8、十文字理沙の読み聞かせ
それでは、『くまさんのおんじん』のはじまりはじまりー。
ある村に嫌われ者のくまさんがいました。
このくまさんはイタズラ好きで、よく人様に迷惑をかけていました。
例えば、リス君の好物のドングリを食べてしまうのは軽いイタズラです。
本気のイタズラになると、生まれたネコさん夫婦の子供を1匹罠にかけて殺害してしまい、モグモグと食べてしまうヤンチャボーイでした。
ある日のこと、くまさんが山で狩りをしているとトラバサミに引っ掛かってしまい血がドクドクと流れてきました。
死を覚悟したくまさんはそのまま意識を失いました。
しかし、夜になりくまさんの目が開きます。
何故死ななかったのか不思議なくまさんでしたが、どうやらトラバサミは足から離されていました。
包帯も巻かれていて、どうやら誰かが治療をしてくれたようです。
ただ、残念ながらくまさんを助けたのは誰なのかわならなくてお礼を言うことは出来ませんでした。
──それ以降、巻かれた包帯を見る度にこれまでの自分をくまさんは後悔し始めました。
そして、この日からある変化がありました。
足のケガで遠くまで移動が出来ずに、狩りに行けなくなったくまさんの家の前に食糧が置かれていました。
今日はシャインマスカット。
次の日はさくらんぼ。
次の日は山菜。
次の日は巨峰。
次の日はイチゴ。
次の日はバナナ。
次の日は青リンゴ。
いつも、見知らぬ誰かがこっそりと食糧を置いていってくれたのです。
くまさんは、その見知らぬ誰かのことを『恩人』と呼び、嫌われ者の自分のために尽くしてくれる彼を尊敬していました。
そして、心を入れ替えて『もうイタズラなんかしない!』。
そう誓いました。
1ヶ月が経ち、ケガも治り、自由に動けるようになったのです。
そして、くまさんは1つのことを思い付きました。
『そうだ!明日はこの『恩人』のために僕が彼をもてなそう!』
くまさんは気合いを入れて、山に出掛けました。
まだ見ぬ『恩人』のために、くまさんはたくさんのご馳走を用意しました。
山菜とグリンピースのサラダ。
新米のお米を炊いたご飯。
新鮮なトマトのジュース。
熱々で油が乗ったウサギのステーキ。
身体が暖まるコーンスープ。
カリカリとしたジューシーなフライドポテト。
大きいイチゴをふんだんに使ったデザートのタルト。
くまさんは感謝を込めながら『恩人』のために気合いを入れてもてなす準備をしていました。
玄関が見える位置に隠れて、直接『恩人』にお礼を言うサプライズをする予定です。
気合いを入れて、朝まで待ちました。
──しかし、今日に限って『恩人』は現れません。
普段は色々な食糧が置かれる玄関には何もありません。
『今日がダメなら明日だ!』と、くまさんは待ち続けます。
しかし、1日が経とうが3日経とうが『恩人』は姿を見せません。
『もしかしたら、自分のケガが治ったのを知って来てくれなくなったのかもしれない』と考えてしまい、寂しくなりました。
どうしても『恩人』にお礼を言いたいくまさん。
彼は、近所でなんでもわかるサルの占い師を訪ねました。
『僕がケガをした時に助けて、食糧を運んでくれた『恩人』の正体を知りたいのです』
『わかりました。それでは、水晶で真実を映します』
そう言って、サルの占い師は水晶に釘付けになります。
5分が経った時、占い師はくまさんに言いました。
『あなたの『恩人』の正体は、ステーキにしたウサギさんのようですね。ウキャキャキャキャ、自分で『恩人』を殺してステーキにしたんだよ!ウキャキャキャキャ!ウキャキャキャキャ!ウキャキャキャキャ!ウキャキャキャキャキャキャキャキャ!『恩人』は今、あんたの胃袋の中だよぉぉぉぉ!ウキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!』
◆
「うわぁぁぁん!怖いよママぁぁぁ!」
「サルの顔怖いよぉぉぉ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
理沙の迫真の演技と、千姫のやたら気合いの入った目が血走っているサルのイラスト、救いがなさすぎるごんぎつねリスペクトの文章を書き上げたアヤ氏の3つが融合し、おぞましい悪意が渦巻いていた。
「流石俺っち!考えさせられて、かつ強烈なトラウマを植え付けるシナリオの腕は錆びてないぜ!」
「帰れ」
「あーれぇぇぇ」
アヤ氏もヨルの手により廊下に叩き出された。
「おい、理沙!お前のその迫真の演技はどうなってんだよ!?」
「こ、こうやって読めって黒幕さんと綾瀬さんから念押しされていて……」
「クハハハッ!愉快、愉快」
「お前も帰れよ」
「ちょっ!?ウチ部長なんですけど!?」
概念さんも廊下へと退場させられた。
ヨル選別の元、千姫とアヤ氏と概念さんは教室の出入りを禁じられて悠久の周りで正座をさせられていた。
