38、津軽円は動向が気になる

「美鈴!おっはよー!」

「お、おはよう……絵美……」

「うん!」


朝の挨拶をする絵美に対して、照れくさそうに美鈴が挨拶を返す。

その姿を見た絵美はニヤニヤと嬉しそうに笑う。


「あら?絵美、いつの間に深森さんと仲良くなったの?」

「ふふん!美鈴はわたしの友達だぜぇ」

「だぜぇとか、だせぇ」

「だせぇとか言うな!」


円が絵美にからかいの言葉を掛けながら、彼女はゲームの記憶を思い出す。

秀頼と話し合いをしてあるヒロインの深森美月。

その美月シナリオにのみ大きく関わってくるのが深森美鈴というキャラクターだ。

美鈴のキャラクターはイチャイチャばっかりだった美月とタケルの仲を嫉妬心から壊す悪役である。

……が、別に円となんら関わることもない相手である。


「じゃあこっちもよろしくね」

「よ、よろしくお願いいたします津軽さん」

「円でいいわよ。長いでしょ津軽さんって」


円は自分の津軽という名字があまり可愛くなくてあまり他人に呼ばせたくなかった。

だから特に同性である女性には円呼びをさせている。

名字は前世の来栖の方が好きだったと彼女は自負している。


「見て見て!最近ネットで見付けたんだけど胸が成長するサプリってあるんだけどこれどう思う」

「偽物でしょ、そんなの……」


絵美が美鈴の席にスマホにサプリのサイトを表示させると円が即答する。


「美鈴もこういうサイト見ると『本当かも?』ってなって買っちゃいそうになる」

「わかるー!でも、美鈴の胸はそこそこ大きいじゃん!」

「それは自慢。でももっと欲しい」

「くぅ、もっと欲しいのか。欲張り……」


姉の美月と比べて身長も低ければ、要領も悪い美鈴。

しかし、そんな『コンプレックスの塊』の具現化した存在の姉よりも大きい胸が美鈴は密かな自慢であった。

…………というか、姉の美月が残念おっぱいなのはここに伏せておく。


『初代の攻略ヒロインのおっぱいで1番小さいのが美月だったかしら……』と背が高い美月のコンプレックスを円は胸の話を聞いて思い出す。

つい最近まで美月の存在を忘れていた円は、廊下で遥香と詠美に混ざって歩く美月の姿を見てなんとなくだが彼女のことを思い出していたのであった。


胸が小さいと円に弄られているが、乙葉や絵美や咲夜よりは大きいこともここに記載しておく。


「美鈴の身体、男子なら好きって子多いかもね」

「え、え?」

「私、美鈴の見た目好きよ」


円は美鈴の過去を原作を通して知っている。

悪役である絵美や美鈴に感情移入をしながら来栖由美として原作をプレイしていたのだ。

どちらも報われることなく終わった原作をプレイして同情的になったくらいだ。

そんな円は、美鈴に対する見た目の嫌悪感はゼロに等しかった。


それだけに残念に思う。

美月と美鈴が和解することなく、美月ルートは完結してしまうのだから……。


(豊臣君……。いや、明智君でも流石に美月と美鈴が仲直りさせて、平和な日常を送らせる。……そんな結末にするのは無理よね……)


原作キャラクターの絵美、理沙、永遠、遥香を思い浮かべる。

あとは、自分の記憶にはゆりかの存在は覚えていないが彼女も原作から幸せになった人かと思い出す。


円は明智秀頼に転生した彼が好きだが、彼の周りを取り巻く彼女らも大好きだった。

自分を姉と慕い自由な妹の和。

明るくて周囲を元気にさせる絵美。

みんなの突っ込み役の常識人の理沙。

口が悪いが、みんなに愛されるへっぽこの咲夜。

恋のライバルとして最強格に君臨する永遠。

スペックが高過ぎて周囲を驚かせるがポンコツのゆりか。

相変わらず何を考えているのか不明だけどつい話し込んでしまうヨル。

みんなのブレーキ役で和ませる遥香。

1歩引いた位置の盛り上げ役のタケル。


そんな輪に、美月と美鈴も加わったらどんなカオスになるのだろうか?とついつい考えてしまう円なのであった。


「あ、ありがとう円」


素っ気ないながらも、本音で語った円に美鈴も嬉しくなりお礼を告げる。

偏見さえなければ、美鈴も可愛い女の子なのである。


『明智君……。君は美月たちに対してどう動くのかな』


自分の思い人の動向が気にならないわけがない円であった。







─────







今日も深森美鈴は体調を崩し、保健室で身体を休めていた。

その上げられたおでこには、水で濡れたタオルが乗せられている。


「…………」


俺は深森美鈴というキャラクターがあまり好きじゃなかった。

毒を盛る危険人物。

実に不愉快な人物だ。


確かに、その過去は同情できるモノ。

ただ、美月とタケルの間を切り裂くためとはいえ、その極端な思い切りの決断を下すのは秀頼と同レベルでの外道だ。


正直、絵美や円が近くにいるということが恐怖である。


「始末するか……」


深森美鈴。

彼女を俺は強制的に退場させる一手を打つ。


悪く思うな。

タケルが美月ルートフラグを踏んでしまった以上、美鈴は邪魔な存在だ。


「う……」


彼女が俺の気配に気付いたのか目を開く。

数秒間、俺と目が合った美鈴は混乱しているのか黙りこくっている。

それが10秒も過ぎると、俺の存在を認知したらしい。


「あ、……明智……君?」

「…………」


俺の顔を見た途端に怯えた顔を見せる美鈴。

しかし、俺は有無を言わさず彼女にギフトを発動させるために口を開く。





「ギフト発動──」






そして、俺がこの日のために何年も前から考えていた3つの命令を美鈴に下す。















次回、鈴編開幕……。

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