27、赤坂乙葉の呼び出し

「明智せんぱぁーい!」

「お?」


待ち合わせをしている校門で待っていると、絵美よりももう1まわり小柄な少女の姿が見えた。

パタパタと小さい身体を必死に動かし、外ハネの髪を揺らしながら駆ける姿は小動物みたいで可愛らしい。

ウサギを眺めている気分になり、ほっこりする。

タケルちゃんが彼女を可愛がるのも、また理解出来るというものだ。


「やぁ、こんにちは乙葉ちゃん」

「何がこんにちはですか!こんちくしょう!こんちくしょう!」

「怒らない怒らない。何をそんなに荒ぶっているのさ!?」


俺を視界に入れ、挨拶をしただけで彼女は怒りのボルテージが溜まっていたらしい。

その怒りを俺にぶつけるために弱々しいパンチを俺の腹に2発打ち込むが、残念だが可愛いだけでダメージは0である。

カードゲームでありがちな攻撃力0とかってこんな感じなのかなと和やかな目線に立って評価する。


「私は!私は、明智先輩のせいで抱えて生活しているのに、当の本人は幸せそうにしているのが憎いですよ!」

「なんて理不尽な……」

「ワタシノココロハボドボドダ!」

「迫真過ぎて何言ってんのかわかんねぇよ……」


乙葉ちゃんの身体はボロボロだというのは伝わってきた。


「私、告白します」

「え、まさか乙葉ちゃん!?タケルじゃなくて俺を……?」


れ、恋愛的な意味だろうか……?


「恋愛的な意味の告白なんかしませんよ。先輩は馬と鹿です。つまり、馬鹿です」

「うっ!?」

「タケルお兄ちゃんに明智先輩が下心のある変態的な目で見てくるってラインしそうになります」

「お願いだからやめて……」


今朝タケルから釘を刺されたばかりでこの展開はかなりシャレにならない。

タケルちゃんのバーサーカーな一面が表面化したら誰にも止められなくなるんだぞ……。


「そうですか。タケルお兄ちゃんに釘を刺されましたか」

「あ、あぁ……」


もうナチュラルに俺の心読むやん……。


「はい。ナチュラルに明智先輩の心を読みます。『嘘と真実を見抜く』ギフト。これが私の所持するギフトだとあなたに告白します」

「もはや心を読む領域になってるね……」

「便宜上、『嘘と真実を見抜く』と言っていますが言葉と本音が同時に頭に入るんですよ。明智さんの『あ、あぁ……』と同時に『もうナチュラルに俺の心読むやん……』が頭に入ってきてます」

「…………」


こわっ……。


「因みに今の明智先輩は黙っていたので頭に考えていることは入ってきませんでした。ただ、おそらく『こわっ……』とか考えているんですよね」

「…………」


こわっ……。


「どのくらいの距離なら頭に入ってくるの?」

「近くを通り過ぎている人くらいなら。あっ、試しに女子3人に囲まれているあの人の考えていることを読みますよ」

「あれは……、池麺君」


池田麺太郎。

通称・池麺君。

会話したことはないけど、入学当時から有名なイケメンフェイスはたくさんの女子を虜にしているとか。

円曰く『しょうゆ顔』らしい。

イマイチ俺はしょうゆ顔とか塩顔とかよく見分けが付かない。


『えー?僕の好きな人ですか?君たち全員みんな好きだよ』


校門をくぐり抜けた池麺君のそんな言葉が耳に届く。

「なるほどなるほど」と頷きながら乙葉ちゃんは解読したらしい。


「い、いったいなんだって?」

「『残念だけど僕の好きな人はもう決まっているんだ。ごめんね。あの子はどこにいるのだろうか……。あそこにいるのは5組の明智君!?どうしても彼を見ると彼女を思い出す』と考えていましたね」

