期末試験の結果
期末試験は、誰かがトラブルに巻き込まれて遅刻しそうになった……などといったドラマチックな事が起きる訳もなく、特に問題無く終わったと言っても良いだろう。
再び白山家に集まって皆で頭を付き合わせ、自己採点を行った結果を見る限り、四人とも確かな手ごたえを感じていた。
そのため、早く結果が見たいとそわそわしながら数日が経過し……ついに、試験結果発表の日が来たのだった。
廊下に張り出された、上位五十名の順位表。四人中で最も早く名前が見つかったのは……
「あ、私あった!」
「わ、凄い、学年で二位……凄いよ、柚夏ちゃん!」
その名前は、探すまでもない程にすぐに見つかる。
惜しくも一位こそ逃したものの、五教科ほぼ満点の成績で、見事に順位を中間よりもさらに上げていた柚夏。
友人のその快挙に、思わず感極まった星那が柚夏の手を取ってはしゃいでいまう。
「あはは、ありがとう。でもなっちゃん、注目浴びてるけどいいの?」
「……はっ」
我に返る。
周囲は順位を見に来た生徒たちでごった返しており、星那はその中心ではしゃいでいたため、大勢の注目を浴びていた。
「あれ、瀬織さんだよね?」
「あの子、いつも澄ましてるけどあんな風にはしゃぐんだ」
「なんか、かわいー」
周囲からヒソヒソと聞こえて来る声と、生暖かい視線。
更には、ポーっとこちらを見つめている男子生徒の目線も感じ、思わず赤面して俯いてしまう星那なのだった。
「でも、俺達に教えながらで順位上がったって本当に凄いな」
「んー、それは多分逆かなー」
「逆?」
陸の関心したような声に照れながら、そう言う柚夏。
どういう事かと首を傾げている陸に、人差し指を掲げ、胸を張って自慢げに語り始める。
「うん。教えるって、誰よりも深く理解が必要だからねー、どう教えたらいいか考える中で、改めて習った事をいろいろと整理できたから、より理解が深まった気がするのよ」
「はー……」
「だから、あの勉強会は私にもいい経験だったのだ」
改めて関心する陸に、ふふんとドヤ顔する柚夏なのだった。
そんな光景を横目に順位を読み進め、次に声を上げたのは……
「あ、僕も居た」
「え? わ、凄い、十一位!?」
「ふふん、僕は二十近く順位が上がったね、中間から比べると」
「うー、今回は負けたかぁ……でも、おめでとう、頑張った甲斐があったね」
満足そうに頷く夜凪に、星那は少し悔しそうに言ってみせるが、すぐに笑顔で祝福する。
「ありがとう、でも折角だから、何かご褒美をリクエストしてもいい?」
「ん、何か欲しい物があるんですか?」
「うーん、そうだな……キスとか。一回、時間無制限何でも可とか駄目?」
「キッ……!?」
他者に聞こえないように、とんでもない爆弾発言を星那の耳元で囁く夜凪。
ボッと顔を真っ赤にした星那は、しばらく視線を彷徨わせて躊躇した末に……ぎこちなく頷く。
「おやおや、あちらのお二人は随分とお盛んですなぁ、陸さんや」
「そっとしといてやれって……お前、すっかり星那をいじって遊ぶのが癖になったよな」
「だって、可愛いじゃん」
「…………あー、うん」
ニマニマとこちらを眺めている柚夏と、それを呆れたようにたしなめている陸。
星那は真っ赤になりつつも、その会話が聞こえないフリをするのだった。ただし否定してくれなかった陸には、後日おかずに嫌いなピーマン山盛りにしてやると内心でこっそり誓う。
そんな中……
「あ、わ、私もありました!」
場を誤魔化すように声を張り上げて、次に主張するのは星那だった。
「お、星那君は十九位、神楽舞の練習もあったのに凄い凄い」
「えへへ……」
夜凪に頭を撫でられて、照れつつも嬉しそうにする星那だった。