「ま、松本先生!他!他の読み聞かせの絵本とか紙芝居はありますか!?」
「ちょうど『注文の多い料理店』が最近保育園に届いたんですよ」
「いや、これもトラウマ製造機!」
部長と副部長が不在になり、代理のリーダーを務めた絵美が「各自で子供たちに対応しましょう!」と指令を下す。
すると美鈴や三島が積み木を始めたり、和と星子が歌を歌いたい人を集めたりと自分にあった遊びを提案した。
乙葉なんかは、トランプを持ってきて子供にカードを引かせた。
それを子供たちに何を引いたのか口に出してもらった。
「私が引いたのはハートの7だよ」
「本当だね」
「当たりーっ!」
「こっちはダイヤの9!」
「君はハートの9だよね」
「当たり!すごぉ!」
「お姉さんすごーい!」
乙葉はガッツリギフトで嘘かどうかを暴きながら子供たちを驚かせるショーを見せていた。
「なぁ、ボール遊びしよっ!ボール!」
「よし、俺たちはボール遊びするか!」
毒島君がサッカーボールを持ってきて、俺とタケルに近付いてきた。
俺は、彼の目線まで下げて頭を撫でながらサッカーボールを受け取る。
「よぉーし、サッカー好きな子はこっちで遊ぼう。男の子も女の子も集まれ!毒島君もサッカー混ざるぞー」
「混ぜて混ぜて」
「兄ちゃん、名前はー?」
「秀頼だぞ」
「ひでより遊ぼ、遊ぼ」
「おぉ?元気が良いな」
「兄ちゃん、早く行こっ行こっ」
「ツヨシ君、あんまり押さないで」
男子の半分くらいが俺とタケルのところに集まってくる。
クラスの人気者であるヤンチャボーイな毒島君効果だと思うけど、やたら野郎に気に入られた。
特に名札にある名前で呼んであげると、喜んでくれた。
それから体育会系であるゆりかとヨルを混ぜながらみんなでサッカーというよりは、ボールを蹴ってパスするだけという簡単な遊びを2時間くらい続けたのであった。
─────
「秀頼様は、子供たちに大人気でしたね!美鈴は感激しました!」
「ありがとう美鈴」
「子供にも愛されて美鈴は鼻が高いです」
園児たちのお昼寝の寝かし付けも終えて、現地解散になるのであった。
そこで部員全員で駅に向かいながら、雑談をしていた。
「でも秀頼。お前は何故そんなに子供の心を掴むのが上手いんだ?」
「秀頼はずっと子供だからだ」
「なんだと咲夜!?」
「なんか納得した」
「納得しないで!?」
ウンウンと頷きながら美月は咲夜の意見に賛同してしまっていた。
むしろみんなより、倍生きているはずなんだけど。
「でも明智さんの子供の扱い方素敵でしたよ。ボクたち意外にも園長先生も松本先生も褒めてました」
「そっか」
三島の褒め言葉にちょっと照れてしまう。
ただ、俺は虐待されていた時にこんな兄ちゃんが居れば嬉かったという憧れの妄想を自分でやってみただけだった。
いきなりスカート捲りをしてくるクラスではあったけど、振り返ると楽しかった。
…………のだが、なんかさっきからみんなが俺と目を合わせてくれない気がする。
「…………ん?どうしたのみんな?」
「……いや、なんでも」
三島と話をしていた時にはこちらに視線を向けていた絵美を覗き見ると、彼女はツインテールを揺らしながら俺から顔を反らす。
ゆりかに目を向けると、彼女もプイと目を反らす。
…………なんなんだろう、一体……?
最後の最後に謎が残った。
『わ、わたしに子供が産まれても秀頼君なら安心して任せられるね。3人の子供を愛する夫なんて素敵……!』
『明智君と私の子供とか、どんな性格になるかな!?き、気が早いかなぁ……』
『私と明智君の子供はどんな子かな?豊臣君みたいに素敵なお兄ちゃんと、豊臣君みたいに優しい妹が欲しいな!』
『ウチは子供に興味なかったが、あんな子供と遊ぶ秀頼を見ていたら1人は欲しくなったな……。マスターも可愛がってくれるだろうか……?』
『5人は秀頼さんの子供欲しいなぁ』
『姉者やみんなに自慢できる素晴らしい子供を育てたいっすね』
『お兄ちゃんと私の子供とか……。欲しい!どうにか血の繋がりを抹消させないと!』
『し、師匠に処女を渡して2人は子供が欲しいな。弟のぶんまで強く生きれる子を育てたいぞ』
『明智とあたしの子供とか……。ありだな』
『ボク、明智さんの子供生んで平穏な家庭作りたいな』
『わたくしと美鈴のような双子が欲しいな』
『秀頼様と今すぐ結婚して、将来2人の男の子と3人の妹を作りますわ!やっぱり早めに子供は欲しいですわ』
『明智さんと女の子が欲しいな。翠のぶん、ずっとずっと愛すの!』
『お姉ちゃんとミドリの子を別々に1人ずつ作るのがリアリティーのある人生計画だよね』
みんながみんな、秀頼と子供が出来たらという妄想をしては恥ずかしくなっていたのであった。
全員の妄想の子供の合計、最低27人であった。
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