24、佐々木絵美は封印する
【原作SIDE】
「それでね、理沙ちゃんが驚いちゃって。十文字君が大慌て、なんて出来事があったんだよ」
「ふーん……」
わたしは秀頼君の隣で、昨日彼が学校を休んだ時の教室の出来事を笑いながら報告する。
秀頼君が風邪ひいたなんて十文字兄妹にはよっぽど珍しいことだったようだ。
十文字兄妹以外にも、ヨルなんかも「マジー?」みたいなのを言っていたのがわたしの耳にも届いていた。
ついさっき、お隣さんの家から出てきた秀頼君と合流しわたしはいつもと同じ流れで、彼と一緒に学校に向かう。
「で、でも良かったですね!秀頼君の顔色も良くなったみたいです!秀頼君が風邪で寝込んでいたなんてわからないくらい顔色も血色も良いですよ!」
「おぅ、サンキュー」
秀頼君はそうやってお礼の言葉を述べる。
見慣れた秀頼君の顔に風邪なんか無かったみたいだと失礼なことを考えてしまう。
「ひ、秀頼君……。手……、手を繋いでも良いですか?」
「う、うん」
わたしがおずおずと聞くと、許可が降りる。
だから開いていた左手を握る。
秀頼君の手の温もりがわたしの手に伝わってくる。
長年ずっと、ずっと握りなれた手であった。
「なぁ、絵美」
「は、はい!なんでしょうか、秀頼君!なんでも仰ってください!」
「…………お前、マジでつまんねぇよ」
「……ご、ごめんなさい」
詰るわけでも、罵るわけでもない。
冷酷に、冷えきった顔で秀頼は告げる。
その言葉に絵美は心臓を掴まれたような感覚が走る。
「風邪で寝込んだぁ?んなわけねーだろ。お前マジで欠席理由信じてたの?」
「い、いえ……」
「だろうな。つまんねぇ演技してんじゃねぇよ。……はっ!彼女なのに信じられてないとかウケる」
秀頼君が風邪をひいたなんて嘘だとカミングアウトする。
誰にも明かさないであろう、心の内をわたしにだけ打ち明ける。
「ほ、本当は何を……?」
「あ?隣のクラスの村沢海とずっと寝てたよ。あの子はじめてだってのに上手すぎてびびるわ。母親である沢村ヤマの本職の血がガッツリ流れていて少し引くってレベル。あれで経験値稼いだらもっとすげぇ女になるぞ」
「そ、そうですか……」
「嫉妬ですか絵美ちゃん?」
「い、いや……!ち、ちがっ……」
「くくっ……」
わたしの反応を見て、秀頼君がゲッスい顔を見せる。
あぁ、その顔でやりたいことをすぐに察してしまった……。
左手でわたしの右肩を掴む。
開いている右手で彼はポケットからスマホを取り出し、電話をする。
顔と声の一致しない演技が始まった。
「あ、もしもし?先生ですか?1年5組の明智です。……す、すいません。まだ熱が下がらなくて……。はい、はい。……はい、欠席しまーす」
電話が終わり、乱暴にスマホを仕舞い込む。
わたし引きずりながら、来た道を引き返す。
抵抗せず、そのまま足の行き先を秀頼君に委ねる。
「絵美、7分後に欠席の電話。理由は俺の見舞いに行って風邪をもらった」
「……はい、わかりました」
誰か……。
この不自然な欠席を疑問に持ってくれませんか?
誰でも良いです。
わたしを……、助けてください……。
いつになったら、この奴隷の日々が終わるのでしょうか……。
「村沢海はさ、はじめてなのに絵美よりすっげぇ上手いのよ。わかる?5年くらい経験のある絵美ちゃんは、昨日が初めてだった海ちゃんに負けたのよ。胸ってアドバンテージがないなら、ご奉仕で頑張らないとさ」
「うっ……。うげぇ……」
ニヤニヤ嗤いながら、よくわからないキノコを口に押し込んでくる。
上松ゆりかに対しキノコを準備したわたしが、自業自得のようにわたしにもキバを向く。
「ほらほら、復唱要求。キノコ!キノコ!」
「きのこ……、きのこ……」
「キノコ!キノコ!」
「きのこ……、きのこ……」
秀頼君の部屋で、椅子に縛られて身動きが取れなくされてキノコを復唱させられる。
「よーし、よし。偉いでちゅねー」
「ぅぅ……」
無理矢理市販されている白いキノコを口にぶっ込まれる。
白い液体が唾液と混ざりむせ返る。
苦くて吐き出しそうだ……。
「美味しいか?美味しいだろぉ?最近、通販で取り寄せたんだぜ?理沙ちゃんも絶賛した一品ってやつよ」
「……は、はい。……美味しい、です……」
料理をしていない生キノコなど不味いに決まっている。
わかっていて、目の前の悪魔は聞いてくるのだ。
そういう性格なんだ。
「いやぁ、良いね!村沢ちゃんは可愛いんだけど、特殊性癖はないみたいだからさ。絵美ちゃんだけだよ、俺の特殊性癖を受け入れてくれるのは」
頭を撫で撫でしながらも、違うキノコを口元に差し出してくる。
何も受け入れてなんかいない。
黙っているだけだ!
死ね、死に晒せ!
「円はこのキノコ好きなんだってよ。ほらほら、食おうぜ」
豚みたいに鼻息を荒くした悪魔は頬に津軽円が好きだというキノコを押し付けてくる。
硬い感触が、こいつのアレみたいで嫌悪感が走る。
「いやぁ、迫真な顔だね!良い女優さんになれるよ!沢村ヤマに勝るとも劣らない最高の表情だ!心底『嫌だっ!』ってのが伝わってくるみたいだ!あぁ、可愛いなぁ!絵美は可愛いなぁ!詠美の次に可愛いからナンバー2の座は君だよ」
舐め腐ったように、わたしを嘲笑う。
殺す、こいつを殺す!
抗えない衝動の中、殺意が身体に電流の如く走る。
でも、わたしはギフトで縛られている。
何も出来ないまま、いつものように服に手を掛けられていた……。
─────
【クズゲスSIDE】
「あれ?今日おばさん居ないの?」
「うん。用事あるから秀頼君の夕飯をわたしに頼んで行ったんだ」
「そんなんカップ麺でも良いんだけど」
ちょうど近くに叔父さんが夜勤で持って行くカップ麺シリーズがあったので両手で2つのカップ麺を取り出した。
しかし、絵美が目ざとく関知する。
「ダーメ!お父さんと同じで、すぐカップ麺に行こうとする!それは最終手段だよ。封印します!」
「おぉ……。封印されしカップ麺……」
手に取っていたご当地カップ麺シリーズの仙台味噌ラーメン、博多豚骨ラーメンの2つ共、段ボールに封印されてしまったのである。
「良いのか、そんなことして?」
「え?なんで?」
「俺が絵美に100倍カップ麺が美味しくなる魔法を教えてやっても良いぞ」
「それはめっちゃ気になる……」
「じゃあ、この話を聞いて絵美がカップ麺が食べたくなったら今日の夕飯はカップ麺だぞ」
「い、良いですよ!さぁ、言ってみな秀頼君!」
カップ麺を食べたくはないが、カップ麺を100倍美味しくした食べ方を知りたいという絵美の矛盾に気付いていた。
俺は明智秀頼。
前世は豊臣光秀。
前世の記憶でチートするなろうっぷりを絵美に食らわせてやるぜ!
「100倍カップ麺が美味しくなる魔法。プレゼン者・明智秀頼」
「はい、どうぞ」
「まず最初に無人島に行きます」
「…………。…………え?」
「無人島で遭難します。船の位置がわからなくなり、コンパスも無いとよりベスト」
「え?」
「そして火起こしをして、残り少ない水筒の水をお湯に入れれば……、普段より100倍美味しいカップ麺の出来上がりです!」
「いやいやいや!無理!無理だからね!?」
「あの頃は札束すら焚き火の中に放り込みたくなる欲を必死に我慢してたなぁ……。懐かしい……」
「存在しない記憶をさも本当みたいな言い方をするのやめてください」
絶望の中の光こそ、素晴らしく輝くのだ。
あぁ、前世では無人島なんか懲り懲りだったけど、今にして思うとあの死にかけた時に食べたカップ麺をもう1度食べたいもんだ……。
「!」
「どうした絵美?カップ麺が食べたくなったか?」
「別に。これの封印は解きませんよ」
「なんですと!?」
「無人島に行ったら開けますよ」
じゃあどうしたんだろう?
それを尋ねると絵美は俺に近付いた。
「じゃあ今度2人っきりで無人島行きましょう!あぁ、全ての文明と人間関係を捨てて無人島に行くんです!あぁ、良い!海とか最高!」
「女の子は無人島しんどいんじゃねぇかな……」
前世の母さんですらふざけんなって叫ぶレベルだったし。
「無粋ですね、秀頼君!カップ麺は没収ですから」
「そんなぁ!」
「秀頼君の夕飯はきちんとわたしが作ってあげますから!先週から気合い入れてるんですから!」
家族の俺には一切報告ないのに、絵美には先週からおばさんの不在を教えてたの?
どうなってんの……?
「見てください!じゃーん!おっきいでしょ!」
「…………キノコ?」
「これは理沙ちゃんおすすめキノコ。こっちは円おすすめキノコです」
「…………なんかグロいな」
「そういうこと言わないの!」
下品な話、俺のアレみてぇだ……。
「今日はキノコ鍋にしますよ!さぁ、秀頼君!準備してください!」
やる気満々な絵美が土鍋とカセットコンロを持ってきて2人のキノコ鍋パーティーが始まる。
「さ!行くよ、秀頼君!わたしは鍋の味を作るので、野菜とか切っててください!」
「わ、わかったよ」
ご機嫌な絵美はてきぱきしながら準備をしていく。
そんな姿が愛らしい。
あぁ、やっぱり絵美は可愛いなぁ!
俺は、彼女の元気さをずっと守っていきたい。
†
※良い子のみなさんは危険なのでキノコを生で食べてはいけません。
最悪、原作の上松ゆりかみたいにキノコを食べて死んでしまいます。
きちんと火を通して食べてね!
最近、色々クズゲスを書かせてもらっているわけですが秀頼を見ているとなんかリアルに作者もギャルゲーを紹介したくなってきた病が発症寸前……。
そんなわけで、近い内にもしかしたら桜祭のギャルゲー紹介チャンネルを開設するかもしれません。
まだ、未定ですが色々動きがあります。
更新頻度は落とす予定は今のところありませんので、安心していてください。
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