2-7-1 アルファ7、消息不明…!
― 結局、用心棒として彼女らのストーカー捕獲作戦に着いていくことになった坂上。その作戦に必須だと渡されたこの黒い装置は、一体…!
坂上 優の場合
「よろしくお願いします…!」
約二時間前、この事件の中心人物として紹介された青波さんは、開口一番俺にそう言った。早見が喋っていると確かに周りに話す隙はなかなか生まれないが、この路地に来るまで無言でいたことを考えると、彼女は単純に引っ込み思案な性格なのかもしれない。
そんなことを考えていると、携帯とは逆の手の中にある漆黒の装置が唸りをあげた。
「えー、聞こえますか、アルファ7?9?」
「アルファ9、聞こえてます…!」
いや青波さん、合わせなくていいよ…。
律儀に空気を合わせている青波さんに、俺は憐れみをもって独り言のようにそう呟いた。
「アルファ7応答せよ、どうしたアルファ7!」
心底面倒だと思う俺をよそに、手の中ではわちゃわちゃとした声が反響する。
「アルファ9、アルファ7は既に息絶えた。今から救出に…」
えぇ、と本当に心配しているかのような青波さんの声が聞こえたので、俺は仕方なく手の中にあるその装置を口元に持っていった。
「いや、勝手に殺すな!」
「あーよかった…。」
安堵の声にすかさず声を上げる。
「青波さんも一々真に受けなくて大丈夫だよ、うん。」
俺が呆れたようにそう言うと、すぐに早見の声が手の中から聞こえてくる。
「ちょっと坂上―、緊張感崩れるじゃんー。」
マジありえない、とでも言いたげな早見の口調と、そして照り付ける春の夕暮れも相まってか、俺は少し反論したい気分になった。
「緊張するものはこの見たこともない路地裏と、なにが出てくるかわからないこのくっさいゴミ箱だけで充分だっつーの。」
実際日が沈み始めると、この路地は不気味な雰囲気を醸し始めた。辺りが完全に闇に包まれれば、ふつうに心霊スポットだと言われても不思議じゃない場所になりそうだ。
「えーせっかくトランシーバーまで買って雰囲気づくりしたのにー。」
どこにそんなもん売ってんだよと、思わずにはいられないが、早見のこのような思い付きからくる行動にはもう慣れているため、わざわざツッコもうとは思わない。
「で、ストーカーの出没時間まであと五分くらいだけど、何か変わったことは?」
俺は早く本題に戻ろうと、青波さんに質問した。
「いえ、今のところはなんともありません。」
青波さん曰く、夕方五時を過ぎたあたりにこの目の前にある道を歩いていると、後をつけられている感覚、詳しく言うと、後ろから足音のような音と、軽いものが倒れるような音が聞こえ、誰かに見られているような感覚に陥るらしい。この辺はうちの高校から徒歩五分ほどで、六限終了の五分後の三時十五分から、約二時間後の現在、四時五十五分まで辺りを見ているが、特にこちらで変わったことはなく、人通りも問題の道とは反対側の、散乱しているものを超えた狭い路地の先の道を、子供たちがボールを持って通ったのを見たくらいだった。
「私も今のところは何も見てないよー。」
早見がそう言うのを聞いて、俺は改めて、青波さんにストーカー被害の詳細を確認することにした。
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