第2章
第37話 夢じゃない
寝苦しい夜だった。湿気を多く含んだ空気はじっとりと体にまとわりついて、気温はさほど高くないのに安眠を妨げた。
でも、原因はそれだけじゃない。
ほっぺを何度つねっても夢から覚めることはなく、唇に残った柔らか感触が現実のものだったと突き付けてくる。
あのあとは
それ以上に、
「僕はなんてことを……」
練習だからノーカンという言葉にそそのかされて。いや、それだと
悪いのは欲望に負けた僕。だって、
よりにもよって彼女の妹とキスの練習をしてしまった。
「
初めてのキスは二人だけの思い出にしたいと意見が一致したにも関わらず、僕だけは初めてじゃない。
お互いに初めてだからこそぎこちなくなって、それが後々の思い出になる。
練習なんてしてしまったら僕が女たらしみたいじゃないか!
「あああああああ!!!!」
「ちょっと輝。お腹でも痛いの?」
「平気! なんでもない」
頭の中に渦巻く感情を上手に処理できず雄叫びとして発散した結果、母さんに心配されてしまった。
気が重いまま朝食を摂り終え部屋に戻るとスマホにたくさんの通知が溜まっていた。
「あー……」
その通知の主はほとんどが
「スルーしちゃってたのか」
ひとまず謝罪のメッセージを入れる同時に、自分も楽しかった旨を伝えた。
本当のことを言えばキス以降の記憶が残っていない。
「やべ。マジでボーっとしてた」
彼女以外の女の子とキスをして平然としていられるほど僕のメンタルはオトナじゃない。っていうか浮気や不倫を隠し通せる人ってダメな意味ですごいんだと実感した。
自分からキスをしたので表現としては正確じゃないけど、僕の目の前の誘惑に勝てなかったダメな男だ。
「どうすればいいんだろ」
だから、あとは僕次第だ。
不誠実を謝罪して別れる。隠し通して時間が記憶を薄めてくれるのを待つ。
どちらを選んでも後悔が残ってしまう。
もしあそこで踏みとどまっていればどんなに爽やかな朝を迎えられただろう。
彼女ができて浮かれていた気持ちが一気に地獄まで叩き落された。
心は弱っていても体は至って健康なので休むわけにもいかず、鉛のように重く感じる玄関を開けて学校へと出発した。
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