19、三島遥香は気になる
学校終わりの放課後。
バイト先のサンクチュアリにヨル・ヒルは仕事に出勤していた。
そして、招いた同級生の三島遥香をカウンター席に座らせていた。
そして、厨房の奥へ消えたヨルがご機嫌に試作品のメニューを考案し、それを遥香へ提供したのであった。
「デーン!どうだ遥香!」
「と、とっても美味しそうです!ヨルさん!」
「そうだろ、そうだろ。けらけらけら」
ヨルが誇らしげに、わざとらしく笑う仕草を見せる。
少しだけ照れ隠しも混ざっているのを遥香は肌で感じてしまう。
褒められるのが好きなのがヨル・ヒルという女なのだ。
「このふわっと感、中々家庭では真似出来ません!まるでお店のメニューです!」
「お店のメニューなんだよ!仮だけどな!」
「無意味にSNSにアップしたくなるんです!」
「そ、そうか!」
ヨルにとってSNSは触れる機会がなかったものなのだ。
幼少期の地獄を生き抜いたヨルにはそもそもSNSで人に自慢をするという文化はなかなか納得のできるものではなかったのだ。
過去に来て、ようやくSNSを知ったレベルなのだ。
はじめてSNSという単語を聞いたヨルは『スーパーナトリウムすげぇ!』を略しての言葉だと思ったくらいだ。
「わぁ!ヨルさんのホットケーキいつまでも見ていられますー」
「パンケーキって言えよ」
カシャカシャと2枚パンケーキを撮影した遥香は満足そうにナイフを入刀し、口に含むと「美味しすぎます!」と大絶賛であった。
「ヨルさんの料理ってどこで覚えたんですか?もしかしてお父さんかお母さんのどっちかがプロの料理人だったり!?」
「……っ」
純粋な顔をして遥香は尋ねてくるが、ヨル的には結構地雷の質問だったりする。
しかし、すぐに素に戻り母親の変わりは悠久で、父親の変わりはタケルだと冷静に思考を戻す。
1つ息を吸い、遥香の問いに答える。
「そんなんじゃねーよ。悠久から教わったんだよ」
「UQ……?誰ですか?その人?」
さも当然のように、知人の名前を出すかの如くUQという単語が出てきて混乱する遥香。
それを察したヨルが「ごめんごめん」と謝り、補足を続ける。
「ウチの学校の学園長だよ。今だと確か25歳くらいだったか」
「あー!あの壮大に生きるとか自称する人!あ、先生か」
「……恥ずかしいからやめろってんだ」
たまに全校集会とかにも登場するが、悠久は必ず名前に誇りを持っている話から始めるのだ。
若いながらも偉いポジションにいるのは、かなりのお嬢様出身……と未来のタケルが教えていた。
「でもなんでヨルさんと学園長先生が?」
「腐れ縁みてーなもんだよ。まぁ、親戚ってやつ」
「ふーん。因みに学園長先生は成績とか上げてくれないの?」
「するわけねーじゃん……」
ヨル自体、寮暮らしをしているため悠久と会える機会はかなり少ない。
悠久と会って話したいことがあるか?と聞かれたら『別に』と答えるヨルであるし、用事が無ければ本当に他人みたいなモノである。
「へぇ。学園長先生から教わったんだ」
料理をする遥香からして、ちょっぴり悠久と話してみたい欲が沸いたのであった。
「平和で良いねぇ……」
マスターはテーブル席で騒いでいる遥香とヨルを横目に身体を伸ばす。
因みにパンケーキはまだ試作品。
ヨルが『原価●●円の小麦粉でパンケーキ出して儲けようぜ!』と、商魂逞しい提案をしてきた。
喫茶店のイメージも壊れず、パンケーキならまぁいっかくらいのつもりで頷いたら早速三島遥香を呼んできたヨルだった。
『儲かったらバイト代増やしてください』とばかりに指を円マークにしてくるヨルに怪しい雰囲気を感じたマスターである。
そんな風に寛いでいるとカランカランと店への来客を告げるベルが鳴る。
「いらっしゃい」
「こんにちは、マスター!」
「こんにちは」
見覚えのある常連客が現れた。
スタヴァでバイトをしている脚がスラッとしたチャームポイントの姉ちゃんである(マスター談)。
よくバイト先の常連客が好きなのに何も伝えられないと泣き付きに来る可愛らしい子と認識しているピンでの来店が多い子であったが、珍しく彼女の隣に中学生くらいの少女が立っていた。
「こないだ振りです、マスター!」
「あぁ、君か。いらっしゃい」
「この子、私の妹なんですよ」
「へぇ、仲良し姉妹というわけか」
姉妹揃って可愛い子が揃い華があって良いなー、とおっさんなマスターは喜ぶ。
スタヴァの姉ちゃんは愛想も良く、咲夜もあれくらい愛想がある子になれれば良かったなぁと考えてしまう。
「あっ!ヨルさん!見てください!」
「あっ!?スタヴァの姉ちゃんだ!」
遥香とヨルがスタヴァで働いている姉ちゃんの来客に気付く。
よくレジで接客をしている人だ。
「僕、あの人は手がキレイだとずっと思っててずっと手ばっかり意識しちゃうんですよ」
「何言ってんだ遥香?あの姉ちゃんは声が可愛いくて声に注目するだろ!」
「えー?手ですよ!」
相変わらずみんなバラバラなところがチャームポイントと認識してしまう不思議なスタヴァの姉ちゃんであった。
因みに喫茶店に居た3人は、まだ彼女の名前どころか名字すら知らないのであった。
別に伏線でもなんでもなく、ただただ本名がわからないのである。
不思議な魅力に溢れたスタヴァの姉ちゃんが勝手に注目を集めていたのであった……。
†
クズゲス読者様、スタヴァの姉ちゃん好き過ぎない……?
タケルの口から語られるだけで登場する気なんかサラサラ無かったのにいつの間にかヒロインみたいな扱いされてる……。
本日、限定近況ノートに
5、長谷川雛乃はぐいぐい来る
を公開致しました。
それに合わせて、本日より予告している永遠ルートを一般公開致します。
しばらくお待ちください。
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