第58話
秋生さんはその勢いで後方にあったゴミ捨て場に足をぶつけ、驚いた表情であたしを見つめる。
「あ、ごめんなさい……」
そこまで強く押すこと、なかったのに。
「……いや。俺も調子に乗ってごめん」
軽く頭をかきながらそう言った秋生さんだったけれど、それからファミレスまで、もう手を繋いでくれることはなかったのだった。
☆☆☆
ファミレスについてからも、あたしたちの雰囲気はどこか気まずくて、なかなか会話が続かなかった。
「これ、美味しいですね」
ハンバーグを1口食べてそう言っても、「そう?」と、そっけない返事しか返ってこない。
「しょ……秋生さんのも、美味しそうですね」
「別に、普通だよ」
どうしよう。
秋生さんはあたしと全然話そうとしてくれなくて、さっきから視線も合わせてくれない。
どんどん気持ちは暗く沈んで行って、食欲もなくなってきた。
そんな時、秋生さんがこう言った。
「ねぇ、月奈ちゃん」
「は、はいっ!」
「俺たち、付き合っているんだよね?」
「は……はい……」
「だったら、もうちょっとくっついててもいいんじゃない?」
え……?
あたしはどう返事をしていいかわからず、秋生さんを見つめる。
すると、秋生さんは食べかけのご飯をそのままに、あたしの手を取って立ち上がった。
「ど、どうしたんですか!?」
そう聞いたって答えてくれなくて、さっさとお会計を終わらせて店を出る。
グイグイと引っ張る秋生さんの力は痛いくらいで、あたしは顔をしかめる。
けれど、そんな事に気が付いてくれない秋生さん。
どこに行くのかもわからないまま引っ張られて、思わず泣きそうになってしまう。
そして公園についたとき、怒った顔の秋生さんが振り返った。
「どうして、月奈ちゃんは俺に触れられることを嫌がるの?」
「嫌がってるワケじゃないです……」
最初は馴れていなかったからだし、今日のは人に見られたら嫌だからだ。
「今までの彼女は、俺に触れられても嫌な顔ひとつしなかった。逆に喜んでいた」
そう言う秋生さんが、あたしの頬に触れる。
本来彼氏にされたら嬉しいハズなのに、あたしの心は危険信号をキャッチしていた。
秋生さん、なんだか変だ。
逃げなきゃ!
そう思って2・3歩後ずさりをする。
しかし、手はしっかりとつかまれたままで、それ以上距離を離す事ができない。
どうしよう……。
冷や汗が背中にながれて、心臓が嫌な音をたてる。
「俺に触れられて嫌がるなんて、考えられない」
そう言った瞬間、秋生さんがあたしを抱きしめようとしてきた。
「嫌っ!!」
咄嗟に叫び声に似た声をあげて、身をそらす。
秋生さんは『信じられない』という表情であたしを見つめる。
今の秋生さんには何を言っても届かない。
そう思ったあたしは、一目散に公園から逃げ帰ったのだった。
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