39、本物の色:透明人間
春夏秋冬。
ジャパンの季節ルーティンを終えて、再び春に戻った。
クラスで居ない者の1年間を終えて、2年生になった。
ざわつく喧騒に群がるクラス表に掲載されたクラス替えでは、また明智秀頼さんは違うクラスだった。
「運命が私の邪魔してる……」
不愉快だなぁ……と呟きそうになるのを堪える。
周りで喜びあっている人や、ただ黙ってクラス表を見ている人らが彼と同じクラスになっている可能性があるのを考えると嫉妬の炎で燃やしてしまいそうになる。
そんなギフトを覚醒してしまうかもしれない。
(いや、絶対ないでしょ)
冷静な妹の突っ込みが脳内に響く。
妹が私の
逆に私が
そうやって私は周りに人がいる状況で大声で叫びまくるストレス発散なんかも出来たりするのだ。
事情を知っているお母さんは『お互いのことをお互いは絶対に知ってるのエモい』とギフトに対し嬉しそうに泣いていたこともあったっけ。
そうやってクラスを確認し終わって自分のクラスらしい7組に足を運ぼうとした時だった。
『5組にあるアリアって名前と仮面って名前は転校生らしいぞ』
『仮面ってなんだよ!?』
『タキシード?』
『仮面じゃん』
すぐ後ろから知らない男子生徒2人の会話が耳に届く。
盗み聞きであるが、2年の進級時に転校生が来るという情報が手に入る。
1年時ではギフト非所持者が1人だけ授業に付いていけなくて退学した生徒がいたし、そういう人らの穴埋めもあるのだろう。
「…………」
でも、それで明智さんと同じ5組枠を2つ取るのは横取りではないかな?
学園長の悠久先生がそんな指示を出したのに不満だなぁ……。
嫉妬なのか、怒りなのかわからない気持ちを引きずったまま7組の教室に入る。
1年時の教室ではまだ静かだった教室内も、2年時のクラス替えでは既に複数の友達の輪が出来ていた。
どうやって友達作るの?とか心で不満をぶちまけると(インケーン)とミドリが苦笑していた。
自分の席に付き、ライトノベルでも読もうかと鞄をごそごそ漁っていた時だった。
「あっ!?島咲さん、久し振り」
「…………ひ、久し振りです?」
私を呼ぶ声に顔を上げると白髪で少し身長が低めで、ブレザーをぴしっと丁寧に着込んでいた男子生徒がこちらに向かって歩いてきた。
ひらひらーと手を振っている仕草と、島咲と呼んだことから知り合いらしい。
…………らしいけど、誰でしたっけ?
見覚えはあるんだけど、名前が全然浮かばなかった。
「わ、わりぃ。覚えてなかったよな……。鹿野だよ、鹿野健太。小学校の時にちろっと同じクラスになってたんだけど……」
「か、鹿野さん!?お、覚えてます!絵が上手な人ですよね!」
「ははっ、上手なんて言われる腕前だと照れるよ」
絵の具を使った彼の絵は、クラスで1番クオリティが高かったのを思い出す。
よく入選とかで賞状をもらっていたなぁとか懐かしくなる。
まさかそんな鹿野さんが、地味で虐められっ子だった
子供の時の鹿野さんのイメージは絵が上手、足が速い、私と同じで人との会話が苦手という3つがあった。
しかし、あれから成長し、人との会話が苦手という特長を改善したように見える。
「そっか。小学生の同級生が高校で被る可能性もあるんですね」
そういえば明智秀頼さんも小学校が同じだし、そういう人が何人かいるのか。
そんな風に小学生の知人が話かけてくることなんか1年間無かったので、見落としていた。
「結構いるよ、そういう人。俺の友達の明智秀頼とかも小学校同じだし」
「あ、明智さんと友達なんですか!?」
「あ、あぁ。くだらねーことをベラベラ喋ってるよ」
「ど、どんな会話するんですか?」
鹿野さんと明智さんの接点を知らなかったので、2人仲良くつるんでいるイメージが想像出来ない。
イメージを補完してくれるように、鹿野さんが考えながら口にしてくれる。
「この世界にギフトを配る神様が実際に存在するらしく、『クハッ』って人を見下して嘲笑うような性根が腐った悪人とかなんとか」
「え?ギフトを配る神様?」
「見た目は凄く子供なんだって」
「???」
「真面目に考えるなよ。秀頼はそういうジョークで人をからかう奴なんだよ。俺だって信じてないしね」
明智さんが、意味もなくそんなジョークを言う人なのか?という疑問が沸く。
イメージよりも、お茶目な人だなって感じがして可愛い。
……あれ?
