『9.11:アメリカを襲ったあの日の出来事』

 ナショナルジオグラフィックチャンネルで『9.11:アメリカを襲ったあの日の出来事』が放送されたのは2021年。事件から20年目という節目だった。全6回。5時間30分程度。


 去年はこの番組について何か書こうとしてやめたが、今年の9月11日にも再放送するようなので、それに先駆けて書いておくことにした。



 この番組は、当時貿易センタービル内にいた人や、救助に行った消防士や警察、報道関係者など、事件に直接関係した人へのインタビューと、当時の映像で構成されている。


 この番組が特殊なのは、ナレーションや専門家などの第三者による講釈や、再現映像が一切ないこと。テロ行為や政府の対テロ対策、ビルの防災体制の是非などを批評する描写もなく、当事の状況を伝えることのみに終始している。自然災害のドキュメンタリのような内容。


 こういう番組は情緒的な方向にいきがちだが、そうした編集は極力せず、できるだけ事実を事実として見せることに徹した番組構成は、だからこそ説得力がある。制作者の思想や意図がだだ漏れの番組とは一線を画していた。


 この番組は観る価値があるから、実際に観て欲しい。



 各エピソードはどれも印象的で見どころだらけなので、いちいち紹介していると全体のあらすじになってしまう。なので、特に印象に残った部分をざっと書いておく。



 番組の冒頭では、ガス漏れがあったということで出動してきた消防士達の頭上を、飛行機が低空飛行して飛んでいく映像がある。この時出動していた消防士達は、そのまま貿易センタービルの救助活動に当たることになる。

 なぜ珍しくもない日常的な仕事の様子を撮影していたのかは不明。ディスカバリーチャンネルやナショジオがたまにやっている、消防士密着ドキュメンタリでも撮っていたのだろうか。映画みたいな出だしである。



 飛行機が突っ込んだ貿易センターから避難した人達は、ちょっとしたことで生死が分かれている。エレベーターに乗るか階段で下りるか、延々と階段を下りるか屋上に上って救助を待つか。

 一見良さそうに見える判断が間違いだったりして、机上の論理と現実は別物だということを思い知らされる。

 理屈でいうと、こういう災害時にはエレベーターよりも階段のほうが安全に見える。しかし現実には、エレベーターで下りた人は助かり、階段で逃げようとした人は亡くなった。



 北棟に飛行機が突っ込んだとわかった時、南棟では避難指示が出なかった、というのは、この番組で初めて知った。北棟の被害は南棟には及ばないから安全だ、というのがその理由。

 まさか南棟にも飛行機が突っ込んでくるとは思わなかった、というのはわからなくはないが、隣のビルが崩壊しかかっているのに普通に仕事をするという感覚も異常な気がする。大通りを挟んだ低層ビルとかならともかく、双子の高層ビルなんだから、隣が崩落したらこっちにも影響が出る可能性はあるだろうに。

 いずれにせよ、仕事が始まるから、ということでビルに留まった人達は死亡し、大げさに考えすぎだと笑われても避難した人は難を逃れた。


 このエピソードは考えさせられるものがある。人間は自分に直接危害が及ぶまで、危険を察知しないものなのかもしれない。

 事故があるとなぜか人間は野次馬したがるが、それで自分に危険が及ぶとは考えないのだろうか。特に、交通事故を見物するために無意味な減速をするドライバーは本当は愚かだしやめて欲しいと私はいつも思う。その無意味な減速のせいで自分が事故の当事者になる可能性があることを、ちょっとくらいは考えられんのかね。あいつらの頭の中には脳みそが入ってるのか?



 貿易センタービルというと双子の高層ビルというイメージだが、第三ビルというのがあるのもこの番組で知った。近くにある高いビルが崩壊したわけだから、当然こちらにも影響があった。瓦礫が直撃したのである。

 第七ビルもあったらしい。つまり双子の高層ビルの下には、いくつか低層のビルが隣立していたようである。



 ユナイテッド航空93便は、当時ハイジャックされた航空機の中で唯一建物に突っ込まなかった便だが、当時アメリカ空軍は、この航空機に戦闘機を体当りさせる作戦を採ろうとしていた。時間がなくて戦闘機に兵装を積めなかったので、止めるには体当りするしかなかったのである。

 結局93便は、乗客達がハイジャック犯に抵抗したこともあって郊外に墜落した。この機はホワイトハウスを狙っていたとされている。

 そのために体当たり作戦は実行されなかったが、もし実行されていれば、21世紀のアメリカが特攻をした事例となっていた。


 神風特攻は異常な作戦として思われているところがあるが、別段珍しいことでもないことがわかる。9.11ではテロリストもやったわけだが、アメリカですらも切羽詰まったらやるのである。

『インディペンデンス・デイ』とかいうアホ映画でも、アメリカ人が宇宙船に特攻していたから、ああいうのを英雄的行為として見るのは、何も日本だけでないことはあれでわかるわけだが。

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