70、沢村ヤマ

秀頼が帰ったことでおばさんも後を追うように店内から消えていった。

店には店長であるマスターと西軍が残された。

逃げ出した2人を羨ましそうな目で店の出入口を睨みながらテーブルを拭きだすマスター。

今日はもう1日、店を閉めっぱなしなのも覚悟しなくてはならないみたいで自然とため息が漏れていた。


「さ、沢村ヤマって誰ですか理沙ちゃん!?」


知識がない絵美やその他数人は沢村ヤマの名前に聞き覚えがなかった。

頭が良く、流行にはめざとい永遠にもピンとこない単語であった。


「わ、私もよくは知りません……。ただ、兄さんも知っているらしいのは明智君に聞きました」

「十文字君もこの場に呼びましょう!」

「コラコラ、そんなしょうもないことでタケル君を呼ぶなよ!?」


女子12人に呼び出された挙げ句、『沢村ヤマって誰ですか?』と聞かれることに同情したマスターが永遠を引き止める。


「検索すれば良い。ヘイシリ、『沢村ヤマを検索しろ』」

『へ、変態だぁぁ!?変態娘ぇぇぇ!』

「うるさい。あと、お前はAIみたいだが沢村ヤマを知っている時点でお前も変態なんじゃないか?」

『…………私も変態ですよ』

「知ってるよ。早く検索結果を出せ」


咲夜がシリに命令口調で検索をさせる。


「え?えっ!?シリってそんなんなんですか!?みんな突っ込まないの!?」


当然のようにシリの口調を受け入れる全員に美鈴が突っ込みを入れる。

そこに和が「人によってシリの性格が違うんですよ」とフォローをする。

普段シリを使わない美鈴は「そうなんだ」と言いながらシリを起動する。


「ヘイシリ『沢村ヤマを検索よ』!」

『…………』

「シリ!沢村ヤマを検索!」

『…………』

「検索!」

『…………AIがあるからってなんでもかんでもAI頼りなのはどうなのかな……?』

「何このハズレみたいな性格シリ!?」

『はぁ……、持ち主ガチャ失敗した……』

「このバカシリ!」


美鈴がスマホにイライラした声を出す。


『わかったよ、検索するよ。ほい、と』

「沢尻な別人出たんだけど!?こんなシリアンインストールしてやる」

『やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!出す!出すから!』


美鈴とシリの喧嘩を眺めながら「ぶっちゃけシリなんか使わない方が良いみたいだ」と美月が呟くと『ガーン!』とスマホから機械音が流れてきた。


「なっ!?なっ!?……え、エーのブイの女優だと……!?」


美月が赤い顔をしながら検索結果をタップしていた。


「エーのブイ!?」


ゆりかが驚いた声を出すと、周りがビクッとする。


「つまり……アニマルビデオの女優ということか」

「そうだよ、獣が出たりするからね。ほらゆりかは席に座って飲み物でも頼んでおきな」

「ダイエットコーラフロート1つで頼む!」

「昨日から学習してますね……」


絵美が暖かい目でゆりかをカウンターに誘導し、ゆりかは楽しみにフロートを待っていた。


「あっ……!?」

「姉者?どうかしました?」

「……な、なんでもないわ。ただ恥ずかしくなっただけ」

「め、珍しい!ステンレスの心臓を持つ姉者が!?」

「流石の私もそんなに強い心臓じゃないわよ!?」


円は沢村ヤマの画像を見て赤くなった。

赤くなった理由は恥ずかしくなったからなのは間違いない。

ただ、同性の裸を見て赤くなるほど円はウブではない。

では、なぜ恥ずかしくなったのかと言うと……。


(沢村ヤマの顔、少し来栖由美に似てる……!)


黒髪なところ、目元、眉の形、髪型。

絶妙に前世の自分と重なっていたのである。


(明智君……。言ってくれれば私だって裸見せるどころかその先も直接……!)


今の自分は胸は減少したが、求められたらいくらでも応えるつもりの円である。


「明智君のそういうところが好きぃ!」

「え!?沢村ヤマが好きな秀頼先輩が好きなの!?」


もはや、何をしなくても秀頼の好感度は上がっていく。

円はもうダメかもしれない。


「のーちゃん……。まだお兄ちゃんが沢村ヤマが好きって決まったわけじゃないのに……」


星子はいつの間にか兄が沢村ヤマ好き認定されていることをフォローしていた。

真実を知る理沙とマスターは妹の健気さに拍手喝采をしそうになっていた。


「……うーん。この沢村ヤマって人どこかで見たような」


遥香がスマホの沢村ヤマの画像を見ながら頭を抱えていた。

自分がエーのブイの女優を知るはずがないのに、はじめて顔を見た気がしないのだ。


「も、もしかして遥香さんの弟君が……!?」

「そ、それはありません!」


理沙の渾身のギャグに遥香が赤い顔をして否定する。

それはないなと弟の部屋からエロいものを見たことがない遥香は否定する。


「ま、まさか遥香のお父様が……!?」

「だから家族を変態みたいに言わないでください!」


遥香が更に赤い顔をしながら美鈴の悪乗りを否定する。


「ん?親……?」

「どうしたの?」


遥香が美鈴の一言で引っ掛かりを覚えた。

まるでテスト中に完全に解けなかった問題を突然閃いた時のようにモヤモヤが晴れたのだ。


「思いだしました!ボクのクラスの村沢さんのお母さんですよ!」

「村沢?村沢海のことだな。確か遥香の出席番号の次だよな?」

「はい!入学式の時、村沢さんのお母さんを見掛けて凄い美人で胸が大きかったから覚えてますよ!」

「村沢か……。詠美が『知名度は低いけど女優の母親がいる』とかなんとか言ってた気がする……」


「詠美ちゃんが!?」と顔が広い従姉に驚く絵美。

本当にどこから情報を持ってくるのだろうと詠美を知る3人は怖くなる。


「三島さんと美月さんのクラスに沢村ヤマの娘さん!?」

「マスター……?」

「おっと、なんでもないよ……」

「…………」


会話が聞こえていたマスターが今年1番テンションの上がった話題であった。

娘から白い目で見られたが、マスターは飄々とした態度で誤魔化した。


「よくよく見れば沢村ヤマと村沢が似てる気がする……」

「ですよね!?ですよね!?」


クラスの村沢は遥香の『エナジードレイン』で体調を悪くさせた人物ではないので、後ろめたさは皆無である。

それもあり、最近はたまに絡み仲良くなっていた遥香である。


「…………なんでこいつら沢村ヤマトークしてんだ?」


ヨルは呆れながらゆりかの隣でダイエットコーラフロートを満喫しているのであった。

ただ、西軍の間では『沢村ヤマ=秀頼の女のタイプ』ということで嫉妬以上に、女としての尊敬として崇められる対象になったという。


「…………もっと胸を大きくしないと」


ない胸を張った絵美はそんな決意を見せた。












村沢海ちゃんは名前こそ出ていませんが、このページで秀頼からストライクな見た目と評価されています。

第8章 病弱の代償

第173部分 14、深森美月


ちな、原作キャラクターではない。


現在、クズゲスで親子3代で名前が登場した一族は村沢一家のみです。

祖母 沢村カワ(芸名)

母 沢村ヤマ(芸名)

娘 村沢海(本名)



村沢さんがデビューしたら沢村ウミになるのかも……!

沢村ヤマの本名は村沢山です。

どっかの地名みたいですね。





次回、月と鈴編完結!

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