帰路へ
翌朝……帰る日の朝。
朝起きて、焼きおにぎりと卵焼き、味噌汁という簡単な食事を済ませた後、この三日間で使用した場所を徹底的に掃除する。
それぞれのベッドも、布団カバーとシーツは全て洗濯し、手分けして干していく。布団も全て同様に陽の下に干す。
朝早くから始めた事もあって、真夏の晴れ空の下では洗濯物もよく乾き……昼頃には、全て完了していた。
……そうして掃除も終わり、あとは帰宅するだけという時。
最後に皆で、別荘前で写真を撮りたいという柚夏の提案により、皆作業用のジャージから私服へと着替え、ウッドデッキに集合する。
「よし、それじゃ十秒後、シャッター降りるぞ」
カメラをセットし終えた才蔵が、そう言って急いで星那たちが並んでる方へと戻って来る。
そうして全員が揃ったところで皆で身を寄せてポーズを取り……直後、カメラからカシャッというシャッター音。
「……よし、撮れたぞ。皆、掃除お疲れ様」
「俺たちこそ、この三日間すげぇ楽しかったです」
「瀬織のおじさん、杏那さん、別荘を使わせてくれて、ありがとうございました」
「いや、何、私たちも若い子らと休日を過ごせて楽しかったよ」
「良ければまた、子供たちと一緒に遊びに来てね?」
午後から来客があるという瀬織夫妻は、ここでお別れだ。
そんな二人に、陸と柚夏が宿泊させてもらった礼を言っている間に、星那は夜凪と一緒に、デッキに出していた荷物を積めるものから車へと積み込んで行く。
最後に……部屋に戻り、すっかり片付いた部屋を忘れ物がないか眺め、たった三日とはいえ生活の痕跡がすっかり消えた部屋に一抹の寂しさを覚えながら、後にするのだった。
星那がウッドデッキに戻ると、一人姿が見えないことに気付いた。
「えっと、朝陽は?」
「ああ、疲れたんだろうな、うとうとしてたから、もう車に乗せた」
「あぁ……ずっと遊び通しだったもんね、陸、ありがと」
「おう」
ずっと元気全開だと思っていたが、ついに電池切れだったらしい。
陸の気遣いに礼を述べつつ、荷物の積み込み完了の報告のために才蔵の下へ向かう。
「では一夜君も、毎晩晩酌に付き合ってくれてありがとうな。やはり若者と過ごすのも良いが、皆未成年だから付き合ってもらうわけにもいかんし、おかげで寂しく飲まずに済んだ」
「俺の方こそ、色々と話を聞けて、なかなか得難い機会でした」
「うむ、帰りの道中気をつけてな……っと、向こうも終わったみたいだな」
固く握手をかわしながら、一夜とそんな会話している才蔵の下に行くと、二人がほぼ同時に星那の方へと気付いた。
「お義父さん、部屋の方の確認も終わりました」
「おお、すまんすまん。星那君も……気をつけてな」
「多分、市の花火大会までには私たちも帰っていると思うから、一緒に行けるといいわね」
「はい、お待ちしてます」
瀬織夫妻に笑顔で別れを告げ、またすぐに会おうと約束する。
だが……不意に、杏那がふふっと笑うと、星那の耳元へと口を寄せる。
「それとも……星那ちゃんは、あの子と二人きりの方がいいかしら?」
「お……お義母さん!」
悪戯っぽく耳元で囁かれた杏那の言葉に、星那が瞬時に真っ赤になりながら抗議する。
「ふふ、ごめんなさいね。でも星那ちゃんの反応が可愛いのが悪いのよ」
「……全くもう、お義母さんってば」
そんなどこか子供っぽい杏那を星那は憎めず、呆れたように嘆息するのだが……
「そうだよ母さん、星那君をからかっていいのは僕だけなんだから」
「お願いだから、そんな事を張り合うのはやめてください……」
星那を守るように抱きしめながら、そんな事を真顔で宣う夜凪に、諦めたようにため息を吐きつつ抗議する。
――やっぱり親子だなぁこの二人。
そんな事をしみじみと考えながら。
「では、またな」
「今度は、向こうの家にも遊びに来てね」
車内に乗り込んだ一行に向けて、手を振っている瀬織夫妻。
「それじゃあ……三日間、どうもありがとうございました」
――ありがとうございました!
助手席に座る星那の言葉に続き、そう皆の感謝の言葉が唱和する中……星那たちを乗せた車は、元の日常へと戻るため、ゆっくりと走り出したのだった。
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