第26話

「落ちないでよ?」



そう注意して、ゆっくりと立ち上がる。



「わぁっ! 月奈ちゃんの見てる世界ってすごく高いんだね!」



肩の上で白堵は小さく声をあげ、そして夜空を見上げた。



「この高さからだと、花火が落ちてくる心配がないね」



「どこにいても、その心配はないわよ?」



「え? そうなの?」



キョトンとする白堵。



「すごいね、人間って。火をあんなに綺麗に魅せちゃうんだから」



「そうだね。あたしも、すごいと思う」



「僕さ、あんまり人間って好きじゃなかったんだ」



「え?」



あたしは、横目で白堵を見る。



「だって、何度でも作って、何度でも捨てるだろ?



同じものをずっと使おうとしない。それが原因で、僕たちの仲間は沢山消えてしまったんだ」



切ない表情を見せる白堵に、あたしは昔おばあちゃんに言われた言葉を思い出していた。



『服は破れたら縫えばいい。靴は汚れたら洗えばいい。どんなものでも、大切に使いなさい』



「昔は、人間はみんな物を大切にしていたのよ」



あたしは、花火に視線を戻して言った。



「そうなんだ?」



「うん。最近になってからよ、沢山作って、沢山捨てるようになったのは」



「だったら、人間が昔に戻ればいいのに」



「徐々に、戻っていくと思うよ?



物を作る燃料には限りがあるって、みんなわかってるから。



だから、また物を大切にする時代が来ると思う。今も、物を大切にしている人は、沢山いるしね?」



「そうなれば、僕たちの仲間はいなくならない! 沢山、友達もできる!」



楽しそうな声が、肩からきこえる。



それにつられて、あたしは自然と笑顔になった。



そして次の瞬間、頬に暖かな感触がチョンッと触れた。



え?



なに?



驚いて視線をやると、白堵の真剣なまなざしと目があった。



「僕、月奈のことが好きだ」



「え……?」



き、聞き間違い?



それに、さっき、もしかして頬にキスされた!?



「もし、僕が人間だったら……」



白堵の言葉が、花火の音にかき消される。



「え? なんて言ったの?」



「……なんでもない」


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