26、『悲しみの連鎖』白い部屋
「ギフト狩り……。あいつら、理沙にまで手を下しやがった……。なんでだよ……。殺すなら俺を殺せよ……。…………もう、疲れたよ」
「タケル……」
タケルと呼ばれた男性は自分の妹が殺害されたニュースを聞いた途端泣き崩れた。
1日中泣き続けて、夜が明けて涙は止まるも悲しみは止まらない。
自分の生きる意味の大半を失った気分だ。
……いや、とっくにタケルに生きる意味なんかなく、惰性で生きているようなものであった。
「…………どこから俺の人生狂ったんだろうな」
高校1年時、知らぬ間に幼馴染の佐々木絵美が秀頼に殺害されていた。
高校2年時、タケルの従妹であった赤坂乙葉が殺害された。
高校3年時、タケルが親友の明智秀頼を殺害した。
20歳時、タケルの両親が殺害された。
23歳時、タケルの恋人だったアリアが殺害された。
アリア死亡に伴い、仮面の騎士は自害。
24歳時、一時仲が良かった三島遥香の死刑執行が行われた。
それから何回も何回も何回も仲間が殺害された。
そして、妹の理沙まで殺害された。
「嘆くなタケル……。妹が死んだのはわたくしも通った道だ」
「美月……。そうだったな……」
「仲が悪かったとはいえ、わたくしも考えるよ。美鈴が殺されなかった選択を出来たんじゃないかって……」
深森美月の双子の妹である深森美鈴。
彼女もまた、25歳くらいの時に紋章が原因でギフト信者と疑われギフト狩りに殺害されている。
神がもたらしたギフトという力は『希望』の象徴とされてきた。
しかし、それも過去の話。
ギフトの力は『不幸』の象徴にされている。
「タケル……。落ち着け……。わたくしが付いている。…………いくらでも泣いて良い。だから立ち上がるんだ」
「レジスタンスに入る前も、入ってからも別れの日々の連続だ……」
「…………そうだな。辛い仕事だよな。でも誰かがやらなきゃいけないんだ……」
美月に抱き付かれる。
既にお互いが良い年だが、2人の間には恋愛感情なんかは存在せず相棒、戦友、慰め合いといった関係になっていた。
「アリア……。俺、お前を失って辛いよ……」
「うん……」
「理沙……。会いに行けなくてごめんな……」
「うん……」
「秀頼……。またお前とバカやりてぇな……」
「うん……。うん……。負けるなタケル」
美月の体温が温かく眠たくなってくる。
泣き疲れたタケルは力尽きたように美月の腕の中で眠りに付く。
「…………寝てしまったのかタケル」
「なんだ?このまま、また2人でベッドでよろしくするところだったか?」
「ば……バカっ!」
タケルを床に寝かせていると、現れた戦友の男がコーヒーを渡してきたので美月が受け取って1口啜る。
熱いコーヒーで舌を火傷しないように気を付ける。
「タケルには悪いがギフト狩り殲滅はまだ無理だ」
「そうだろうな」
「次の相手はこいつらだ」
「『白い部屋』か……」
美月は男から資料を受け取る。
ギフト狩りとは真逆である、ギフト信者の組織集団であった。
「表向きこそ孤児院だが、実態は子供の売買をしている汚ねぇとこだ。ギフト所持者を金持ちに売ったり、違法な手段をさせて金を稼いでいる」
「…………最悪だな」
「また、ギフト陰性の子供に紋章の呪いを刻み、無理矢理ギフト所持者に仕立て上げるなんて違法すらやってのける」
「…………『ギフト享受の呪縛』!?まだ、こんなバカなことを……」
資料を読んでいて、美月は吐きそうになる嫌悪感に襲われる。
美鈴を苦しめてきた紋章をこんなところで子供を苦しめている事実がまだあることに怒りが沸いてくる。
「しかも、『白い部屋』の主を見ろ」
「…………こ、こいつはギフトアカデミーで2年時から同じだった男だな。あいつ、こんなバカをやらかしていたのか。お前とも面識があるだろう?」
「あるな。しかも、もっと詳しく調べてみたらタケルとは3年間同じクラスだったらしい。タケルとしてはやりにくいかもな……」
「…………明智秀頼が残したギフト研究データを元にギフト所持者の能力を最大限に引き上げている悪徳組織。そして、重度な明智信者……。最悪だ」
「『白い部屋』自体は5年くらい前に設立されて比較的新しい施設なのだが、前に滅ぼした『シャドウG』の残党たちが結成したこともあり20年以上のギフトノウハウがある強大な組織だ。犠牲がゼロで奴らを滅ぼすのは不可能だろう……」
「『シャドウG』の後任というわけか……。激しい戦になりそうだ」と呟きながら美月は資料を男に返す。
タケルと美月の因縁が渦巻くようなやりにくい戦いをこれから強いられることになるみたいだった。
「これから仲間にも資料を見せに行く。深森、お前は休んでおけ」
「わかった」と頷くと、男は美月の元から離れていく。
そして、寝息をかかないで浅い眠りに付いていそうなタケルと2人っきりになる。
「タケル……。毎回毎回悪いがお前を頼りにしている」
タケルの胸元に銀色のペンダントが光る。
もう失くなってしまった恋人であったアリアの形見のそれを彼は決して離さない。
まだアリアが生存していたら、こんな地獄にはならなかったかもしれない。
いや、そもそも美月がギフトアカデミー時代で詠美や遥香、タケルとバカやってた時から既に地獄は始まっていたのだろう。
だがアリアが死亡してから、地獄が加速したのは間違いない。
「わたくしはアリアにはなれなかった。……でもわたくしは、お前が好きだったぞタケル……」
タケルの前髪を弄りながらクスクスと笑う美月。
10年以上、タケルと身体を重ねてきた。
だが、彼から向けられる感情は、美月に対しなんの愛情もない淡々としたモノだった。
それでも美月は身体を重ねる時だけは女扱いをしてくれるタケルが好きだった。
アリアが一生タケルの胸に残っているのだろうに、その時だけは自分を求めてくれた。
親友としてのカテゴリーでは明智秀頼には敵わない。
美月は、タケルの中で特別な存在ではないのだろう。
それでも、美月の中ではタケルは特別な存在だった。
「…………もしかしたら次はわたくしの番かな」
もし、自分が死んだら……。
タケルは一生引きずってくれるだろうか……。
今はそれだけが頭に浮かび、眠っているタケルを起こさないように、一瞬だけの力が弱い口付けをした。
本当に唇が触れる程度の幼いキスである。
「『白い部屋』を殲滅した後も、ギフト狩りを滅亡させた後も、お前は生きろよタケル……。お前なら出来るはずなんだ……」
─────
「カカシ落ち……。嫌だ……。カカシ落ちなんか……」
あたしはギフト陰性の結果を引きずりながらバッツ教官に呼び出された博士の部屋に向かう。
この施設、『白い部屋』の主であるホワイト博士はギフト信者だ。
ギフトに覚醒出来ないあたしにカカシ落ちを宣言するのを想像すると恐怖でしかない。
「やったぁ!私、ギフト陽性だぁ!」
「…………え?」
そこへ1人の女の子の姿が見えて足が止まる。
1608番が嬉しそうに笑っていた。
じっと見ていると、彼女があたしの視線に気付き近付いてきた。
「あれ?1605番はギフト陽性だった?」
「い、いや……」
「あー、そっか。残念だね。1605番はカカシ落ちだね」
「…………」
眼鏡越しに笑う彼女は、他人事みたいにして言う。
「ま、ギフトの
あたしの肩をポンポンと叩いて1608番は教官室へ向かう。
既にギフト陰性者とギフト陽性者で振り分けが始まってしまっていたのだ。
「挽回しないと……。挽回しないと……。挽回しないと……」
去ってしまった1608番に振り返らず、ホワイト博士の研究室に向かって歩きだす。
あぁ……。
どうしてあたしは生まれてきてしまったのであろう。
あたしが生まれるずっとずっと昔に時間が巻き戻って……。
こんな世界とは違う世界になれば良いのに……。
そう願いながら、ホワイト博士の研究室の扉を開けた……。
†
カカシ落ちとは?
ギフト所持者によるギフトの的にされること。
その他にもサンドバッグにされるなど人間扱いをされなくなることになります。
カカシ落ちした子供は、基本長生き出来ないまま死んでいきます。
また、当然ながら『白い部屋』にて1番悪い扱いにされます。
『白い部屋』とは?
大罪人・明智秀頼が遺したギフト研究データを元にギフト所持者の子供を育て上げていく施設。
表向きは孤児院で、名前こそ白だが、やっていることはブラックである。
そんな背景があるからなのか明智秀頼が神格化されている。
主であるホワイト博士は生前の明智秀頼と面識があった。
本当は『ホワイトハ●ス』という名前でも良かったんだけど、実在するのでNG。
ホワイトハ●スとの関係性は一切ないし、モデルですらない。
『シャドウG』とは?
『白い部屋』メンバーが、前に所属していた違法ギフト所持者の組織。
20年以上前に設立された歴史の長い組織だったが、タケル達が所属するレジスタンスにより滅亡した。
ホワイト博士、バッツ教官、田中リーダーも『シャドウG』に所属していて、ラノベオタクなベッドルーム番人が『シャドウG』で育てられた被験者である。
意味は『影から操るギフト使い』とかそんなんだと思う。
ドラゴンボールで例えるなら『レッドリボン軍』みたいな組織が『シャドウG』であり、
組織が滅亡して残党となった『ドクターゲロ』ポジションが『ホワイト博士』。
その『ホワイト博士』が『白い部屋』を設立したと考えるとわかりやすいです。
レジスタンスとは?
