第3話 理輝くんの告白1
「はー……、すぅー……、はぁー……」
ここへ来て何度目の深呼吸だろう。
私は今、透路第二小学校の告白スポット『4階渡りろうか横の掲示板前』に立っている。
(あぁ、どうしよう……)
小説ノートにはさまっていたメモをもう一度見返す。
『話したいことがあります。
放課後、4階渡りろうか横の
掲示板前に来てください。
新川理輝』
(うん、ここで合ってるよね? まちがってないよね?)
女子の間でモテモテの理輝くんからの呼び出し。
絶対におくれちゃいけないと思って、ここまで走ってきた。
(汗くさくないよね? 髪の毛チェックしてくればよかったかな)
きんちょうで、トイレにも行きたくなってくる。
のどの奥がつまった感じで、息が苦しい。
「すぅー……、はぁー……」
深呼吸でむりやり
5時間目や6時間目は、先生の話なんてまったく頭に入ってこなかった。
(ここに呼び出すってことは、告白だよね? 理輝くんが、私のこと?)
自習の時間に助けてくれた理輝くんのあざやかな姿を思い出す。
(あれは、私のことを好きだからかばってくれたと思っていい?)
ドキドキドキと
(これまでだって、理輝くんにあこがれてはいたけれど……)
アイドルを遠くから見て、かっこいいなって思うくらいのふわっとした気持ちだった。
でも今はちがう。
あの瞬間から理輝くんのこと、すっごく意識してしまっている。
(だけど、だけど……)
また1つ、大きく深呼吸する。
(いきなり告白なんて、
なんて答えるのが正解?
どんな顔をして返事をすればいい?
明日からどんな風にふるまえばいい?
カノジョって何をすればいいの?
そんなことをぐるぐると考えているうちに、私は急に冷静になった。
まるで限界までふくらんだシャボン玉が、パチンとはじけるように。
(待って? あれは本当に理輝くんからの手紙?)
さっきからずっと待っているけど、一向に理輝くんは姿を見せない。
(まさか……)
4時間目に見た、惺也のニヤニヤ笑いを思い出す。
背筋がすうっと冷たくなった。
メモを取り出してもう一度見た。
(これ、惺也が私をだますために書いたんじゃない?)
字の形は確かに理輝くんのものに似てる。
それは教室の後ろにはってある「自己紹介」の紙で確認した。
だけど、誰かがマネして書いたものかもしれない。
(私が理輝くんに助けられたのが面白くなくて、いやがらせとか?)
もしそうだとすれば……。
私は辺りを見回す。
惺也が他の男子と一緒に笑ってる気がして。
どこかの物かげから、私のうかれている様子を見ながら。
「……」
不安が胸におしよせる。
冷たい水がひたひたと、心の中に流れ込んでくる感じだ。
(そうだよ……)
パーフェクト王子でみんなの人気者の理輝くんが、私に告白なんて……。
(するわけないじゃない……)
ほとんど会話もしたことのない、目立たない私のことなんて。
(好きになってくれる理由がないもん)
いっぱいにふくらんでいた期待が、しゅわしゅわとしぼんでゆく。
(からかわれたんだ、私……)
窓から見える太陽はかたむいて、校庭はオレンジ色に染まっていた。
「……帰ろ」
泣きたい気持ちをこらえて、掲示板前から重い足取りで立ち去ろうとした時だった。
「待って! 帰らないで!」
(え……?)
ぱたぱたという足音とともに現れたのは、春風にゆれる明るい髪色の……。
「新川、くん……」
「ごめん! 遅くなって」
理輝くんは両手をひざに当て、はぁはぁと肩で息をしている。
「児童会のことで、急に先生に呼ばれて……、間に合わないかと思った……」
理輝くんは大きく1つ息をつくと、顔をあげてまっすぐに私を見た。
「ごめんね、光野さん。僕から呼び出したのに」
「……」
理輝くんのすんだ瞳の中に、私が映っていた。
「わ、光野さん!?」
色んな感情がぐしゃぐしゃになって、足から力がぬける。
私はへなへなとその場にくずれ落ちてしまった。
「それで、あの……」
安心したのもつかの間、またもきんちょうがよみがえる。
「わ、私に話って?」
ふるえて変な声が出てしまう、はずかしい。
「あ、うん……」
理輝くんもめずらしく歯切れが悪い。
「えっと……、どこから話そうかな……」
下を向いたり横を向いたり、口に手を当てたり。
いつも迷いのない理輝くんのまなざしが、ゆれているようにも見える。
(理輝くんも、きんちょうしてる?)
そう思うと、少しだけうれしくなった。
「うん、最初にこれは言っておこう」
ようやく決心がついたらしい、理輝くんの少しかたい声にドキッとする。
「あのね、光野さん」
いつものほほえみの消えた、理輝くんの真剣な表情。
「もしも……、もしも今から僕の言うことを受け入れられないと思ったら、きっぱりと断ってほしいんだ。えんりょなんてせずに」
「!」
「これは僕の一方的な気持ちだから。光野さんにおし付けたくない」
(理輝くん……)
「でも、その時はさ……、今日のことを忘れて、これまで通りでいてほしい」
断る?
一方的な気持ち?
これまで通りで?
(やっぱりこれって告白……!?)
胸のドキドキは、今、人生最高速度になっている。
(ど、どど、どうしよう!? どうしよう!!)
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