4、バトルホテル

「息を吸うように抜け駆けするわね」

「わたし以外が秀頼君の隣でも抜け駆けしてたでしょ?」

「そんな絵美に罰ゲームで明智君にしばらく触れられません」

「…………え?」

「私が変わりに腕組んであげる」

「い、いらねぇぇぇぇ!」


責める円が絵美の腕を組む。

俺に助けを乞うように声を上げているんだろうけど、理沙や咲夜が肉壁になり俺の視界に絵美が入らないように死守していた。


「というか、凄い田舎に来たな……」


ゆりかが駅前なのに、人がまばらにしかいない光景を眺めながらぼそっと呟く。


「せーちゃんは撮影で田舎とか来る?」

「たまにだね。まだ学生だから、極力遠出の撮影は断っている状態」

「仕事断る余裕あるなんて、強気だねぇ!」

「い、いや……。普通だよ。普通……」

「その普通が他の人には出来ない自覚あるかいせーちゃん」


星子と和でそんなスタチャ豆知識の会話をしていた。

普段から俺と星子は会わない日が多いのに、撮影で遠くに行ったなんてことになったら悲しすぎる。

で、でもスタチャの活躍は見たい!

猛烈な矛盾とジレンマが襲ってきた。


「お姉様?本当にこんなところに目的地はあるのですか?」

「あぁ、大丈夫だ。目的地のバトルホテル跡地はすぐそこだ。バス使って15分。徒歩20分くらいらしいな」

「ん?バトルホテル跡地?ちょっと待て、バトルホテル跡地って言ったか?」

「バトルホテル跡地って言ったぞ」


深森姉妹の会話に割り込む。

バトルホテル跡地という場所を聞き、なにか違和感が走る。

わからない。

一体俺は何に反応したのだろうか?


「因みにバトルホテル跡地ってどんな場所だ?」

「あぁ。なんでもそのホテルは、元は『ワクテカドリームホテル』という名前で経営していたのだったが、それは表向きの話。裏では宿泊客同士でバトルロワイアルをして殺しあっていたとかなんとか……。だからバトルホテルとその界隈の人たちでは呼ばれるようになったとか。……まぁ、そんなの迷信だろ、ははは」

「そんなのが本当だったらマスコミが騒ぐはず。でも、そんな新聞記事ありませんもの。脚色ですわよ」


深森姉妹がクスクスと笑っている。

…………この国、明智秀頼の父親が母親を殺害したのを隠蔽する国なんだよなぁ……。

同じく隠蔽している可能性があるわけだが……。


「ば、バトルロワイアルですか!?て、ことは何人も人が死んでるんですか!?」

「もう。遥香さんったら。そんなのあるわけないに決まっているじゃないですか」

「まったく……。美月はすぐ遥香を虐めようとするな」

「い、虐めなんかしてないぞ!?」


和やかな雰囲気で理沙と咲夜が美月をからかっている。


「はははっ。幽霊なんかいたらあたしのナイフの錆びにしてやるぜっ!」

「足のない幽霊と我。どっちが足速いのか勝負するのが楽しみだな」

「若いねぇ……。わたくし、走るの苦手だから走らないわよ」


ヨルとゆりかも肝だめしが楽しみらしい。

悠久だけが、年寄りめいたことを言っている。


「きゃー、秀頼さん!怖いですね!」

「う、うん。怖いね……」


永遠ちゃんが怖いと言いつつ、面白がっている表情で語りかけてくる。

不安だ……。




なんだろう?

死神ババアとゴーストキングとエンカウントしたキャンプを思い出す。


…………達裄さん、来れないかな?

彼のインスタを覗いてみたら彼女と海に来ている写真を投稿している。

俺はそっとスマホの画面を暗くした。


「秀頼きゅぅぅぅん!怖いよぉ!腕組ながら歩こう!」

「うん。私がいるから怖くないよ」

「秀頼きゅぅぅぅぅぅん!」


腕を組まされている絵美と円の声がする。

楽しい旅行でテンションは高いらしい。






「バトルホテルか……」


なんだ?

聞いたことはないのに、知っているような感覚。

『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズ?

いや、バトルホテルなんて原作でそんな名前は聞いたことない。

サーヤが登場した別ゲームにも、そんな名前は登場しないはず。

思い付くスカイブルー作品全部と照らし合わせるが、全部違う。


「ほら、行こうよお兄ちゃん!」

「ゴミクズ先輩、今さら怖いは無しですよ」

「だ、大丈夫だよ!」


後輩2人と手を繋ぎながらバス停へと向かう。

モヤモヤとした違和感を抱えながら、星子と和から引っ張られるのであった。

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