拒絶反応――ルナ・アルバーン
何でわたしが仲間外れなのさ。
いや、わたしは瑞穂で色々用事があったから、会議の場にいられなかったのは確か。でも、やっぱり疎外感がある。
蒼い大佐はわたしにあのメールの件を押し付けるつもりだ。そのくせわたし抜きで話を進めるつもりなら、こっちもやってられない。
まあそのGeM-Huの件からわたしを外すという話なら大歓迎だけど。
ガタノソアに乗艦した頃には15時。
コナー大尉に連れられ、会議室に入ると、何人かの士官と入れ違った。彼等は確か、ゴーストにいるメンツだ。隻眼姫の呼びかけで集まったのだろう。
机には、蒼髪と白髪が座っていて、その白髪の後ろにデカいのとメガネがいる。
“アルバーン、丁度よかった。てめえに次の仕事だ”
あーあ、早く海賊狩りに戻りたい。あっちの方がわたしの性に合ってる。
きっとこの蒼いサイクロプスはわたしを痛めつけるような命令を出すんだろうなあ。
サイクロプス大佐が手招きした上で椅子を引くので、渋々そこに座る。
「今回の作戦の参加者ついて、アルバーン一等兵曹にも分かるように説明する。まず、作戦チームIを編成する。若葉外務副大臣をリーダーとして、その下に橘、松島、アルバーンだ」
思わず蒼い姫を凝視する。伸ばした前髪から彼女の高い鼻が覗く。わたしの側からはその目元が隠されて見えなかったが、多分わたしを無視している。
さつきもわたしの事など知らないとでもいうように話を続ける。
「軍事的な作戦かと思っていましたが、わたしが班長でよろしいのですか?」
隻眼皇女はさつきとの会話にしか関心が無さそうだ。睨むわたしを意に介さない。
「今回は俺の主導ではあるが、別に作戦の参加メンバーは軍人とこだわっている訳ではない。使える人材ならどんどん使うさ」
正規の作戦ではないからだろう。面倒な仕事は外部に委託するのも組織運営だとは思うけど、わたしがこのチームに入るのは違和感がある。
はあ……。今のうちに断っとこ。
「失礼ですが、わたしはそのチームIに入りたくないです」
「命令だ」
でもこれくらいで諦めるようなら最初から口に出さない。
「作戦の内容は知りませんが、彼らとわたしでは役どころが違いすぎます。彼らは新人の公爵、元椿会、元十月革命で文民、わたしは根っからの軍人。チームとして異色です」
「お前、軍人なら命令に従え」
「彼らはそれぞれ事情があるのは分かります。さつきは政治家でGeM-Huに詳しいからリーダーになれるし、武蔵は黒百合会系に詳しくて、大和はオリョールが絡んだ時に力を発揮できる。でもわたしは戦うことしかできないじゃないですか」
「レオナルドの娘だ」
「そんな理由なら断ります! 父には関わらせないでください!」
向かいの3人が冷めた目で見ているのは知っている。大和なんかは眼鏡の奥の影が深くなっている。
ほら、わたしは仲間外れ。
でも、この作戦に参加したら否が応でも父を思い出してしまう。
しかしこの女か分からない女は、ジョーカーを持っている。
「俺が考えた作戦に不満があるのは結構。だが、これは命令だ。お前は、若葉の家に間借りして、今回の作戦に同行しろ。拒否権はない。命令違反には処分が下るぜ」
少しなら謹慎を受けてもいいのかなとも思う。でもこの大女が言っている処分は、将来に響く処分だ。
歯を食いしばり、机を睨むしかなかった。
きっと傍から見れば顔色が沈んでいるだろうと分かる。
「よし、アルバーンが参加することは決まりだ。今回、佐世保警察病院に匿われているらしいΑΩ-9、ΑΩ-10を救出する訳だが、主に行動してもらうのは橘と松島だ」
ほら、わたしは作戦の主軸から外されている。
「この前哨作戦では、2人のGeM-Huの実在を確認。ここで若葉のツテが必要になる。若葉、あんた入管庁に知り合いはいるか?」
「父の知り合いならおります。話は通せるかと」
「なら、決行は明日だな」
わたしの意志とは関係なく、話が進む。
自分でもしつこいのは分かっている。それでも、隻眼の女参謀に言わないといけない気がした。
「この作戦をしっかりやれば、GeM-Huに関わる作戦から抜けても大丈夫ですか?」
なんだか疲れた感じがして、机に突っ伏す。
金属の机に反響する、ダルげな自分の声。
わたしは何をしているんだろうと、状況を俯瞰している自分がいる。
「状況次第だが、GeM-Huの研究所を破壊したらお前の役割は終わる。それ以降はいなくても俺は構わん」
溜め息を吐くと、目の前の金属板が曇った。
こういう時、自分で何とかしようと背負うと、それこそメンタルがやられる。だから、なんとかなると、自分に言い聞かせる。
そうだ、今日は夜中から大変なことが続いた。
でも、これは成長痛。お父さんと縁を切るチャンスじゃないか。
今日という日をいい日にするって決めた。
記念日だ、縁を切るきっかけになった日。
がばっと起き上がると、さつきがびくってした。ごめん。
「なら方をつけます! 青薔薇会をぶっ壊せばいいんですね」
ヴィオラ大佐は頬杖をつき、呆れを含んだ溜め息を吐いた。
「何でやる気が出るか、お前は難しい奴だな」
「ルナさんは、なんというか、面白い方ですね」
「とんでもなく生意気な奴だがな」
フォローなのか分からないけど、さつきの意見に大佐姫が失礼な返しをする。
でも、そんなことは分かってる。自分でも生意気と思ってる。
不本意ではあるけど、わたしは父との縁を切るために、作戦Iに全力で踏み込むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます