第34話 いい感じ
「ふふ。チンアナゴ。これってやっぱり」
「…………」
ねっとりとした視線でチンアナゴと僕の股間を交互に見比べる
水槽の中に設置された壺や砂から顔をひょっこりと出す姿はたしかにアレみたいだ。だからと言ってそのままチンなんて名付けるだろうか。
昔はともかく現代ではものすごく問題になりそうなネーミングだ。
「わあ! ちっちゃくてかわいい」
「こんな風に生活する魚もいるんだな。掘り返してえ」
「うわっ!
「またまた。そんなこと言って
「それは……まあ」
「このガラスがなければ俺は確実に掘り返していた。水族館のみなさんに感謝するんだぞ?」
「ふふ。
「残酷だと思ったけど実はファンシーだった」
「うぅ……恥ずかしいからやめてくれ」
チンアナゴを掘り返したいワイルドな部分をアピールしようとしたら、逆にかわいい一面を披露してしまった
そんな様子を笑顔で見つめる
「それにしてもこの反り具合。やっぱりチンアナゴのチンは」
「
「え? どの辺が?
「くっ……!」
体はエロエロな女の子のくせにおっさんみたいな発言をする僕の彼女はニヤニヤしながらとても楽しそうにしている。
彼女が楽しいのならそれに越したことはないけど、さすがにどこかでストップを掛けなければ何を言い出すかわからない。
反撃の糸口を探すために辺りを見回すと会心の一手に辿り着いた。
「チンアナゴは
水槽近くに設置された解説プレートにはそのように記されていた。その
「変な意味? どんな意味かなあ?」
「ほんと、たまにおっさんみたいになるよね」
結局、僕が余計な一言を付け足したせいで
そりゃあの長くて伸び縮みするフォルムでチンと名が付いていたら誰だってアレを想像する。
そう考えると体が急に熱くなる。
たまにおっさん化する
やはり清楚系女子がたまに発するかわいらしい下ネタは時にドエロをも超える。
「はぁ……熱帯魚を見て子供みたいに目を輝かせる
「ん? ん? 乗り換えちゃう? 妹に乗り換えちゃう?」
「しないよ。今の僕が好きなのは
「急に恥ずかしいこと言うのやめてってば」
「ははは。
おっさんかと思えば突然乙女になる。
そのギャップが僕の心を掴んで離さない。
口では下ネタを言っても、キスは二人きりの思い出にしたかったり、エッチはお互いに心の準備ができてからだったりとしっかりガードは硬い。
「で、二人はどうなんだい? もう付き合っちゃいなYO」
「なっ!?」「お姉ちゃん!?」
照れ隠しなのかラッパーのような手つきと共に二人を交際させようとする
突然の提案に二人の声が重なって、相性の良さを見せつけられた。
「俺達はそういうのじゃないっていうか。なあ?」
「うん。わたし、
「あぁ……」
「ご、ごめん。あの時はわたしなんかが恋愛するのはまだ早いって思ってて。だから一度告白を断ってるのに
「
「そんなことって」
「過去のことはどうだっていい。今の
常に学年トップを走り続けた自信がそうさせるのか、その言葉には一切の曇りがない。
男らしいとか女らしいとか、そういう垣根を超えたカッコよさがある。
そのカッコよさは水槽の中には伝わっているのかチンアナゴ達も真っすぐに伸びたまま
「はは。やっぱ
「あたしへの胸の視線を改めたら考えてあげてもいいかな」
「あ、やっぱバレてるんだ」
「そりゃあね。隠すつもりもないけど」
組んだ腕にたっぷんと乗っかったお胸はその存在感をこれでもかと放っている。
チンアナゴの横を通り過ぎている人々が老若男女問わずチラチラと見ていくのは僕にもわかるくらいだ。
「もう! こんなところで恥ずかしいからやめて」
「ご、ごめん」
「
「おっふ!」
僕の腕に絡み付くように抱き付くとおっぱいをギュッと背中に押し当てられる。
彼女の膨らみは僕が盾になることで隠されるが、今度は嫉妬の視線がチクチクと突き刺さる。
恋人を世間の目から守るのも彼氏の役目だと割り切ってもこの視線にはなかなか慣れない。
「
「わ、わたしはお姉ちゃんみたいにはできないから……」
「えー?
「お、俺? ……まあ、ぶっちゃけ」
「だってさ。あとは
「もう! お姉ちゃんのバカ!」
「あっ!」
捨て台詞を残して
すぐに手を取れば止められたはずなのに、彼女と密着している状態がそれを阻んだ。
走って追いかけようにも人が多くて危ない。
順路には従っているので
「あちゃー。さすがに煽りすぎたかな」
「そうだよ
「とにかく俺が追いかけるから。二人はデートを楽しんでくれ」
「え、あ……」
「ここは
「雨を降らした張本人がそれを言う?」
「だって、そうでもしないと発展しなさそうなんだもん」
「はぁ……妹想いの良いお姉ちゃんなんだけどなあ」
「うふふ。褒められちゃった」
「褒めてな……くはないけど、少し反省するように」
「はぁい」
そんな二人をくっ付けるには多少の強引さが必要だとは思う。
妹の幸せを願っての煽りとはいえ、さすがに人の恋愛に首を突っ込み過ぎだ。
本当に幸せを願うなら相手の気持ちも考えないと。
「
「少し」
「それは、あたしが
「うん」
「やっぱり今でも
「そりゃ彼女の妹だし」
「ふーん」
僕の機嫌を伺って、怒っていることもしっかり伝えたのに
正直、今のこの状況から
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