ギフト狩りとギフト信者の両方の組織と対立する共存した世界を目指している人達で構成されている。
実質、ギフト狩り、ギフト信者、レジスタンスで三つ巴状態になっている。
どっち付かずな組織なこともあり、少数精鋭。
その変わり、個々の能力は高い。
タケル、美月らが所属している。
勢力差は、
ギフト狩り6:ギフト信者3:レジスタンス1
ギフト狩りは1つの組織であるが、
ギフト信者は『白い部屋』だけに限らず、複数の組織があるために全体数は少ない(秀頼信者ではないギフト信者の組織もある)。
しかし、1個の組織を滅ぼしてもまた復活するを繰り返す悪循環が続いている泥沼状態。
まさに『白い部屋』がこれに該当する。
簡易的な登場人物紹介。
明智秀頼
タケルと親友だった大罪人。
世間では犯罪者として悪名高いが、『白い部屋』からは彼が生前に遺したギフト研究データが20年前のモノとは思えないほどに精巧に作られていたこともあり神格化されている。
そのため、ギフト狩りからは色々なところで憎しみの象徴ともされている。
彼のギフトの研究データは、現代に広まっているギフトの常識のシェア30パーセントを占めている。
世界が狂ったトリガーを引いた人物であると指摘する者もいる。
ある意味、前作のラスボスみたいなポジション。
十文字タケル
殺害された十文字理沙の兄。
死亡した恋人であるアリアのペンダントを大事にしている。
秀頼を殺したことを毎日後悔している。
現在はレジスタンスとして、ギフト狩りとギフト信者との終わりなき戦いに身を投じる。
ある意味、前作主人公みたいなポジション。
深森美月
タケルと共に戦い続ける。
タケルとの間に愛はないのだが、かなりディープな関係。
(本当は濃厚に描きたかった……。しかし、あーるじゅうはち云々の考慮のため詳しくは書きませんが察して下さい。)
妹の死亡を毎日引きずっている。
ある意味、前作のサブヒロインみたいなポジション。
戦友の男
タケルや美月と戦い続けている。
彼もまたレジスタンスに所属する数少ない仲間である。
佐々木絵美
タケルが高校1年時にいつの間にか死んでた秀頼の彼女。
出番終了。
赤坂乙葉
タケルの従妹。
『嘘と真実を見抜く』ギフトを持っていたが、高校2年時に死亡した(秀頼は無関係)。
出番終了。
タケルの両親
タケルと理沙を育てた親。
忙しく中々家に帰らない人であった。
放浪主義。
出番終了。
アリア
タケルの恋人。
生前、彼にペンダントを贈る。
彼女の死で、世界が混沌に満ちた。
ある意味、前作のメインヒロインみたいなポジション。
出番終了。
仮面の騎士
自害した。
出番終了。
三島遥香
高校1年時、両親と弟とギフト管理局数人を自身のギフトである『エナジードレイン』で殺害した犯罪者。
24歳時、死刑執行で死亡。
出番終了。
深森美鈴
美月と仲が悪かった双子の妹。
『ギフト享受の呪縛』の失敗により、紋章の苦しみを一身に背負った。
紋章により、ギフト信者と疑われギフト狩りの被害に遭い死亡。
出番終了。
ホワイト博士
秀頼、タケル、美月、戦友の男と面識がある。
『白い部屋』の創設者。
バッツ教官のバッツは本名だが、ホワイト博士のホワイトは通称。
特に明智秀頼の信者であるが、繋がりは不明。
ギフト所持者の子供を丁重に、ギフトを所持していない子供は眼中にない。
当然ながら、ギフト狩りにも目を付けられているよ。
ギフト狩り、ギフト信者、レジスタンスの三つ巴設定だけで1つの作品が出来てしまう気がする……。
因みに名前が出てないだけでクズゲス本編で語られている通りゆりかとスタヴァネキと咲夜も当然死んでます(名前の順番は亡くなった時系列順)。
モブみたいにクズゲスキャラクターが無慈悲に死んでいくのは爽快感あるな……(嬉しくないし、もう書きたくない)。
間違いなく生存が確定しているのはラノベ作家として大成功を納めている和(この過去編の癒し枠)、その姉の円、『ギフトリベンジャー』の瀧口、全くギフトに関係していない達裄とマスター。
久し振りに長い怪文書を執筆しました。
何か疑問や質問があれば、コメント欄に残して下さいませ。
答えられる範囲ではありますが、説明不足な点があれば解説していきます。
あと、別に最終章でもなんでもないです。
(本来であればこの物語は、最終章直前に公開する予定でしたが前倒しになっただけです。)
終わればまた普通にギャグラブコメに戻るのでご安心を……。
あくまでヨルの過去編ってだけです。
次回、1605はホワイト博士に何を告げられる……?
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