第44話
翌日、あたしはバイトが休みだった。
「なにしようかなぁ」
特に友達と遊ぶ約束もしていないし、気になるDVDでも借りてこようかと考える。
「あら、今日は暇なの?」
「うん。DVDでも見ようかと思って」
出勤前の陽菜ちゃんに言われて、あたしは答える。
すると陽菜ちゃんはあたしの耳元にそっと顔を近づけ、そして「昨日番号交換したんでしょ? 月奈から連絡してみたら?」と、ささやいてきたのだ。
その瞬間、顔から火が出るほど、熱くなる。
「な、なに言ってるの陽菜ちゃん!」
そんなの無理!!
そう思ってぶんぶん首を左右に振っていると、お母さんが「月奈、好きな人でもできたの?」と、聞いてきた。
その直球な質問に更に体は熱くなり、「そ、そんなこと、ないっ!」と、しどろもどろに否定する。
でもこんなんじゃお母さんにもバレバレだ。
お母さんは何度か瞬きを繰り返したあと、「そろそろ彼氏くらいできてもいい年齢よね? 頑張りなさい」と、肩を叩いてきた。
お母さんに応援されるなんて思っていなかったあたしは、「ほ、ほっといてよ!」と、顔を真っ赤にしたまま家を出た。
もう、娘をからかうのはやめてほしい。
はぁ、どうしよう。
意識しはじめると心臓がバクバクしてくる。
明日はバイトだし、もし秋生さんが買い物に来たらどんな顔をして接客すればいいの?
「考えるの、やめやめ!」
今はとにかく好きなDVD選びに専念するんだ。
レンタルショップについたあたしは頭を切り替え、新作映画が並ぶ棚を見て回る。
店内は平日の朝ということで空いていて、店員さんも暇そうにレジに立っていた。
「あ、これ見たかったやつ」
あたしは一本のDVDの前で立ち止まり、手に取った。
一応はホラー映画なんだけど、ギャグの要素が散りばめられていて面白いんだって、和心がオススメしてくれた。
どうしようかな。
ホラーは苦手だけれど、ギャグ系なら平気だよね?
いわゆる、B級映画ってやつだし。
そのままレジへ進もうとしたとき、「それ、面白くないよ?」と、後ろから声をかけられてあたしは立ち止まった。
まさか、ナンパっ!?
なんて思って警戒しながら振り返ると……。
「秋生さんっ!?」
そう、そこに立っていたのは秋生さんだったんだ。
あたしは驚いて唖然とする。
「昨日の今日でまた会うなんて、偶然だね」
少しだけ頬を赤らめて、秋生さんはそう言う
「そ、そうですね」
答えながら、これはもう運命じゃないか。
なんて思ってしまう自分がいる。
「ホラーが見たいなら、こっちがオススメだよ」
そう言って、秋生さんは今一番怖いということで有名な映画を手にとって、あたしに差し出してきた。
「えっ……あのっ……」
ホラーが苦手なあたしは手を伸ばすことができず、後ずさりをする。
でも、そうだよね。
今あたしが持っているのはホラー映画。
ホラーが見たいと勘違いされても、仕方ないよね。
「どうせだから、一緒に見る?」
「へ!?」
「ホラーって1人で見てたらさすがに怖いじゃん? 2人で見た方が、最後まで我慢して見れそうだし?」
突然の誘い。
これって、OKするべきだよね?
で、でもどうしよう?
DVDを借りて、一体どこで見るつもりなんだろう?
「ダメかな?」
あたしが黙っていると、秋生さんが顔を覗き込んできた。
「ダ、ダメじゃないです!!」
むしろ大歓迎です!
「よかった。俺のアパートすぐ近くなんだけど、そこでいい?」
「ア、アパートですかっ!?」
ということは、いきなり2人きり!?
いきなりお宅訪問!?
ドキマキしていると、秋生さんは「やっぱり、いきなりはダメかな?」と、頭をかいた。
ダ、ダメじゃない!!
だけど、ここは軽々しくOKしちゃうのはおかしいよね?
考えがまとまらず、う~んとうなり声を上げていると、「じゃぁ、また今度ね。この映画、見終わったら感想きかせて?」と、あたしにDVDを持たせてクルリと体の向きを変える。
いっちゃうの!?
怖いDVDと一緒に取り残されてしまう!
そう思った次の瞬間、あたしの手は秋生さんの服の袖を掴んでいた。
「月奈ちゃん!?」
驚いた秋生さんの声。
「い、行きます……」
「え?」
聞き返されて、あたしはゴクリと唾をのみ込んで、空気を吸い込んだ。
「あたし……秋生さんのアパートに行きたいです……」
秋生さんの上着を握りしめている手の血管が、ドクドクと脈打つのを感じる。
あたし、今きっと顔が真っ赤だ。
「……わかった」
秋生さんは振り返ることなく、小さくうなづいた。
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