(もう少し、ラプームで果実水を買い込んでおけば良かった)
リリスにこれがいいと言われて買った果実水であるが、これが当たりだったのだ。残り少なくなったそれを残念に思いながら、飲み終わった瓶を収納して立ち上がった。
(確か、十一層に
一層から十層までは草原や林が多かったが、十一層から二十層までは山岳地帯になる。登ったり下ったりしなければならず、地味に体力が削られるのだ。
十一層に降り立ったレイは、
レイは、
女将に要望されていたのは、この
レイは、あと二本ほど間伐し、ついでに剪定しながら葉を集めた。
(これだけあれば、しばらく問題ないだろう)
それからレイは、十一層と十二層の山羊の魔物を何頭か狩り、茶葉をむしって、来た道を戻ることにした。ちなみに山羊の魔物は、その角に薬効があるのでローグたちへの土産である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます