9.11爆破説

 私は最近まで9.11に爆破説があることを知らなかった。あれが爆破解体だなんて思ったこともなかったし、9.11がアメリカの自作自演などとは考えもつかなかった。


 当時のアメリカは冷戦が終わり、黄金時代が来たかのように調子に乗っていた。湾岸戦争は楽勝で、アメリカ様に楯突くものなど誰もいないと言わんばかりだった。9.11はその鼻っ柱を折る事件だった。


 それだけに、あれが自作自演などというのは考えもつかないことだった。わざわざテロを捏造してまで世界中に赤っ恥を晒す理由がどうしても思いつかない。


 それに私は、WTCビルの崩壊の仕方は別段不自然とは思わない。たとえばシンガポールのホテルニューワールドも、自重を支えきれなくなって全壊したときにあんな感じできれいに倒壊している。確か倒壊のきっかけは柱が3本折れただけだったはずだが、それでも全壊に至ることはあるわけである。


 私は建築構造学者ではなく、建築分野については素人だが、ビルの建設や発破、倒壊事故のドキュメンタリ番組を観るのが趣味のひとつで、いろんな建築物の構造や解体の様子、事故の様子を見ている。それからすると、WTCビルの倒壊の仕方が変には見えない。



 爆破説が出てくるのは、歪んだ愛国心の裏返しなのかもしれない。アメリカ様が中東のしょぼいテロ組織に隙を突かれたという事実を認めたくなくて、それよりはアメリカ政府の陰謀だったということにした方がまだ納得できるということなのかもしれない。

 しかし残念だが、いくらアメリカでも、あれほど大規模な自作自演を仕組むのは無理というものである。どれだけ隠蔽工作が必要になるか、わかっているのだろうか。



 爆破説の根拠になっているのは、ビルが爆破解体のように倒れたこと。要するにビルの倒れ方が不自然に見えたことがこの説の主柱となっている。

 爆破説が特に重要視しているのは、北棟、南棟よりも、第7ビルの崩壊。このビルは火災で全壊した非常に珍しいケースだが、珍しいだけに不自然に感じた人が多かったのだろう。


 私は去年までWTCは北棟と南棟しかないと思っていたので、当然、第7ビルの存在も知らなかった。第7ビルはツインタワーから少し外れたところにあるが、降ってきた瓦礫が当たって火災が発生。しかし、ツインタワーの消火や救助に手一杯だったために8時間ほど放置されたのち、全壊した。


 第7ビルの崩壊については、アメリカ国立標準技術研究所が報告書を出している。ざっと読んでみたが、第7ビルの火災は、ほとんどの部分はそこまで高温ではなかったが、一部では温度の高いところがあった。高温にさらされたところでは熱膨張が起きたが、その他の部分は固いままだったので、それで柱が曲がって折れたのが原因とされているようである。

 第7ビルにはスプリンクラーが設置されていたが、水が他の消火作業に回されていたために不足しており、機能していなかった。充分な散水が行われていれば、崩壊は防げただろうとしている。


 なお、第7ビルの下層部には発電機の燃料などが備蓄されており、それが崩壊の要因になった可能性も指摘されていたが、現在ではそれは特に関係なかったという見解のほうが優勢のようである。



 私はビルの倒壊について論じる知識はないが、別の角度から、気になる点について言及することはできる。


 もし爆破説が事実だとすると、犯人は北棟と南棟に飛行機を突っ込ませながら、爆弾も仕掛けたことになる。テロの偽装をするなら飛行機か爆弾のどちらかでいいし、ビルを全壊させる必要もない。

 そして、3つのビルだけ爆破解体し、他は爆破しなかった。全部爆破すると不審がられるから、というなら第6を爆破すればよかったと思うのだが。なぜ離れた第7を爆破したのだろう。

 北棟、南棟は飛行機突入から約1時間40分後、第7ビルは出火から8時間後に爆破解体したのにも意図があったことになる。

 また、北棟からまあまあ離れている第7ビルにうまく瓦礫を当てて出火、あるいは出火したように見せかけたことになる。何の被害もないのにいきなり爆破解体したら、それこそ不審がられる。瓦礫が当たったのは意図的だったわけである。


 こうした不審な点を全て納得がいくように説明するのは困難だろう。

 つまり、こうした不審な点を全てカバーし、かつ、論理的に整合性のある犯人のプロットとはどういうものか、ということ。無理やりこじつけることはできるが、かなりごちゃごちゃした話になる。



 一方、公式見解が問題なのは、3つのビルが倒壊した様子が爆破解体みたいで不自然だ、という点だけ。

 不自然かどうかは主観的な問題でしかないし、飛行機の突入と出火でああいう崩壊の仕方をする可能性があることはシミュレーションによって再現されている。



 もっとも、私はこの件で議論する気はない。

 もともと私にとって9.11は、アメリカで大型旅客機がビルに突っ込んだ事件でしかない。あれが見た目通りの事件であろうとなかろうと、どうでもいい。

 それに、あれが陰謀なのだとしたら、かなり無駄の多い陰謀だったことになる。私は美しくない陰謀に興味はない。これは現実でもフィクションでも同じ。ごちゃごちゃ理由付けしてもっともらしく見せかけるプロットは好きじゃないし、そんなくだらない陰謀が事実か否かについて研究するのにエネルギーを使いたくない。


 同じ理由で、月面着陸捏造説にも興味がない。捏造するのにコストがかかりすぎる。嘘を吐くくらいなら本当に月に行ったほうがマシなくらいである。



 真珠湾攻撃を知っていながら見逃した説の方が、まだ検証する価値がある。情報を握っていながら黙っていればいいだけだから簡単だし、そうするメリットがあるようにも見える。

 また、アメリカ軍は真珠湾攻撃前に、真珠湾付近で日本の潜水艦を沈めている。実は、あの戦争で先に敵に攻撃したのは米軍の方だったわけである。なのに防衛体制を敷かなかったのは確かに不自然ではある。


 ただ、この説にも問題はある。アメリカ国民の感情を開戦に向かわせたいという目的を果たすだけなら、真珠湾周辺で戦闘が起こればいいだけで、そもそも宣戦布告前に奇襲を受ける必要すらなかった。仮にあえて奇襲を受けるにしても、きちんと防衛体制を築いて反撃したって良かったわけである。あんなに徹底的にやられる必要はない。いっそあそこで日本の空母を一隻でも沈めておけば、その後の戦争はずっと楽になっていただろう。また、空母も退避させるのではなく、すぐに反撃できる位置に配置したほうが良かっただろう。

 私が米軍責任者で、真珠湾攻撃の情報を正確に掴んでいたならそうする。せっかく出張ってきた空母群をみすみす逃がすなんてありえない。


 その後の東亜戦線でのマッカーサーの無能っぷりも含めて考えると、あれは単にアメリカが日本を舐めていただけと考えるほうが妥当と言える。宣戦布告前後に攻撃があるかもしれないくらいの情報は掴んでいたかもしれないが、深刻に捉えなかったためにあの様だった、というのが実情だろう。

 あまりに恥ずかしいやられ方をしたのをごまかすために、必死で日本が悪いということにしようとプロパガンダを展開し、それにアメリカ国民はまんまと乗せられただけの話。


 この点は9.11にも共通している。あの犯行の手口は稚拙なものであり、それを防げずにペンタゴンに航空機を突っ込ませたのは大失態である(見た目はWTCビルのほうが印象的だが、実際にはこっちの方が問題は深刻)。本来なら政権が崩壊してもいいくらいの赤っ恥だが、ブッシュはイスラムや中東への怒りを焚きつけることでそれをごまかそうとし、アメリカ国民はそれに乗った。真に問題なのは中東でもイスラムでもテロ組織でもなく、アメリカが最強で無敵だと思い込んでいるおつむの方だというのに。傲慢な連中である。

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