第17章 本物の色
1、神の脅し
スマホが1通のメッセージを受信する。
スターチャイルドの声真似しながらASMRをするチャンネルを見ていた俺は、そのメッセージ主を見て(めんど……)と嫌になる。
返さないと何されるかわからんし……。
仕方なく『スタチャの声であなたを一生喫茶店に監禁し続ける幼馴染の天才ヤンデレボクっ娘タイムリープ彼女』の動画を止めて、ラインを開く。
概念
『明日の放課後、文芸部全員集合です((o(^∇^)o))よろぴく(o^ O^)シ彡☆』
「…………は?」
ちょうど今、スタチャが『あなたがここを出る手段なんかないんだから。きゃははははははっ!』と勝利宣言をして盛り上がるとこで動画を止めたのに、こんなイラッとするラインが来ると意地悪したくなってくる。
明智秀頼
『俺、明智秀頼(`ェ´)ピャー
拒否( `д´)プンプン』
ラインのアプリを閉じて、ユーチューブに戻りASMRの動画に戻る。
『ダメだよ、君。ここを出るにはその鎖のかかった首輪に付いてるコネクターに、ボクが今使っているスマホと1台前のボクのスマホと3台前のボクのスマホを同時に読み取る必要があるんだよ。…………因みに、3台前のスマホは昨日叩き割ってスクラップになっちゃったのでないよ』と非常にゾクゾクするシチュエーションである。
『命令支配』を使って彼女に首輪を解放するように命令しても、3台前のスマホが存在しない以上首輪が外せない。
これが詰みか……。
最強の王手による恐怖よりも、尊敬の畏怖が沸き起こる。
達裄さんなら鎖を引きちぎってそうだけど……。
本物のスタチャ声よりも地声が低いけれど、めっちゃ似ているこの声は大変人気らしく、チャンネル登録者が30万人を突破している。
これ、本物のスタチャがやれば100万行くんじゃね?という気がしてくる。
「あ?」
スマホに電話がかかってくる。
名前の主は『概念』。
つまり、黒幕概念である。
あー、もう、なんなんだよ。
画面をタップして通話状態にする。
「もしもし」
『部長命令だぞぉ!』
「……声がデカイ」
『くはくはー……』と悲しみの感情を垂れ流しにしていた。
『神たる誘いを断るのか、人間風情が!』
「なんだよ?どうせ行ったって嫌がらせするんだろ。わかってんだよお前のやり口。『クハッ』って嗤いながら俺が苦しむところ見たいんだろ!?」
『クハッ』
「よし、さよなら」
『待って!待ってぇ!くはくはー』
「悲しみを『くはくは』で表現するな……」
萌えキャラみたいじゃないか。
「違うくて!明日から部活勧誘タイムになるのだ!」
「部活勧誘タイム?」
「新入部員とか仮入部とかそういうの」
「あー。あるな」
前世でなんか色々あった気がする。
今回の人生ではじめて部活に入ったから忘れてたよ。
確か前世では仮入部の時に教育という名の新人リンチタイム始まって、3年の先輩10対俺1人で戦わせられるのが恒例とかいう部活の闇があったが、俺は10抜きした。
気付けば、先輩が俺を『豊臣先生』と呼んでいたっけ。
「クハハッ!それには部員全員に本気で勧誘してもらう」
「はぁ?てか、お前が自分の昼休みの居場所が欲しくて立ち上げた部活なんだから部員なんかいらないだろ」
概念さん専用教室が欲しくて部活を立ち上げる神様だ。
俺には到底理解できない。
「ノンノンノン。わかってねーな、明智秀頼」
「あ?」
「新入部員が増えまくるほど、部費もそれに伴い増えるのだ!クハハハハッ!」
「部費?」
「1円でも高く欲しいだろ?クハハッ」
「まぁ、確かに」
去年、立ち上げたばかりの文芸部には部費1万円で活動していたからな。
特に何も出来なかった。
「これは確か7年前、『西城院ヒカル』という偽名でギフトアカデミーの生徒をやっていた頃だ」
「格好良い偽名だな!」
確か概念さんは学校を卒業したら、改名して、また入学するを繰り返す癖のある神様である。
なんでも間近にギフトで起きる事件を楽しみたいとかなんとか。
本人が2ヶ月前にそんなことを言ってた。
「エアコン部を立ち上げた次の年。新入部員を集めまくり、部費を学園一の穀潰しな野球部以上もぎ取った時のウハウハな部費が忘れられんのだ」
「野球部を穀潰しとか言うな!」
「毎年1回戦で負ける癖に部員と部費がウハウハな野球部なんか滅んでしまえっっっ!」
「普段ギフトに頼りきっている連中が、ギフト封じられた野球大会出るとなぁ……。仕方ねーよ」
夏に全校生徒で野球部の試合の応援する行事があるのだが、去年は33─4で惨敗していた。
コールド?
そんなのこの世界にねーよ。
なんなら、俺が育てたマイケル山本の活躍するサッカー部の応援にいってみたいものだ。
「てかエアコン部立ち上げたのお前かよ。毎年30人以上の新入部員が入る部じゃねーか」
「全盛期は100人以上入部したのに衰退したな……」
熊本セナちゃんも確かエアコン部である。
活動内容はエアコンの構造を調べるという名目のもと、夏になると部室でエアコンで涼しく快適にお喋りとかしている部活らしく、学園長の悠久が『真っ先に潰したい部活ランキング』2位にランクインしている。
しかし、部員が多過ぎて中々潰せないらしい。
「てか文芸部に30人とか入部してきても困るだろ。ほとんど活動してないし」
「くはくはー!でも部費が欲しい!夏合宿とかしたい!しかも新入部員の入る数が4月から3月まででノルマの3人以下だと強制廃部。やるっきゃないのだ!」
「ワガママかよ。概念さんじゃなくて残念さんに改名しろよ」
「クハッ!残念ではなく、概念。いや、違うわ!エニアだよ!」
神様直々にノリ突っ込みをいただきました。
「考えてみろよ、明智秀頼。夏合宿だよ、夏合宿。夏合宿で童貞卒業する童貞って意外と多いんだぞ?」
「童貞卒業したらそれはもう童貞じゃないんじゃない?」
「クハッ!明智の童貞も卒業式を迎えられるんじゃぞ」
「やめろ、俺を味方に付けようとするな。俺の童貞卒業は俺が童貞卒業をしたい時だっ!」
「クハッ。良いのかなー、そんなこと言って。明智秀頼をこっち側に引っこ抜くとっておきの秘密があるんだけどなー」
「秘密?」
何言われても、明日部室に行く気はないが、聞くだけ聞いてみようではないか。
「もしお前が明日部室にこないなら学校中に明智秀頼のギフトは『命令支配』だと言いふらしてやる!クハッ、クハッ!人間のクズのような最低なギフト能力だな!」
「ただの脅しじゃねーか」
行く一択しかなくなってしまった。
「わかった、行くよ。だから余計なことするな」
「クハッ!部費が集まったらみんなで夏合宿しようぞ」
「ちょいちょい学生をエンジョイしてるのな」
電話が終わった頃には賢者タイムのように熱が下がり、スタチャの声真似シチュエーションASMR動画の再生ボタンを押すことなく、ユーチューブのタブを閉じる。
「はぁ……」
渋々ながら、新入生勧誘を手伝わされることになる。
こうして、神様の脅しを無視することも出来ずに明日を迎えることになるのであった……。
†
概念さんは名前や顔を変えてギフトアカデミーに通いまくっています。
こちらに詳しく説明しています。
第8章 病弱の代償
登場人物紹介8
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます