2-7-3 アルファ7、目標を捕獲


― 自分が体を張る必要はない。そう宣言する坂上が行き着いた答えとは。

  そして、青波の運命やいかに…!



 青波 美憂の場合 


 渡されたトランシーバーの通信を切ると、私はいつも通りの帰路に就く。渚ちゃんから言われた作戦はこうだ。


 「青波ちゃんはいつも通り、ストーカーが出没する五時ちょっと過ぎに高校から家に帰って。それで私たち三人は、何かあったときに坂上に出てきてもらえるように、ずっと後ろから青波ちゃんのことをよく見ておく。それで問題の道に差し掛かって誰かの気配を感じたら振り返ってほしい。振り返ったのが見えたら坂上に連絡するから、すぐ出てきてもらって、私たちのいる方に追い込んでもらう。そうすれば私たちと坂上で挟み撃ちってわけ!完璧でしょ?」


 「場所が逃げ道のない真っ直ぐな道なのが幸いだね。」


 「うんうん、あ、ちなみに連絡はこのトランシーバーでね。お金もったいないから全員分は買わなかったけど、青波ちゃんと坂上と私の分はあるから。」


 軽い冗談かと思ったのに、可愛く気崩した制服のポケットからなんの変哲もないトランシーバーが出てきたときは、面喰ってしまった。けど、作戦に関しては妙にこなれているような、そんな感じがした。結局渚ちゃんは別行動をとることにしたみたいだけど。


 歩き始めて五分ほど、私は例の道に入る。途中の狭い路地をちらっと見ると、確かにそこには坂上君がいた。しかし、その顔は今まで一度も見たことのない得意げな顔だった、いやまだ会って半日の、面と向かって会話もほとんどしたことないくらいの仲だけど。


 そんなことを思いながら歩いていると、私はあっという間に曲がり角の手前まで来た。


 …。


 夕暮れに照らされながら、しかし半袖で過ごすにはまだ少し肌寒い気温。まさに平凡な春の帰り道、それ以上にはなにも感じない。やっぱり勘違いだったのかな、私の伝え方が悪くて皆を心配させてしまったのだとしたら、皆にはちゃんと謝らないといけない。特に坂上君には…。


 タッタッタッ…。


 そんな風に考えていたその時、軽快な誰かの足音が、静かな一直線の道に響いた。この音は多分、人が走っている音だ。しかし、それに驚いたのも束の間、すぐに足音は鳴りやんだ。

 静けさが辺りを包む。それがどういうことか、緊張感の走る今の私にはすぐ理解できた。そう、足音の正体は、私の後ろに留まっているんだ。


 いる、誰か後ろに、いる…!


 私の全身に緊張が走る。今までは不思議だなと思うくらいだったけど、いざ皆にストーカーかもしれないと不安がられると、途端に私は今までのことがとても怖くなった。だから、自ずと体が強張る。振り向いたら、そこにいる何者かは、私を襲いにくるかもしれない。


 …ダメだ、体が動かない…。


 私の体は蛇に睨まれたように動かない。まるで全身が石になってしまったようだ。そんな石の人形から、一筋の光がこぼれそうになる。

 でもそんなとき、渚ちゃんの言葉が頭をよぎった。


 …なにかあったら振り返って!


 きっとなにかあっても、あの子たちなら私を助けてくれる…!

 私はなぜだかそんな気がして、いや、それを確信して、皆を、渚ちゃんを信じて、反射的に振り返った。


 ・・・。


 二十メートルほどの真っ直ぐな道、今まで何度も通ってきた帰り道。左側の路地には、さっき確認した坂上君の半身と、ゴミ箱、そして…。



 ・・・男の子…?



 トランシーバーから声が聞こえる。


 「アルファ7、目標を捕獲、至急合流します。」

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