第43話

あたしがフワフワした気分のまま眠りについたころ、美影と白堵はレジから抜け出し、夜勤のバイトさんが出入りする隙を狙って事務所へと体を滑り込ませた。



「おい、菜戯、汰緒、起きているか!?」



パソコンの方へ向かって美影が呼びかけると、寝ぼけ眼な汰緒と、慌ててメガネをかける菜戯が姿を見せた。



「なんだよ、こんな夜中に」



汰緒が不機嫌そうに顔をゆがめ、目をこする。



「俺、決めたぞ!」



「決めたって、何をだ? こんな時間に大声をあげるくらい、大切なことか?」



菜戯は、ため息交じりに美影へそう尋ねた。



「大切なことだ! お前らも、下りてこい!」



そう言われ、汰緒と菜戯は目を見かわせ、そしてピョンッと床へと飛び降りた。



菜戯は寝起きでも見事に着地したが、汰緒はバランスを崩して尻もちをついてしまった。



「いってぇ……」



顔をしかめている汰緒へ、白堵が手をかす。



「ったく、なんだってんだよ」



汰緒の不機嫌さは、痛みで更に倍増。



美影を睨みつけている。



そんな視線を気にする様子もなく、美影は3人を順番に見つめていく。


「俺、決めたから」



「だから、何をだよ」



菜戯も、しびれを切らしたように言う。



「北の妖精を探す」



その言葉に、菜戯と汰緒は驚いたように目を見開き、そして汰緒は「マジかよ……」と、つぶやいた。



「美影は、本気なんだ。僕も一瞬冗談かと思ったけれど、でも、本気だって」



白堵も、美影同様に真剣な表情をして言った。



「北の妖精なんて、所詮は妖精界の噂話だ」



菜戯が、冷静な口調で言う。



「そんなの、探してみなきゃわからねぇだろ」



「んなこと言っても、実際北の妖精を見たやつがいるとは思えねぇけど?」



ボリボリと頭をかき、汰緒が仏頂面をする。



菜戯も汰緒と同意見らしく、無言のまま何度か頷いた。



「そんなの、やってみなきゃわかんねぇだろ!? なにもしてないのに、なんで諦めんだよ!!」



眉間にシワを寄せ、怒鳴るように言う美影。



そんな美影を不安そうにみつめる白堵。



「どうした美影。今日はなんだか、お前らしくないな」



ズレてきたメガネをクイッと直し、菜戯が言う。



「俺らしくない? いいや、そんなことないね。俺は本気で探すつもりだ。どいつもこいつも、なにもしないうちから諦めやがって「『どいつもこいつも』って、どういう意味だ?」



菜戯に尋ねられ、美影は「月奈だよ! 月奈!!」と、声を荒げた。



「あいつも、結果なんてかわりゃしねぇのにすぐに諦める。就職っていう問題も、好きな男がいる事も、全部全部、諦めようとする」




「月奈ちゃん、好きな男の人がいたんだ……」



白堵が、胸に両手をあてて、そうつぶやいた。



「俺は諦めない。北の妖精のことも、月奈のことも。絶対に諦めない」



そう言いきる美影に、シンと静まり返る事務所内。



どうやら、美影の言葉はみんなにちゃんと届いたみたいだ。



「そこまで言うなら、仕方ないな。美影に付き合ってやろうか、汰緒?」



「あぁ。そうだな。それで俺たちも人間になれるなら、願ったりかなったりだ」



菜戯と汰緒は目を見かわせて、うなづきあう。



「ぼ、僕も! 僕ももちろん、美影の味方だからっ!!」



慌てて白堵はそう言い、4人の決意は固まった。



「よし。それなら明後日から実行に移す」



「明日じゃなくて、明後日なのか?」



菜戯の言葉に、美影は「明日月奈はバイトが休みだ。どうせなら、人間に手伝ってもらった方が効率がいいだろ?」と、言った。



「なるほど。困った時の月奈ちゃん!」



「よぉし! 北の妖精、待ってろよ!」



汰緒がそう言い、4人は勢いよくこぶしを突き上げたのだった。

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