35、佐々木絵美は悲鳴を上げる

「ひ、ひ、ひ、秀頼くんっ!?」

「えっ……!?あっ!?」


絵美を強く抱いてしまい、それに驚いた絵美の言葉が響く。

何やってんだよ、俺は……。


意識してしまうと、絵美の甘い匂いで酔いがまわってきそうになる。

絵美が絵美じゃなくなるんじゃないかという不安から俺らしくもない反応を見せてしまい、顔の体温が熱くなる。


「ひ、秀頼君!き、キス……?し、してみる?」

「し、しないよ!?」


赤くなってテンパった絵美が凄いことを口にした。

俺が絵美にキスしたいんじゃないか?という疑問を抱かせてしまい、慌てて否定する。

な、何やってんだ俺は……。


原作の秀頼みたいに絵美を強引に求めるような行為をしてしまい猛反省する……。


俺が無言で床に座ると、赤くなった絵美も恥ずかしそうになり口を閉じていた。


「……な、なんで突然抱き付いたの?」


気まずい空気が1分近く流れ、黙っていた緊迫を絵美が解く。

その答えをどぎまぎしながら答える。


「え、絵美がちんぷんかんぷんなこというから……。ぎゃ、虐待とか」

「ぎゃくたい……?え?なんの話?」

「え?」


絵美が理解していない顔をしている。

まるで自分が『虐待』なんて単語を出したことすら覚えてないみたいな反応だ。


「虐待……。あー!昨日のゴールデンタイムで虐待された男性の体験談みたいな番組してたけどあれ秀頼君も見てたんだ」

「あ、あぁ……。元スナップの中本君出てたやつな」

「怖いよねぇ、ああいうの……」


絵美が「1日1回は殴られる生活は怖いよねぇ……」と同情的な口を開いている。

その番組の男性の結末は『海外生活をしていた兄貴が駆け付けて守ってくれた』と語られていた。


なんともまぁ、『助けてくれる人がいてくれて羨ましいこと』と最後の最後で感情移入が出来なくて、番組のラストを見届けないままギャルゲーに切り替えて由香ちゃん攻略をしていたのを思い出す。


はっ……。

俺には、虐めからも虐待からも助けてくれる人なんか世界中どこにも居なかったわけだから所詮嫌われ者なんだろうね……。

助けてくれるヒーローの存在なんか、俺は期待なんかしていない。

常に1人で立ち向かう力を身に付けるだけだ。


「んー。それにしてもわたしと会う前の秀頼君見たいなぁ……。よし!」

「どうした?」


絵美が突然部屋の扉まで歩いて行く。

それを、俺は視線で追いかける。

彼女が俺に背を向けてからは尻に目が行っていた。


「おばさんに秀頼君の昔の写真がないか聞いてみるよ!」

「ちょっ!?」

「行ってくる!」


絵美が俺の制止も聞かず走って行ってしまった……。


しかし、絵美が一瞬呟いた『虐待……』の言葉はなんのだろうか……?

あの瞬間だけ、絵美の目が原作の彼女の目と重なった気がした。


心の底から恐怖心が沸き上がる。


こっちの絵美には、酷いことなんかとは無縁な幸せを送ってもらいたい。

それを原作で散々な目にしてきた秀頼おれが願うのはお門違いも良いところなのだろうか……。


何も考えたくなくなり、ベッドの布団へ顔を蹲る。

これから先に待ち構える原作の展開……。

ギフト狩りの活発な活動。

エニアによる最終決戦。


果たして、この世界はどんな結末エンディングを迎えられるのだろうか……?



「…………写真なんかあるのか?」


絵美と出会う直前まで虐待されていた人生。

果たしておばさんがその時代の写真を持っているのかが疑問である。

それから5分ほどしてバタバタと慌てて走ってきた絵美が部屋に到着する。


「あんまり枚数ないけどあるって!」

「あったの!?」


凄い薄いアルバムを持ってきた絵美。

「まだ開いてないんだ」とワクワクしていた。

…………虐待されている写真とか出ないよな?

おばさんが確認しているし大丈夫だとは思うが……。


開かれる暗黒時代のアルバムに対し、喉がごくりと唸る。




「きゃあああああああ!?」

「っ!?」




絵美の悲鳴が聞こえる。

アルバムを開いた絵美の姿がプルプルと震えていた。

な、なんだ……?

何があったんだ?

恐怖心と平常心が戦争している中、俺もそのアルバムの中身を覗き込む。


──そして、息が止まりそうになる。









「か、かっわいいっ!秀頼君が女の子の格好してる!きゃああああああああああ!似合うぅぅぅぅぅ!」

「なんじゃこりゃあ!?」


俺が女装姿を晒している情けない写真だった。

この姿に見覚えがある。

叔父から無理矢理に女モノを着せられた際の服装である。


「か、神ですか!?神ですかおばさん……」

「何やってんだあの人!?」


まさかこんな形で封印が解かれるとは思わなかった……。

虐待されている時期であっても、幾分かの普通の写真はあったので、叔父が出歩いていたりした時に可愛がってくれていたおばさんが写真を撮っていたようである。


当時はおばさんも今ほどはあまり好きじゃなかったが、それでも家族で縋ることができる唯一の存在ではあった。

懐いていた記憶もあまりないが、嫌いでもなかった。

わりと微妙な存在がおばさんだったりする。


もしかしたら、叔父不在で可愛いことに気付いたおばさんが女装姿を写真に納めたのかな?とか当時のおばさんの心境を考えてしまう。


「秀頼くーん、女装して?」

「やるわけないだろ……」

「ふふーん。写メちゃった。あー、可愛い」

「何やってんのよ、君……」


ネタとしてなのかわからないが絵美がスマホで気に入ったと称して写真を写メっていた。


「待ち受けにしよ」

「それだけはやめてっ!」


嘘かどうかはわからない絵美の呟きに必死で頭を下げ続けた。

本当に恥ずかしくて顔から火が出るところが、マグマでも出るんじゃないかってくらいに恥を晒してしまっている女装姿であった……。


「キッズ頼君可愛い!」

「秀頼って言えよ」


女装姿ではない男性姿の写真もアルバムに数枚残されていた。

そんな幼い俺の写真を絵美は目の保養とばかりに眺めているのであった……。







でも、この時は想像もしてなかった……。


まさか俺が女装姿を通り越し……。




──ガチの女になってしまう日がくるとは……。












なぜか求められるTS回、近い内にやります。





次回、ゆりかにギフト狩りの影あり……。

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