小説は諦めきれない
- ★★★ Excellent!!!
各話のカラーは不統一である。主人公のヤスが送る大学生活は、ときに面白おかしく軽快に、ときに文学的で重厚に、既存作品への目配せをしつつころころ手法を変えつつ描かれる。その結果、作品全体のカラーはよく言えば多彩、悪く言えば半端であって、その全体の印象をもってして大学という色鮮やかながら割り切れない半端な空間と、そこで繰り広げられる複数の相手との恋愛模様の描写に成功していると言える。
こうした手法の揺らぎはしかし、意図されたものというよりは、ほとんど不可避のものなのではないか。
作品の背後には、ある種の葛藤がある。楽しい読み物として広く読まれたいのか、それとも小説として本当に良いものを書きたいのか。
本作はこの二択のうち、一旦は娯楽を選びとりながらも(いかにもライトノベルらしい軽快なプロローグはその決意表明にも読める)、より良い小説へもまた諦めずに手を伸ばす。結果として、話が進んでいくにつれ、徐々に小説らしい厚みのある描写が増えているようである。
こうした葛藤の垣間見える作品の構造と比べると、主人公のヤスくんはいまのところ(13話時点)、殆ど無邪気と言って良いほど世間でいう「リア充」への憧れがあらわである。恋愛は当初、そのための方策として、見様によってはきわめて軽率にはじめられる。しかしその一方で、ほんとうに好ましい相手との関係はなにげなく深まっているようでもあり……。
「リア充生活を諦めない」は広く読まれる楽しい読み物でしかないのか、それを目指しつつも本当に良い小説たりえるか。そしてヤスくんは恋愛を足掛かりにリア充への道を進むのか、はたまただれかとの恋愛に自分だけの価値を見出すのか……。悩ましいこの揺らぎを、できれば最後まで見届けられたらと思う。