第47話 結果発表
中間テストは授業中に返却されるのに対して期末テストは返却日に全て一緒に返される。
登校日数も残りわずかだし、あとは消化試合みたいな、だけど来年受験生になる僕らにとっては重要な特別補講が行われる。
テストの手応えは十分になった。見落として減点になりやすい部分を徹底的に洗い直して満点を目指した。
が、結果は……。
「あたしは今回も1位。
返却された答案用紙でひらひらと仰ぎながらドヤ顔の
テスト前とは打って変わって閑散としている図書室に彼女の声が高らかに響いた。
「うぅ……自信あったんだけど」
「僕も。過去最高点は更新したよ。でも、良くて引き分けの勝負だもんなあ」
英語で89点。大躍進と言ってもいい。
恋人ができて勉強のモチベーションも上がって、それが結果に反映されている。
すごく喜ばしいことだし恋愛にうつつを抜かして成績が下がることもないと証明できたのは大きい。
「と、言うわけで海はあたしと
「「「え?」」」
しかも恋愛関係じゃない二人でだ。
「いやいや、それはさすがに。なんか浮気旅みたいでイヤだよ」
まともな嗜好で思考の
しかも相手が彼女の姉で、男女バスケ部での交流もある。付き合って早々の夏休みに変な噂が立つのはイヤだろう。
「だ・か・ら」
「あたしが連れて行ってあげる。ただし、一度だけあたしの命令を聞くこと」
「なるほどね」
姉妹のやりとりで何かを察した
「純浦も一緒に行こうぜ。俺の命令一個な」
「あんまり変なこと命令するなよ?」
「安心しろって。なあ
「うん。純浦くんは平気だと思うよ。問題は……」
しっかりと繋がれた姉妹の手はそう簡単に振りほどけそうにない。
命令を聞く代わりに海に行く。
この条件を飲む以外の選択肢は残されていない。
「あんまり変な命令なら代わりに僕が聞くからさ。彼女の不始末は彼氏の責任ってことで。
「本当!? 純浦くんがわたしの代わりに命令を聞いてくれるの? よかったねお姉ちゃん」
「うんうん。さすがはあたしの彼氏。男気が違う」
「え? え?」
「ははは。ハメられたな」
もしかしてこれって双海姉妹の作戦だったの?
頭が混乱して思考がまとまらない。
「ごめんね純浦くん。さすがにすぐお姉ちゃんから1位を奪うって無理じゃない?」
「でも確実に順位は上がってきてる。2学期、3学期、そして3年生になった時にはどうなってるか。久しぶりに狙われる者の気分を味わって楽しかったよ」
「待って待って。もしかして最初から
「うん。情けない話だけど。家でのお姉ちゃんを知ってるから今回も勝てなさそうだなって。だからわたしだけ海に行けないかもって悩んでるところに」
「あたしがこの作戦を持ち掛けたってわけ。
「それで
「ふふふ。まさかこんなにも作戦通りに進むなんて思わなくて途中で笑いそうだった」
「まさか
「いや、俺は何も知らない。マジだ。なんなら命令なんてなくてもいいぞ」
「ダメだよ
「
「はは。可愛いだろ?」
ダメだ。彼女の可愛さに骨抜きにされて役に立たない。
僕も人の事は言えないけどさ。
「まあ、みんなで海に行けるからいいか」
「そうだそうだ。俺の命令は軽いのにしてやるから。まあ、
ポンと軽く肩を叩いたその手は大きくて、人情みたいな温かさがじんわりと伝わってきた。
やっぱり
「ふふふ~。楽しみだな~。なにを命令しちゃおうかな~」
「お姉ちゃん、公序良俗に反するのはダメだからね?」
「ひどい。お姉ちゃんのことをなんだと思ってるの!?」
「人前で平然と彼氏とイチャイチャする変態」
「決めた。
「「え?」」
美男美女はマヌケ面すらも絵になるからズルい。
「
「やめよう。こういうのは当人のペースというものが」
身体は触れ合うけどキスはまだな僕達みたいな。
そんな具体例は口に出さないけど、いくら姉でも余計なお世話というやつだ。
「だって、もし
「ふえっ!?」
耳元でささやかれた衝撃発言に脳が壊れたような叫びを上げてしまった。
さすがにうるさかったのか遠くから咳払いが聞こえる。
「純浦くんとお姉ちゃんのイチャイチャって別にうらやましいとは思わないかも。なんかこう、特殊な感じがする。ね?」
「お、おう。そうだな」
わかる。わかるよその気持ち。
このおっぱいを遺憾なく押し当てられるのはどんなに幸せなことか。
本当はキミもこんな風に密着したい。
でも体目的と思われたくないからお願いはできない。
自分の気持ちにウソ付く
僕は心の中でエールを送ることしかできなかった。
「じゃあ、具体的に日にちを決めようか。剣道部の合宿はいつ?」
「えーっと男女合同で……」
もうすぐ長い夏休みが始まる。
人生で初めての彼女と過ごす初めての夏休み。
そんな彼女の言葉が頭の中で繰り返される。
“もし
二人の秘密を暴露したら、
彼女の気持ちを尊重したい気持ちと、抑え込まなければならない自分の欲望が天秤に掛けられる。
もちろん優先すべきは彼女の気持ちだと仲直りした日に約束した。
楽しそうに海の計画を立てる彼女の唇は、初めてキスをした唇よりも子供っぽく見えた。
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