「え?池麺君って俺を認識してたんだ!?」

「明智先輩は自分が有名人という自覚が足りませんね……」


悪い意味で有名なのは否定出来ない……。

最近は『悠久のお気に入り』だの『明智先生の方が先生より先生してる』だのと好き放題言われすぎている。


「そ、それは良いとして……」

「あ、否定はしないんだ」

「どうして君のギフト能力を俺に?」

「そうですね。では……」


コホンとわざとらしい咳払いをしながら、俺をチラッと見上げた。

その目は何かを問うていた。


「何者ですかあなた?私が茜ちゃんに殺害されるとか考えてましたよね?それに、去年はじめて会った時から私のギフトをわかってましたよね。あなたは一体……?」

「…………」

「明智先輩、誤魔化さないでください。私に嘘は通じませんからね」

「……………………」

「あなたは未来がわかるとでも言うのですか?」

「………………………………」

「あ、あの……っ!?明智先輩……?」

「…………………………………………」

「なんかしゃべってくださいよ!?私がアホの子みたいじゃないですか!?」

「……………………………………………………」


俺が考えた乙葉対策の最強必殺技【黙る】である。

こうすることにより、赤坂乙葉に何も悟らせない力が宿る。

そして、実は口を開かなくても相手にメッセージを伝えることは可能である。

その方法を早速実践してみせた。


「…………。…………!………………!!」

「いや、私手話は通じませんから!やめてください!」

「…………」

「『手話通じないんだ……。可哀想……』みたいな目はやめてください!」


因みに俺は手話で『前世でギャルゲーをしまくったから先の展開がわかる』という告白をしたところであった。

乙葉ちゃんが手話が通じる相手であるなら俺の秘密がバレていたということである。


「お願いですから普通に会話しましょうよ……」

「わかった!わかったから!普通に話をしようか!」


どれくらいまでを話すかの線引きが難しい。


「線引きが難しいですか」

「せめて心の声に返事するのはやめてくれないかな……」

「明智先輩も私の心の声を聞いて良いですから」

「全然イーブンじゃないからなそれ」


俺のギフトに『相手の心を読む』なんて能力は備わっていないのだから。


「ささっ!今から私は明智先輩に念を送ります。私は今なにを考えているか。当ててくださいよ」

「……むむ?おお?おおっ!?」

「わかりましたか明智先輩!?」

「『明智先輩が格好良すぎて、乙葉しゃべるとドキドキしちゃう!スタチャスマイル☆』」

「果てしなく気持ち悪いですね」

「…………」


乙葉ちゃんは殺意を込めた冷静さでゴミを見る目をしながらキツイ一言を言い放つ。

場の空気は一瞬で冬の気温に変わったと錯覚さえし得る。


「和ちゃんがあなたを罵倒したくなる気持ちがよくわかります」

「そんな気持ちわかんないでくれ……」

「ただ、和ちゃんがあなたを好きな理由はよくわかんないです」

「ムカつくなお前……」

「タケルお兄ちゃんの友達ならもっと真面目な雰囲気作ってください。私がお兄ちゃんのお母さんだったと仮定して、明智先輩を家に連れて来たら玄関で正座させますよ」

「…………はい。すいません」


お叱りを受ける俺は心で正座していた。


「わかりました。では、時間をあげます。3日ぐらいで明智先輩が話せる範囲と話せない範囲で区切りを付けてください」

「わ、わかったよ……。考えておくよ」


面倒くせぇ……。

その場のノリでなんとかなるでしょ。


「その場のノリはやめてくださいね先輩」

「あ……」


ジト目で念押しをされてしまう。

「わかった、わかった!考えるから!」と本気の言葉で訴える。

「お願いしますよ」と強くダメ出しされた。


「君のギフトは大変だね」

「大変なんですよ!知りたくないこともなんでもかんでも受信するんですから!」

「はぇー……」


三島遥香のギフト『エナジードレイン』みたいに調節出来そうな気はするんだけどね。

多分、オンオフの切り替え方を学べば今より生きやすくなると思うなぁ。


「え?ギフトって調節出来るんですか?オンオフとか弄れるんですか!?」

「あっ、やべっ!?」


めっちゃ面倒な情報渡しちゃった!


「無理無理!ギフトのオンオフなんて弄れないよ!?」

「でも三島先輩でやったんですよね?」

「…………」

「お願いします!明智先輩!ギフトの切り替え方教えてください!本当にお願いします!タケルお兄ちゃん以外の思考が全部丸わかりなんて嫌なんですよぉ!」

「…………」


三島みたいに教える流れだよなぁ……。

自ら墓穴にダイビングしてしまったことを呪う。

こうして数日後、『赤坂乙葉に話せることを話す』『ギフトのオンオフを覚えさせる』というミッションが課せられたのであった……。

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