でも確かに『クハッ』ってどこかで聞いた気が……。
ギフトが覚醒した瞬間に聞いた嗤い声がそんな風だったような……?
いや、真面目に考えることじゃないか。
あとは、鹿野さんが『秀頼』と呼び捨てで呼べる仲なのが羨ましい。
「…………」
私も、彼と人付き合いがしたいのに……。
彼にバレないように、奥歯を強く噛み締めていた。
─────
2年の生活が始まり、あわただしく授業が開始する。
ギフト関連の難しい授業が、また再び苦労を押し寄せていた。
周りも『瀧口先生の授業は面白いけど、難しい!』など色々な愚痴を言い合っている。
勉強と読書しかすることがない私ですら、油断をすると授業に取り残されそうになりくらいにはやはり有名校といった感じだ。
馴染めないクラスで1人ポツンと椅子に座っていた時だった。
クラスの黒板前が、妙に騒がしい。
男子がそわそわしていて、女子らは黄色い声を上げている。
何かしたのかとちろっと誰とも視線を合わせないようにちょっとずつ顔を上げた。
「なるほど。それは素敵なクラスですね!素敵だわ」
「はい!私たちのクラスは宿題を全員提出するように教え合いを活発に行っています。先生からも7組は褒められているんです!」
「活発にするなんて楽なことじゃないのに……」
「1人はみんなのために。みんなは1人のために。これが私の座右の銘で、フォローし合うのが大切だと行動してるんです!」
「まぁ!」
クラス委員長が赤くなりながら力説している。
その力説にクラスのみんなが注目している。
私……、そんな勉強の教え合い知らない……。
40人中、ハブられている私が言うなら間違いない。
「ウフフフフ。前に通っていたギフトアカデミーにはいなかったタイプだわ。みんなを導く委員長は素敵ね!」
「あ、アリアさんにそこまで褒められると光栄ですよ」
「…………」
クラスの委員長と会話をしている人を見て衝撃を受ける。
美しいクリーム色の短い髪、サファイアのように輝く青い瞳、手入れのされた白湯のような肌。
微笑んだだけで、誰もが頭から離れなくなるというくらいに人気者なのは5組のアリア・ファン・レーストさんだ。
そこに控えているオペラ座の怪人のように無機質な仮面がいても、アリアさんのオーラで仮面の騎士が気にならなくなるくらいに特別な人だった。
「アリア様素敵だよなぁ」
「なんてーか、アリアさんは黒いところがないんだよなぁ」
「偽善者感がなくてよ、あれ神様だよ!」
転校生でまだ学校に通って10日ほどなのに、違うクラスでも有名人だった。
誰にでも優しく、気品のある姿は天使と表現する人もいるらしい。
それに比べ、私は1年通っていてこのボッチだ。
彼女を視界に入れるだけで、私は惨めになる。
住む世界が違うのなら、こっちに土足に入らないで欲しい。
私は逃げるように教室から出て行く。
誰も呼び止めないし、興味もない。
──島咲碧という人物はまるで透明人間であった……。
「チッ……、1番声をかけたかった人に逃げられた」
「それでですね、アリアさん!私のクラス自慢は他にもあってですね!」
「…………そんなの興味ないっての。どうでも良い」
「アリアさん?」
「いや、なんでもないわ!続きをどうぞ」
「はい!私は虐め撲滅も考えていてですね!」
「…………あぁ、マジで続けるんだ。良い子振るのってだりぃ」
アリアは誤魔化すように笑い、教室から出て行った1人を名残惜しそうに出入口をチロチロ見ていた。
クラス委員長の自慢話は、ただただ虚しく教室の雑音の1つのように誰も興味を示さなかった。
アリアの冷たい視線に気付いていたのは、終始黙っていた仮面の騎士のみであった。
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