ちなみに、先程から周囲の男子達から射殺さんばかりの視線が夜凪に突き刺さっているのだが……むしろ見せつけるように肩を抱いて更に撫でるあたり、逆に楽しんでいるようだ。
「前回よりも少しだけ下がったけど……でも、十の位が変わらなくて良かったよ」
「うんうん、なっちゃんに関しては維持できただけすごいからね、次はもっと頑張ろー!」
「はい、柚ちゃん先生!」
ガッツポーズで明るく言う柚夏に、ふわっと微笑んで、少しおどけた返事を返す星那。
その笑顔を目にして、周囲の男子と一部女子が結構な人数、悶えて蹲っていたのだが……今の生活に慣れたせいで、かえって自身の今の容姿に無自覚になってしまった星那は、周囲の何やらおかしな空気に、ただ首を傾げるのだった。
そして、残るは陸だが……掲示されるのは、上位五十人まで。
前回の結果は百位台後半だったという陸は、ここに載るには順位を百以上も上げなければならない。
流石に載っていないかも……そう思われたが。
「あ……マジか、俺の名前、ある……」
「え!?」
ボソリと呟いた陸の言葉に、驚きの言葉を上げる星那。
「本当だ、四十三位、九条陸って! やったじゃん、ランキング入りだよ陸!」
感極まって、陸に飛びつく柚夏。
呆然としていた陸は、その体当たりを受けて少しふらついたが……
「ああ、ああ……! やべぇ、超嬉しい……」
そう言って、今回ばかりは人目も憚らずに柚夏を抱きしめ返す。
その目にうっすらと、嬉し涙が浮かんでいるのを見て……星那と夜凪は顔を見合わせて笑い合うのだった。
結果、合宿に参加した四人全員が五十位以内入りという快挙を成し遂げた、星那たち四人。
皆晴れやかな気分で午前だけの授業を終えて、下校するのだったが……
「それで、なっちゃんが、えぇと何だっけ、明日から始めるっていう……」
「えっと、
「そう、それ! それが始まっちゃうと、美味しい物とか食べられないのよね?」
「うん、そうだね。神様に奉納するのだから、事前に穢れを払って身を清めないといけないんだよ」
その禁じられる中には肉食や嗜好品などの贅沢もある。それ以前に、始まったら斎館で人から離れて過ごすため、俗世に出られなくなるが。
そんな事情により、神事のため明日の授業は休む旨は学校側に伝えてあり、公欠の許可も貰っている。
担任からは、許可を貰いに行った際に「当日、行けたら自分も観に行くから頑張れよ、楽しみにしているぞ」と暖かい言葉も貰っていた。
「それじゃ、今日まで大丈夫なんだよね、どこかで打ち上げして帰らない?」
「あ、さんせー!」
「おう、俺も異論なしだ」
皆が、柚夏の提案に賛同する中、星那は少し考え込む。
神楽舞に関しては、数日前の時点で真昼から及第点を貰い、今は実際に祭器の模造品を手にし、千早を除く巫女装束を着ての練習になっている。
そのため、あとは本番までどれだけクオリティを上げられるか、という段階である。
「うん……私も、今日も帰ったら練習があるけど、あまり遅くならないなら、いいよ」
「よし、それじゃ何か行きたい店がある奴はいるか?」
「あ、僕、以前父に連れて行って貰った美味しいケーキ屋さん知ってるよ」
「ケーキ! よし、そこにしよう!」
賑やかに、午後の予定を立てる友人たち。
その光景を一歩引いたところで眺め、ふっと頰を緩めながら……今やすっかり馴染み、日常となった現在の生活に思いを馳せる。
――夜凪と星那、二人が入れ替わってから既に、一ヵ月と少し。
けじめとして、区切りをつける事を誓った例祭の日は……もう、すぐ側まで迫っていた。
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