9、明智秀頼の陰口

それにしても、達裄さんと山本が知り合いなのは俺も知らなかった……。

俺と織田の決闘した際に面識を持ったとか。

決闘終盤は意識が飛んでたせいで記憶が一切無いんだよね……。


彼女たちでも、何人かが俺に聞きたいことはあるらしいけど、のらりくらりとかわしている。


『クラスメート発表』


入学式の会場入りで、歩いている星子と和に惜しみない拍手を送った以降は、学園長の挨拶やPTA会長の挨拶だの新入生の挨拶だの長すぎる挨拶が続き、眠気が爆走してしまい、心臓が潰されたら死ねるなと考えていた頃に、司会進行をする1年生の学年主任の声に睡魔は駆逐された。


『赤坂乙葉……、五月雨茜……、津軽和……、細川星子……』


「…………」


よりにもよって和と星子が乙葉と茜と同じクラスかよぉぉぉ……。

順当にシナリオが進行すれば、乙葉は茜に殺害される……。

タケルが乙葉ルートに進む頃にも乙葉は死亡するオマケ付きである。


乙葉を生存させる条件は、茜ルートに突入することだけど……。

3年にシナリオが続くヨルルートは乙葉の死亡は確定だからなぁ……。


和と星子には、少しでも危険が離れるように違うクラスになるように考えていたんだけど……。

UQめ……、これもお前の策略か……!





─────





「っ!?」

「どうかしましたか?学園長?」

「いや、どこからか殺気が……。しかも、なんか理不尽な理由の……」

「学園長、恨まれてそうですもんね」

「なんで!?」


悠久と近くに立っていた秀頼の担任の星野は、同じ時間にそんな会話をしていたらしい。






─────





すっかり眠気が飛んだ1年生のクラス発表。

それから、退場する彼女2人に惜しみない拍手を送り、入学生を見送った。


『明智先生の拍手、いつもより音が高いよな?』

『それだけ1年生に期待しているってことだろ。期待の新人がいるんだよ、あん中に』


男子2人のこそこそ話が俺に届いている。

そんな思惑、何もないよ?

拍手しただけで、変な噂を流すんじゃないよ。


「じゃあ、在校生も教室に戻ってください」


悠久のアナウンスで、2年3年も教室へ撤収の流れになる。



「学園長先生って若く見えて良い具合に美人だよな。出来る女オーラみたいなのあるよな」

「僕は顎で使われたいですね」


3年生の先輩たちの嫌な立ち話が聞こえてきた。

あの先生、以外に人気があるようだ。


「てかさ、2年に可愛い子多くないか?」

「それな。宮村さんとか深森姉妹とか佐々木さんとか可愛いよな」


…………悪い気はしない。

彼女が可愛いと言われると、なんか誇らしくなる。


「俺、文芸部の黒幕さん派だわ。あのミステリアスな佇まい。一目見た瞬間『こいつ神だ!』って思うくらいドストライクだったわ」

「良いよね、黒幕さん。僕は顎で使われたいですね」

「絶対ドSだよなぁ」

「ちょっとポンコツな面あると完璧だと僕は考えてますよ」

「ポンコツな黒幕概念!?最高だな」

「はい。顎で使われたいくらいに最高ですね!」


その2人がまさかの概念さんの噂までしていた。

ちょいちょい当たってんのなんなんだよ。

ガチで神だよ、あの人。


「そうだ。思い出したよ、概念さんの文芸部に男子2人居るじゃん?」

「あぁ、居るな」

「あの茶髪。文芸部全員と付き合ってるって噂の」

「かー!あの、明智とかいう奴だよな!」

「羨ましいよなー、あいつ」

「ムカつくなー」


!?

まさかの俺!?

あと、別に文芸部全員と付き合ってない。

概念さんも、千姫も、タケルも該当しないから。

というか、この噂している2人の先輩と面識すらないんだが……。

俺の陰口してる……。

ちょっと足を進めるのが遅くなってしまう。

本人が10メートル後ろにいるのに、陰口言ってる……。

虐めだよ、こんなの……。



「あの人、格好良いよな!悪い噂、全然ないもん」

「織田ボコったとか最高じゃん!なんだよあいつ!?イケメンで頭も良いし、人付き合いも良いんだってよ。」

「ムカつくくらいに憧れるますね!」

「あいつになら掘られても良いわ」

「僕は顎で使われたいですね」

「あと、たまに女になるらしい」

「僕は顎で使われたいですね」




陰口だと思ったら陰口じゃなかった……。

というか知らない先輩の穴なんか掘らないよ。

しかし、3年生まで俺の噂が広がっているのか……。


というか『たまに女になるらしい』って何!?

頼子の存在を知らない人が聞いたら、絶対変な意味に聞こえるじゃん!


今年は平穏に行こう!

平穏に!


悠久から始まり、俺の彼女たち、概念さん、俺とたくさんの噂を仕入れながら、教室へ戻るルートを辿っていた。

そろそろ帰宅の時間だ。

今日撮影してもらった入学式の動画は、後で達裄さんから受け取る手筈になっている。


そのお礼の手土産をミスドォにしようか、スタヴァにしようか、ミャクドナルドにしようか悩むところである。




「じゃあ、2年生頑張れよ!解散っっっ!」




担任の短いホームルームを終えて、放課後になる。

まだ今日はどの部活も活動はしてはいけないらしい。

残念、文芸部はお休みだ。


帰りの支度をして、廊下を出るとざわざわしていて騒がしい。

そんな状況に出くわした。

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