第8話 カッコいい姿
「あたしが剣道部の方にわざとボールを投げるから、輝くんはそれを
こんな子供じみた作戦で僕に対する好感度が上がるとは思えないけど、ボールは
床にボールが転がったままで稽古は危ないので当然投げ返すしかない。
「はぁ……気が重いな」
「お姉ちゃんと付き合うことになったわりに元気ないね」
「に、
すでに着替え終えて胴まで装着した凛々しい
声を掛けられるまで全く存在に気が付かなかったぞ……。
もしかしてさっき匂いの嗅ぎ合いもどこかで見られた?
「昨日はあんな風になっちゃったけど、クラスも部活も一緒だから、前みたいにとはいかなくてもできるだけ普通に、ね? お願い」
「ああ、うん。
「お姉ちゃんの彼氏は余裕だねえ」
いたずらっぽく笑う姿は双子の姉妹らしくとても似ている。
まさかお姉さんから僕を寝取ってなんて口が裂けても言えないし、僕は
パシャッ!
「ん?」
シャッター音のした方向にはにんまりとゲスい笑顔を浮かべるシコ太郎の姿があった。
「おい。今のは盗撮だぞ」
「ひひひ。ちゃんと撮影許可は撮ってるでげすよ」
「わざとらしいゲスキャラ語尾はやめろ」
「そうだよ下氏くん。恥ずかしいから今のは消して」
「ん~。どうしようかな~。
「浮気じゃないし一儲けもするな」
シコ太郎は写真の腕前だけは褒められたもので、校内新聞の部活動特集では先生からも重宝されている。
ただ、取材と称して際どい写真を撮影したり、偶然写った言い張って浮気現場を押さえることもあるから一部の生徒から大不評を買っていた。
「ひひひ。そんなこと強気でいいのかな
「あああっ! そろそろ稽古が始まる。いいかシコ太郎。剣道部の写真を撮っていいのは面を付けてる間だけだ。お前だってルール違反を先生に報告されたら困るだろ? な? な?」
「……まあそういうことにしていてやるよ。姉だけじゃなく妹にも手を出して炎上したらおもしろかったのに」
「全然おもしろくないから」
これが因果応報というやつか。シコ太郎経由でいろいろな他人の恋愛事情を知って楽しんできた
「ねえ
「なななな何も。ほら、稽古に遅れるから」
「……ふーん」
ああ、絶対疑いが晴れてない。っていうかそもそもクロだから言い逃れもできないんだけどさ。
胴を外した時、道着がはだけてそのたわわな谷間が露わになってしまった瞬間をシコ太郎はタイミング良く写真に収めていた。
僕はそれをシコ太郎が提示した3倍の値段で買っている。そして、その代わり僕に売ったらデータを消すように頼んだ。
「いやあ今日は豊作の予感がする。バスケ部と剣道部の合同は捗るぜ」
「あんまり変な写真を撮るんじゃないぞ」
「はぁ……彼女ができた途端手のひら返しですか。俺は悲しいぜ。よよよ……」
「…………」
シコ太郎の言うことも一理ある。今までオカズ提供に協力してくれた恩人に対して、
「あー、実はな。
「ほほう?」
「一応簡単な仕切りがあって距離もあるだろ? だからこっちにボールを投げる時は、その……胸がかなり強調されると思う」
「ふむふむ。妹の方はしっかりガードするのに彼女の方は俺に売ると」
「そういう意味じゃねーよ! ただ、今までの恩もあるし、
「ひひひ。良い情報をありがとな。その瞬間を逃さないようにバスケ部も常にマークさせてもらうわ。にしても、あのおっぱいが
すでにストレッチを始めているバスケ部の方に視線を移してシコ太郎は感慨深げに頷く。
別に僕のものになったわけじゃない。
「僕はもう行くからな。本当に変な写真を撮るんじゃないぞ」
「わかってるわかってる。二兎を追う者は一兎をも得ず。今日のターゲットは姉に絞ったよ」
自分の彼女がターゲットにされているにも関わらず、
それに気付いた時、彼氏として申し訳ないという気持ちでいっぱいになる。
「結局、僕は
一時的におっぱいで舞い上がることはあっても、ふと冷静になった時に
その時になって
人生初彼女ができたのに、初めてがあまりにも特殊すぎて感情がぐちゃぐちゃだ。
「遅いぞ
「は、はい! すみません」
シコ太郎にしっかり釘を刺したせいで
正座で並ぶみんなからの殺気みたいなオーラが痛い。
剣道は心も鍛えるので時間やマナーにも厳しい。ただ、放課後は部活動だけじゃなく係や委員会などもあるので遅刻だけではここまで部長の機嫌を損ねることはない。
たぶん、いや、きっと僕と
シコ太郎じゃないけど、僕があのおっぱいの所有権を得たという発想がみんなを修羅にさせてるんだろうな。
「彼女ができた浮かれた
「「「「はいっ!」」」」
「ええっ!?」
いつもはローテーションで試合形式の打ち合いをするのに僕一人対部員全員!?
漫画の主人公なら汗ひとつかかずに圧勝するところだけど、残念ながら僕は
お姉さんが僕と付き合ってるのがそんなに不満? とてもじゃないけど寝取りたいと思ってる雰囲気は感じないね。
各々が面を装着して拒否権は僕に存在しない。
こうなったらやるしかない。ここでカッコいいところを見せれば
シコ太郎、
おっと、そうだ。稽古中にボールが飛んでくるんだったな。なんだか追い込まれすぎて逆に燃えてきた。
僕はもしかしなくてもマゾなのかもしれない。
「準備はできたか
「ひえっ」
面を被っているのに表情は見えないけど雰囲気でブチギレているのはわかる。
一刻も早く彼女ができた僕をボコりたい。その気持ちがひしひしち伝わってきた。
その勢いに怯んでしまったけど、すでに覚悟はできている。
僕の努力のモチベーションはそれしかない。
「まずは俺からだ。はじめっ!」
「危ない!」
「へ?」
部長が面に打った竹刀? 違う。今まで何度も打たれてきたけどここまでの痛みは感じたことはない。
そもそも痛いのは後頭部だ。
一瞬で後ろに回り込んで背後から打った可能性はほぼない。
部長は普通の人間だ。
意識が遠のいて思考が回らなくなっていく。
まさか一人目で倒れるなんてな。全員抜きでカッコいい姿どころか早々に無様な姿を晒してしまった。
ああ、
ごめん。もう僕が寝取られる可能性は消えたよ。
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