3、宮村永遠は報告する

「たいへん!たいへん!たいへーん!決闘!このギフトアカデミーで決闘が申し込まれたって!」


1人の女子生徒が決闘の噂を聞き付け、教室に投下する。

それの報告により、みんなの注目が一気に決闘になる。

『相手は誰だ!?』『まだわからない』とやり取りが聞こえる。

その噂の渦中にいるのが俺だと思うと嫌になる。

どうせなら俺もエキストラ側でいたかったと決闘で騒ぎ立てる教室を見ながらため息を付く。


「ねぇ?聞いた、明智君?決闘だって!?誰だろうね?」

「あー、セナちゃん知らないんだ」


俺のところにちょいちょい現れて声をかける熊本セナちゃん。

今日も真っ先に俺に決闘の話を振ってくる。


「決闘するの俺なんだよ」

「えっ!?あ、明智君なの!?」

「本当になんでこんなことになったんだろうね……」


セナちゃんに聞いてもわかるはずない。

でも、誰かに自分の弱い気持ちを吐露したかったんだと思う。


「明智君なら絶対誰でも勝てますよ!」

「セナちゃん……」

「ハーフデッドゲームの時みたいに明智君なら楽勝だよ」

「ありがとう、セナちゃん」


あと、ハーフデッドゲームってなんだろう?

なんかのFPSのゲームのタイトルかな?

なんか前に達裄さんもハーフデッドゲームがどうこう言ってたけど、そんなに面白いゲームなのかな?

セナちゃんがFPSやってるなんてはじめて知った。


「そ、それでぇ……!もし明智君が決闘に勝ったら私とつ、つ、付き合」

「明智氏が決闘って誠でござるかああああ!」

「きゃっ!?」

「し、白田!?」


セナちゃんと会話していると、隣の席に座る白田が興奮したような声を出す。


「明智氏が決闘って言質取ったでござる!本当に明智氏が決闘でござるか!?」


クラス中で『明智が決闘!?』『マジかよ、明智先生かよ!』みたいに変な盛り上がりが男子を中心に盛り上がり始める。

ちょっとみんな血の気が強すぎるって……。


「ちょっと、白田!私が明智君と会話してたのに邪魔しないで!」

「おい、マジかよ明智」

「うわっ!?品川君!?ちょ、たす!助けて明智くっ……いたっ。押さないで……」

「話の詳細プリーズ!」

「あーれー!待って、待って!明智君!明智くーん!」


セナちゃんが押し寄せる野郎共に埋もれてしまいどっか行っちゃった……。

その変わりにラインの連絡先を持っている野郎共が周りに群がってくる。


「相手は誰!?」

「決闘の経緯を教えてくれっ!」

「頼子ちゃんに戻って!」

「勝つ自信あるのかよ!」

「…………」


変な熱に当てられたクラスの野郎共相手を俺1人が捌かなくてはいけなくなったのであった……。







─────






そんな秀頼が野郎の質問責めにされている間、有能な女の集団は動き出す。

名を『西軍』と呼ぶ。

秀頼の異常事態を関知し、速急に動き出す。

彼女らの姿は教室から消えて、文芸部の部室に移っている。


部長である黒幕概念からは「好き勝手に打ち合わせをしなさい。ウチのことは空気と思って良いから」と部外者が彼女1人という状況になっていた。

その好意に甘えて、黒幕概念さんを半放置して軍会議が行われた。


「明智秀頼の決闘の相手は3年2組の織田家康で間違いないでしょう。目撃者からの証言により、ほぼ100パーセントの信憑性があります。また、十文字タケルが巻き込まれたとの話もあります」

「兄さんが?」

「なんでも秀頼さんを助けに駆け付けたとか」

「兄さんの明智君察知能力どうなってんのよ……」


タケルが情報を持ち帰る前には、当事者らと同等レベルのものが西軍の手元に用意されている。

それもこれも西軍屈指のブレイン役である宮村永遠の活躍が大きい。


「あと、決闘の元凶女を連れて来たぞ」


シュッ、と現れたのは上松ゆりかだった。

その彼女が岬麻衣の首根っこを掴んでいる。


「離しなさい!ゆりかちゃん!」

「我はお前の性格をよぉぉく理解している。正直、麻衣が師匠をけしかけたんじゃないかとすら思っている」

「はぁ!?あいつがゆりかちゃんの師匠とかアタシが知るわけねーじゃん!クソ雑魚の癖に生意気!」

「そのクソ雑魚に即捕まったお前はクソ雑魚以下なのでは?」

「はぁ!?生意気!アタシ最強なんだからね!舐めてるなら……」

「良い加減にしなさい!」


ゆりかと麻衣の口喧嘩に西軍をまとめる絵美が手を大きく叩き、静寂を作り黙らせる。

現代に甦った石田三成。

そう揶揄されるのが佐々木絵美という女だった。

このバラバラでデタラメな女集団を、1人の抜け駆けも作らずに束ねてきた彼女は、それだけの威厳もあるのだ。

岬麻衣は絵美の動作になぜか圧倒されてしまう。


「こ、こわぁ……」


そして、なんかよくわからずに部活メンバーということで巻き込まれた千姫が場を和ませる声を上げた。

この場には空気の概念、絵美、理沙、円、咲夜、永遠、ゆりか、ヨル、千姫、麻衣というオールスターな陣営であった。


「あれ?そういえば美鈴が居ないな?」


咲夜がもはや副リーダー並みの行動力を持つ美鈴が居ないのを絵美に尋ねる。

「あぁ、美鈴には……」と絵美が部室の出入口を指す。


「遥香と美月を呼びにお願いに行きました」

「他のクラス連中を呼びに行ったんかい!大事にし過ぎじゃね?」


ヨルが「そこまですることなのか?」と聞き返す。

そこに咲夜が割り込んでくる。


「過去の決闘には死亡者が出ている」

「なっ!?」

「死亡まではいかなくても、後遺症が残ったり、鬱になったり……。秀頼でも無事に済むかどうか……」


咲夜が「…………わからない」と付け足す。

軽く考えていたヨルは危険さをようやく知り、全員が慌てているのを知る。




でも……。





「違う。私は明智君が負けるなんて考えてない。違うところに心配をしているの」


珍しく積極的に口を開いた円が自分の意見を発言した。


「明智君は本気の殺意に対して、殺意に返せる人じゃない……。だから怖いの……」


この意見をみんなは黙って聞き届ける。

内心で1番納得したのはゆりかであった。


自分の殺意に対し、秀頼は自己防衛こそすれ殺意を向けることはなかった。

もしかしたら悩んではいたのかもしれない。

ただ、円の意見に納得したゆりかは秀頼なら殺意に対し、殺意で返せない男だと確信する。


「わかるよ、そんなの」


絵美が円の意見に頷く。

彼女だって、ゆりか襲撃を受けた被害者。

ゆりかの扱いを見るに秀頼の対応は容易に想像できた。


「だからこそ、そんな優しい秀頼君がわたしは好き。そういうところに惚れているんだから!……嫌だね、わたしが好きな秀頼君の一面を捨てろって考えちゃう自分が嫌いになりそうだよ」


だから、影ながら秀頼を応援したい。

秀頼の力になりたい。

西軍の心は、今1つに纏まろうとしていた。








「クハッ、クハッ、クハッ」


そんな彼女らを嘲笑うように、黒幕概念の目は光っていたのである。

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