64、三島遥香は隣に座る
「おお!大浴場とはこんなところなのか!」
タオルを巻いた美月がはじめての大浴場のお風呂に来てテンションが高かった。
当然美月がはじめてなら、彼女の妹である美鈴もはじめての大浴場で興奮気味であった。
「こんな感じのところなんですね!」
「わたくしたち以外にもお客さんもいるみたいだ!」
「3種類ほどのお風呂がありますねお姉様!」
「見ろ美鈴!白く濁った珍しいお風呂もあるぞ!」
「見てお姉様!水風呂もありますわ!」
「…………でもなぁ」
「…………そうですねぇ」
「ぶっちゃけ本家のお風呂の方が……」
「広いですよね……」
「露骨な金持ちアピールをやめてください!」
姉妹のやり取りを微笑んで見ていた理沙であったが、一気にガッカリし始めた美月と美鈴に思わず突っ込んでしまう。
「良いなぁ……、お金ってあるところにはあるんだよねぇ……」
「ウチなんて古すぎてシャワーがお湯になるの時間掛かるボロ喫茶店なのに……」
「そっちは引っ張られ過ぎ!」
遥香と咲夜は深森姉妹の発言にカルチャーショックを受けて、自分の家のお風呂と大浴場より広い深森邸のお風呂を比べてしまったのである。
「ほらほら、最初は身体から洗うのがマナーですよ」
「はーい」
オカンみたいになった絵美は美月と美鈴をシャワーへ誘導していく。
みんなもそれに倣って絵美へと着いて行く。
「うわっ!?美鈴のシャンプーが普通にわたしの憧れているシャンプー使ってるんだけど……」
美鈴が持ち込んでいるシャンプーは女性人気が高いが、値段が高くて学生では手に届かないネット販売限定の絵美が大人になったら使いたかったモノをさりげなく持っていた。
「あぁ。これは美鈴がよくわからんけど使ってるやつ」
「よくわからんけど……?」
絵美も美鈴の発言にぞっとした。
「絵美も使う?」
「使う!」
ぞっとしたのだが、美鈴の誘いに乗ってしまい憧れのシャンプーを手に取ってしまう。
チューブからして触った感じが普段使っている1000円程度のシャンプーより高級なのが伝わってきた。
「あぁ……」
絵美が美鈴から借りたシャンプーをキラキラした目で隅々まで成分や泡立ちなのを堪能していた。
「…………え?みんなシャンプーとか持参してんの?」
大浴場にもリンスインシャンプーとボディソープがあるのに持参する文化があるのをはじめて知ったヨルは、当たり前のようにみんながシャンプーなどを持ってきていて驚愕する。
「ボクは肌が弱くてこういうのじゃないとダメですから」
「あ!遥香のシャンプーは私とお揃いですね!」
「これ安くて肌に優しくて良いですよね」
遥香と永遠でシャンプー談義をはじめてしまう。
近くにいる星子と和のシャンプー談義の会話もヨルの耳に届く。
「ゆ、ゆりか!お前は!?お前はシャンプーなんか持ってきてないよな!?」
「は?」
ゆりかの手にはしっかりと自分が使うシャンプーとリンスとボディソープに洗顔フォームを用意した籠が握られていた。
「お前はなんか枝毛とか気にしそうにないタイプじゃん!?」
「めっちゃ気を遣うんだが?勝手なイメージで我を見るなよ」
「…………」
女子力の低い原作メインヒロインであった……。
そんなこんなでみんなが身体を洗い流し、各自で好きな風呂へと散らばっていった。
「こ、こんにちは!美鈴さん!」
「こ……こんにちは」
「隣、良いですか!?」
「好きにしなさない」
こんばんはではないのか?と美鈴が脳内で突っ込んでいると、話しかけてきた遥香が美鈴の隣に座りお風呂に入ってきた。
「ぼ、ボクは美月さんと同じクラスで美月さんと仲良くしてもらっています」
「そうみたいね」
「だから美鈴さんのこともちょいちょい聞いていて、話してみたかったんです」
「別に美鈴と会話したってつまんないわよ。こないだまでボッチだったし……」
「はは……。ボクも明智さんや美月さんと話すまでボッチでしたよ……。だから今がすごく楽しいんですよ!美鈴さんも今楽しいんじゃないですか?」
「…………そうね。悪くないわね。楽しい……のかもね」
美鈴が照れ隠しながら赤くなって遥香がそんな彼女を見て微笑む。
おそらく美月よりも美鈴の方が感性が似ているのではないかと、初対面時に美鈴を見て思ったのである。
「みんな素敵な人ばかりなんですよ……。ボクよりキラキラ輝く人ばかりです」
遥香はもっと自分も秀頼や西軍のみんなと仲良くなりたいなと感じていた。
「謙遜のし過ぎね。遥香だって素敵じゃない。空っぽな美鈴とは全然違うわよ。……美鈴はこないだまで時間が止まっていたんだから」
「…………ボクも同じです。ボクもギフトに悩んで時間が止まっていてクラスでコソコソしてましたよ。みんなが不気味なモノを見る目で見てきて、きつかったなぁ……」
「…………そうね。美鈴も全く同じね」
「それでも、美月さんがボクと向き合ってくれて嬉しかったです!」
「…………」
「何もかも同じね……」と美鈴は遥香に聞こえないくらいの小声で呟いていた。
姉が救いになっていたのに、甘えて当たっていた自分が嫌になった。
「美月さんと美鈴さんの仲があんまり良くなかったのは聞いています。今の状態になるまでわだかまりはありませんでしたか?」
「…………あるわよ、当然。今でこそ仲良くはなっているけど、また紋章が顔に浮かんだらと思うと今の美鈴が消えてしまいそうでね……」
「…………」
『エナジードレイン』がまた暴走する自分のことを考えると美鈴の悩みが遥香には痛いほど伝わる。
美月も遥香やみんなの前では明るくしているが、たまに美鈴との付き合い方に悩んでいるのを遥香は感じていたのである。
「大丈夫ですよ。今の反省している美鈴さんなら美月さんを傷付けませんよ!」
「…………遥香」
「それに明智さんが紋章を消したんですよね!なら大丈夫です!ボク、明智さんが言うことならどんな嘘みたいな話でも信じちゃうんですよ。本当に単純ですよね」
「…………あなたとは仲良くなれそうね」
「仲良くしましょうよ美鈴さん!」
遥香と美鈴の裸の付き合いの様な友情が芽生えていたのであった。
「おーい、美鈴に遥香!そろそろ上がるぞー!」
仲良く遥香と美鈴で美月トークをしていると、その本人が2人を呼びにやって来た。
「美月さんの隙だらけのところがボクは大好きですよ!」
「完璧を狙い過ぎて外している感じなのは昔から相変わらずね……」
「…………って、わたくしが不在なところでなんの話をしているんだっ!」
ガッツリ美月本人に軽口を聞かれてしまった2人であった……。
†
次回、『月と鈴』編における絵美の末路……。
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