8、サーヤはお人好し

「あーあ……、今頃楓たちは遠出してるのか……。良いなぁ……」

「そんなに気になるならついていけば良かったじゃん」

「心霊スポットは勘弁。怖いのはテレビやユーチューブで見るのが面白いのであって、肝だめしは嫌だわ……」

「案外あんたヘタレね」


サーヤは紅茶を飲みながらスタヴァでバイトしている姉ちゃんにキツイ一言をお見舞いする。

「不幸にはなりたくないからね!怖いのは全然平気だし」と強がり気味に宣言した。


「大体、サーヤだって占いしてんだから幽霊系強いでしょ?楓たちの誘い乗れば良かったじゃん」

「はい、出たぁ!幽霊をスピリチュアル系だと思ってる奴ぅ!占いは占いだから!占い師は幽霊大好きみたいな偏見はやめてください千夏ちゃぁぁぁん!」

「サーヤもめっちゃビビりじゃん」


結論、お互い心霊スポットにビビっているだけであった。


「ふふっ。大体楓はレポートのためとか言い訳付けているけど、どう見ても傷心旅行でしょ。髪もバッサリ切ってさ。絶対愚痴愚痴合戦が始まるわよ。ノアも小鳥も御愁傷様」

「はは……」

「わ、妾は慰めの言葉よりも、傷をほじくり返すことしか言えんのでな」

「最低だ……」

「愚民がどうなろうと知ったこっちゃない」

「でも、楓のために占いとかしてたんでしょ。格好付けなくて良いから」

「シュン( ´-ω-)」


愚民など他人に冷たいことを言いながらも、なんやかんやお人好しなサーヤにとって、そこを指摘されると小さくなるのであった。


「だってあの子、仲良くなった男いるって言うから……。でも、そいつは裏で女をやって捨てるクズ野郎なのが判明したってさ。手を出される前に別れて良かったじゃん」

「え?そうなの?」

「妾の占いとSNSストーキングで見付けた情報だ。間違いない。妾の占いに間違いないはないのじゃ」

「それ、手柄の分配は後者が9割では?」


ピンク色のドリルを美しく動かしながら、胸を張るサーヤであった。


「案外楓が旅行から帰ったら彼氏出来てたりね!」

「ないない。今回の件でだいぶ男性不信になったみたいだし。流石にまだ男は見付けないと思うよ」

「あら、良いじゃない?恋するのに時間は不要でしょ」

「サーヤがまともなことを……」

「千夏は妾をなんだと思ってるの?」


スタヴァの姉ちゃんがまじまじとサーヤを見つめていた。

そして、思い出したと補足情報を口にする。


「因みにその男、小鳥まで手を出そうとしてたらしい」

「うわぁ……。他人の不幸で飯を食べる妾もドン引きするわぁ……」

「色々あって退学。今ここ」

「他人の不幸で飯が旨い!マスター、ダージリン追加!」


スタヴァの姉ちゃんの補足に、サーヤが機嫌が良くなった表情を浮かべて注文する。

「はいはい」とサーヤが使っていたカップを持っていく。


「マスターは肝だめしとか行ける口?」

「高校時代、バイク乗り回して廃墟とかにスプレーで落書きしまくった僕にそんなの愚問でしょ。幽霊に襲われた時あったけどスプレーで撃退したし」

「お前か!廃墟や電柱に落書きしまくってるアホは!1ヶ月前に妾の自宅から近いところにある電柱に厨二風なアルファベット落書きしやがって!」

「いや、18以降はスプレー使ってないからね!?それは僕じゃないよ!?」


マスターが冤罪を着せられ、サーヤに弁明していた。

「あっそ」と、当の本人は興味なさそうだ。


「サーヤたちの友達が肝だめしに行ったのかい?」

「みたいです」

「死体になってないと良いけどねー」

「不謹慎だなー」

「こういう人に限って、友達が行方不明とかになると大泣きしてこういう発言を後悔するんですよ。サーヤは優しいのがダサいって思うタイプなんですよ」

「それはダサいね」


スタヴァの姉ちゃんとマスターがサーヤに聞こえるようにわざとこそこそ風に喋っていた。

実は3人を心配しているサーヤは、既に発言を後悔し、眉をピクピクしていた。


「うるさいわよ、愚民と庶民がっ!」

「え?僕が庶民なの?」

「マスターさん!サーヤの世界観に乗ったらダメですよ!この子、特に考えないでノリで生きているんだから」

「妾はノリで生きているのか……」

「本人スゲーショック受けてるね……」


ノア、小鳥、楓の心配をしている2人は、喫茶店でそわそわしながら帰りを待っていた。


「僕の娘とバイトの子も肝だめしに行ったんだよね」

「ははははははは、草。今頃ノアたちと会ってるかも!」

「んなわきゃないっての」


苦笑しながらマスターはサーヤに突っ込んだ。

今頃、2グループが合流しているとも知らずに……。

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