18、三島遥香は触る

それからは絵美や円たちが作った消化に優しい夕飯を取りつつ、看病側だった美鈴たちが食器洗いに転じていた。


「す、スタチャも包丁とか使うんですね!はじめて見ました!」

「家でも料理しますからね!家庭的スタチャだぜぇー☆」

「あぁ!スタチャ凄い!」


楓さんは終始、スタチャと仲良く談笑している。

聞いたことはなかったが、実はファンだったのかもしれない。


「むしろあたしは和が台所預かれることに驚いたけどな」

「ヨルパイ、イメージで喋るの良くないっす。私、出来る女っす。むしろヨルパイもあんまり家庭的なイメージないっす」

「んだと!?」


和とヨルが弄りあいをしている。

確かに2人共、あんまり家庭的なイメージはないかも……。

ただ、ヨルに至ってはマスターの喫茶店の料理担当になっているのだから面白い。


「ウチの妹は出来る風を装うのが得意なだけ。全然料理とかしないじゃないの……」

「津軽家の苦労が見えますね」


永遠ちゃんが苦笑しているなど、みんながゆったりとした時間が流れている。


「ほらほら、秀頼君?どうでした?」

「うん。美味しかったよ。味付けは絵美が?」

「正解!流石秀頼君だね!」

「うん。絵美の味覚えちゃった。やっぱり絵美の料理はいつ食べても美味しいね」

「はぅ!?うーん、好き!秀頼きゅぅぅぅん!」


絵美に膝枕をされながら頭を撫でられる。

思った以上に力が弱く、くすぐったい。

絵美の小さい体に、俺の頭は重くないか心配していたが、「全然大丈夫」と親指を立てながら膝枕を促された。


濡れタオルが落ちないように、撫でている手の反対の左手で抑えてくれていた。


「こうして見ると、ちょっと秀頼君って日焼けしてる感じだね」

「確かに。肌黒っぽいかもね」

「目付きも怖そうに見えるだけで、怖くないのも好き」

「あはは……」


怖そうに見えるだけ……。

なんか情けない評価である……。

『強そうなだけで強くない男子が1番ダサイ』という前世の母さんの言葉を思い出した……。


容姿については、原作の秀頼も竿役っぽく日焼けしたようなちょっと肌黒い感じがあったが、俺もそんな感じだ。

インドアな反面、アウトドアなところもあり、外にいることも多いから仕方ないかな。

まぁ、サッカー部の山本を初めとしたガチガチの体育会系に比べたらそこまでは黒くはないとは思う。


「ワイルドでちょっと良いね!筋肉も引き締まっていて!もう、こんなんだっけ子供の時!?」

「た、達裄さんの影響かな……?」


前世の剣道部時代もガッチガチに鍛えていたけど、その筋肉の付け方をこっちの世界でも実践していたに過ぎない。

それに前世は身体は大きい感じだったが、明智秀頼ではビジュアルも気にして引き絞ったような筋肉にしている。


「そういえば秀頼さんの筋肉を間近に見るチャンスって中学のプールの時以来かな!?男子と女子って体育別ですもんねー」

「え、エイエンちゃん!?」


キラッキラに目を輝かせた永遠ちゃんが、俺と絵美に近付いてくる。


「お腹失礼するぞ、秀頼」

「ボク、ワクワクしますよ!」

「あっ、ちょ、美月!?」


服をぶわっと広げた美月に、三島や永遠ちゃんが興味深そうに凝視する。

「おぉ!」と美月がテンションの上がるように大きい歓喜の声を漏らす。


「ちょ、ちょっと触ってみたい」


ピタッと三島の指がお腹に当たる。

熱で普段より体温が高いこと、彼女の体温の低さが合わさりなんとも言えないくすぐったさがあり……。







「ひゃっ!?」






変な裏返った声を出す。


「ひでよりくん……」

「秀頼さん……」

「明智さん」

「ひでより……」


4人が面白いオモチャを見付けたようにあざ嗤う。

や、やべ……。

なんかヤバい、なんかヤバい!

絵美の膝枕から逃げようとした時だった。


「つんつーん」

「ひゃっ!?」

「えーいですよ秀頼さん」

「あっ!?」

「えいえい」

「きゅっ」

「ツンツン攻撃だ」

「あっ!?ひっ!?きゅっ!?」


お腹の筋肉を触られまくる度に変な声をだすくらいに弱いのを知った途端にサディスティックに嗤う彼女らに弄ばれまくった。


「ゴミクズ先輩!スマホ持ってきました!録画してます!」

「ひゃひぃっ!?や、やめっ!?」

「私は撮影中です。普段撮影される側だから新鮮かも」

「ひっ!?ちょっ!?あひっ!?ひぃぃっ!?」

「おーい、ゆりかぁ!タケルぅ!美鈴!咲夜!理沙ぁ!とりあえず皿洗いよりこっち来いよぉ!」

「よ、呼んでんじゃ……、あびっ!?」

「えーい!」

「ま、まどきゃまで……!?」


自分でも知らないくすぐりポイントを全員に知られてからは地獄だった。

いつの間にか額のタオルも取れて、瀕死状態になっていた。








「ちょっ、ちょっと!?か、帰った方が良い時間なん──きゃっ!?」

「普段完璧な秀頼さんにこんな弱点があるなんて」

「明智さん、可愛い」

「や、やめっ!?」




俺の言葉は届かない。

19時ぐらいになっているので、そろそろ帰った方が良い時間帯だが、みんな俺を弄るので必死らしく声が届かない。

明日が土曜日で休みだから余裕があるのかも……!?とか思っても、くすぐって言葉にならない。

みんなのオモチャ化にされて死にかけた時だった。





ガチャッ、と玄関の扉が開く音がする。


はっ!?

やべっ、あいつが帰ってきたとヒヤヒヤしてきて、くすぐったい汗と変な汗が混ざり合う。







『なんや?うるさいなぁ。秀頼か?珍しく部屋じゃなくて居間にいるんか』


そんな叔父の戸惑った声がして、廊下と居間を繋ぐ扉も開かれた……。






終わった……。








「おい、秀頼?なんでこんな騒がし──」

『!?』


居間の扉が開かれたことで、ようやくみんなが静かになった。

その彼女らは全員叔父の方向へ視線を送る。

茶髪のヤンキースタイルの叔父が白い目でこちらを見ていた。










「あいつの居ぬ間にメイドの姉ちゃんこんなに店から呼んで腹出してお楽しみ中かい秀頼。部屋でやれ」

「全部違う!」

「今は高校生もOKなんやなぁ。知らんかったぁ」

「だから違うってのボケぇぇぇ!もう1回会社に戻れぇぇぇ!」


デ●●●と勘違いした叔父さんに対し、必死な弁明が始まったのであった……。

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