『衝撃の瞬間6』「ブラックホーク・ダウン」
ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルで再放送している『衝撃の瞬間』シリーズを観ていると、直近に「ブラックホーク・ダウン」があった。1993年、ソマリア内戦に介入したアメリカ軍が、民兵相手にヘリを2機落とされた戦闘である。
「ブラックホーク・ダウン」というのは、この件について扱った本と、それを基にして作られた映画のタイトル。
歴史的には都市名や地域名から「モガディシュの戦い」や「ブラック・シーの戦い」とされるが、もはや「ブラックホーク・ダウン」の方が通りがいい。というわけで、『衝撃の瞬間』のこの回のタイトルも「ブラックホーク・ダウン」となっている。
ナショナル・ジオグラフィックがこの時期にこの回を放送したことに他意はないだろうが、今この回を観ると、ロシアによるウクライナ侵攻を思い出さずにはいられない。
今のロシアは間違いなくクソだが、大国はどこもろくでなしで、国連はその歯止めにはならないどころか、大国の暴力に加担するということを思い出させてくれる。
ソマリアは、かつてはイギリスとイタリアの占領下にあったが、1960年に独立。しかし政情は安定せず、ずっと内戦が続いている。
1992年に国連はPKO部隊の派遣を決定。当初、国連軍は人道支援活動を行っており、食料を配ったりしていたのだが、アメリカが1993年にクリントン政権に変わると、軍事介入して国家を建設し、問題を手っ取り早く根本的に解決しようとした。
それでやったことと言えば、市民に食料を配るのをやめ、代わりに銃を突きつけて脅し、尋問したり連行したりぶん殴ったりすることだった。
これで問題が解決するわけがなかった。もともとソマリア人は国連やアメリカに敵意を抱いていなかったが、クリントンの「馬鹿げた」(クリントンは、外交や安全保障を重視して経済を軽視したブッシュを"Stupid"と批判した)政策転換のせいで敵視するようになる。当たり前である。
クリントン政権は、科学技術や宇宙開発に資金を投じ、未来の財を成したことには功績があるが、外交はすさまじくヘタクソだった。
有名なウェーコ包囲もクリントン政権下でのこと。カルト教団が建物に立て籠もったのをFBIが包囲して追い詰め、火災による集団自決へと追い込んだ事件である。
この際FBIは、交渉人が降伏を説得する一方で、教団員の車を装甲車で潰したり、夜中にイタ電をかけて睡眠不足にするなどといった嫌がらせを繰り返していた。これで教団員が説得に応じるはずがないことは、素人だってわかることである。
火を放ったのはFBIではなく教団員であることはほぼ確実だが、集団自殺に追い込んだ責任は間違いなくFBIの無能にある。結果的に全員銃殺したのと大差ない。
どうでもいいが、『ゴルゴ13』的には、この出火はゴルゴが依頼人に騙されて起こしたもの、ということになっている。
モガディッシュの話に戻ろう。
1993年、アメリカ軍は、アイディード派の側近を拘束するために、特殊部隊からなる部隊をソマリアの首都であるモガディッシュの建物に派遣した。
しかし、この時の作戦は、以前に行った作戦と全く同じ手口だったために、アイディード派の民兵にアメリカ軍の行動を読まれていた。アイディード派民兵は標的となるであろう建物の周辺に布陣し、ロケット砲を準備していた。
一方、アメリカ軍はソマリア民兵を舐めきっており、作戦は30分で終わるだろうと予測して、暗視ゴーグルなどの夜間装備を持たずに出撃した。
また、当地の作戦本部はソマリアに装甲ヘリや装甲車などを配備するよう政府に要請していたが、政府は承認しなかった。そのため、作戦には軽装のヘリや車両が使われた。
結局、この奇襲作戦は奇襲の体を成さず、アメリカ軍は激しい抵抗に遭い、ヘリを2機墜とされ、その救助のために想定外の市街戦へと突入することになる。
戦闘は夜間を挟んで15時間続き、アメリカ軍19名、国連軍2名の戦死者と、捕虜1名を出す結果となった。
標的であったアイディード派の側近は拘束できたので作戦上は成功だが、そのために払った損失がメリットに見合っておらず、戦略的には大失敗と言える。特に、アメリカ軍の兵士の遺体を回収しきれず、市内を引きずり回される映像が全世界に報道されたのは痛かった。国連軍の「人道支援」がどれだけ歓迎されていないかを象徴する映像だったからである。
この件を契機に国連軍はソマリアから撤退し、ソマリアでは未だに内戦が続いている。国連は2007年に再びソマリアに介入したが、この時の活動は小規模なもので、はっきり言って何の意味もなかった。
ここからわかることはいろいろあるが、そのひとつは、どんなに訓練された兵士でも、市街戦になると民兵相手に苦戦する、ということ。
ウクライナでロシアが苦戦している理由のひとつはこれ。市街戦が地獄なのは歴史が何度も証明している。市街戦の恐ろしい点は、街を破壊しても攻撃側が有利にならず、むしろ不利になるということ。街を破壊すると、地形が複雑になり、それだけ隠れられる地点が増える。つまりは奇襲を受けやすくなるわけである。
現代の戦争では、市街戦はできるだけ避けるべきだとされている。が、ロシアはなぜか嬉々として市街戦に突入し、当然のように返り討ちに遭っている。
市街戦でソ連がナチスドイツを打ち破った過去を、間違って解釈しているのかもしれない。言うまでもないことだが、あのときソ連が市街戦でドイツに勝てたのは、防衛側だったからである。
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