20、島咲碧はハンカチを返す
「やっぱり学校は人がいるだけで楽しいねぇ……」
人がたくさんいる安心感とでも言うのだろうか。
もしいきなり学校に数人規模のテロリストが侵入してきたとしても、何百人も生徒がいれば返り討ちが可能だろう。
しかし、1人しか居ない状況の自宅に数人のテロリストが上がり込んできたとしたらどうだろうか?
恐ろしい……。
返り討ちなど到底出来ないだろう。
(いや、そんときは素直にギフト使えよ……)
中の人の至極ごもっともな意見に納得しながら、トイレから教室へ帰ろうとした時であった。
『あっ!?明智さん!見付けました!』
ん?
横からものすごい黄色い声を上げながら青い髪をなびかせる少女を見付ける。
あぁ、こないだ広末に虐められていたヒロインの1人である島咲碧であった。
「やぁ、こんにちは島咲さん」
「わ、私のこと覚えていてくれてたんですねぇ!感激です!」
「そんなオーバーな……。ははっ」
面白いくらいに過剰反応が大きい子である。
周りには中々居ないタイプの子である。
「こないだの金曜日、学校を休まれたみたいでしたが大丈夫でしたか!?あ、明智さんに何かあったのかと思うと不安で不安で……」
「ご、ごめんね心配かけて……」
「明智さんが痴女にでも襲われたのかと思うと殺意が止まりませんでした……」
「いや、痴女に襲われて休むってどんな状況!?」
例え話も中々ユニークである。
島咲碧のファンは、ちょっと病んでて好きって意見を聞く。
一応、前作のファーストシーズンで美鈴が攻略出来なかった需要を満たすためにヤンデレに近いとかだった気がする。
あんまりセカンドシーズンはやり直さないから、そんなに思い入れがないんだよな……。
なぜなら、セカンドシーズンは最強の推しである永遠ちゃんの追加CGが1枚もないからやる気があんまり起きなかった。
序盤しか登場しなかったし。
ただ、艶のある声の永遠ちゃんボイスが流れるところは鬼リピしまくったけどね。
「あ!あと、これ返すの忘れてましたね!」
「あ、俺のハンカチ。そういえば島咲さんに渡したんだったね」
「ハンカチをお返しいたします」
「うん、ありがとう」
「洗濯もしておきましたから安心してお使いください」
ハンカチはあげたと認識していたから、返ってくるのはありがたい。
どうせ安物だし、2年くらい使った古いハンカチだしそんなに未練なかったしね。
…………ん?
「お!?」
「ど、どうかしましたか明智さん?」
「あぁ、いや、なんかふかふかな気がしたからさ。柔軟剤の違いかな?」
「わかりますか!?お母さんこだわりの柔軟剤で洗濯させていただきました!」
「へぇ、女の人はそういうの気にするんだね」
明智家はおばさん以外が、がさつな野郎しか居ないから1番安い柔軟を使っているからね。
高い柔軟剤だとこんなにふかふかになるんだなぁ。
しかも少し
まるで新品のようなハンカチに変わっており、高級柔軟剤ってすげぇと驚かされる。
まるでクリーニングにでも出したのかのようにピチッとしている。
なんなら洗濯しまくったことによる色落ちすら回復しているのだから高級柔軟剤は侮れない。
「ありがとう、島咲さん」
「うふふふふっ。いえいえ大丈夫です。こちらこそ、学校の虐めも無くなって平和な日常を送れています!明智さんのおかげです!感謝してもしきれません!」
「また何かあったら声かけてよ」
「…………」
そろそろ次の数学の授業が始まるな。
島咲さんに移動するように促しながら、途中までの道を並んで歩く。
「…………何かあったらじゃなければ声をかけてはいけないんですか?わ、私はいつっ……、いつでも明智さんに声をかけたいです……」
「ん?別にいつでも声をかけても良いよ?」
言葉の綾にそんな深く考え込まれても困る……。
タケルや山本なんか理由が無くても声かけてくるし、『暇ぁ!』って俺にどうして欲しいのか一切わからない言い掛かりもしてくるからね。
「本当ですか!?」
「うん」
「じゃあ、明智さん!」
「どうしたの?」
「いえ、神聖なあなたの名前を呼びたかっただけです!」
「そっか」
明智って名字に神聖さはあるのか?
「明智さん!」
「どうした?」
「いえ、崇高なあなたの名前を呼びたかっただけです!」
「そっか」
明智って名字に崇高さはあるのか?
そんなやり取りをしていると、俺と島咲さんの教室の分かれ道の分岐点にたどり着く。
「じゃあ、またね島咲さん」
「はい!また声をかけますね!」
「ハンカチ洗濯してくれてありがとう」
「大丈夫です!私がやりたかっただけですから!」
手を振りながら島咲さんと別れた。
なんというか、パワーとかガッツのある子だ。
あんな子なら虐めとかあんまりされなそうなのにな……。
──やっぱりギフトが原因かねぇ……。
島咲さんに同情してしまう。
同じクラスの鹿野にちょっと気を配るように言っておいた方が良いだろうか。
「…………はぁ」
島咲碧、妹のミドリ。
彼女らを考えると自然とため息が出てくる。
平和にいかないもんかねぇ……。
─────
「…………気付かれなかったよね?」
島咲碧は自分の教室に戻り、机に座る。
そしてポケットから彼に手渡した柄と同じハンカチを取り出す。
「い、いけないこととわかりつつやっちゃった……」
彼女は自分の手に握られたハンカチを震える手で持ち上げた。
「…………明智さんがずっと側で守ってくれてる気がしてきて素敵」
うっとりとハートマークを瞳に浮かべた彼女はハンカチは愛おしそうに握っていた。
†
セカンドシーズンに宮村永遠の新規CGは1枚もありません。
第10章 月と鈴
番外編、ギャルゲーのような人生
こちらを参照。
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