24、月【イライラ】
次の日、タケルとの約束通りに弁当を2つ用意して昼休みに屋上に来ていた。
タケルがワクワクしながらやって来て、最初に玉子焼きを口にする。
「あー、めっちゃうめーよ!」
「ははは!やっぱり男だな!」
お父様と同じで食べるのも早いし、食べる量も多い。
タケルは、昨日買った子豚の箸を使っていて妙にギャップが起きて微笑ましい。
男らしく、それでいて子供に見えてしまう。
「にしても『呪いを解く』ギフト見付からないな……」
「そうだな……」
あれから毎日色んなクラスをまわっているが、良い報告がない。
タケルが聞き込みをした生徒と仲良くなり、『なんか欲しがる情報あったら連絡する』という生徒も現れたのだが特に追加の連絡はないらしい。
「果報は寝て待てと言うしな」
「そうだけど……。ん?」
「どうしたタケル?」
「1週間前に連絡先交換した奴からラインがきてる」
タケルがご飯を口に含みながらスマホを弄る。
噛んでいる間は喋らず、飲み込んでから嬉しそうに声を上げた。
「人間関係が広くて色々知ってる先輩が俺と会ってくれるって」
「人間関係か……」
色々知ってるという触れ込みの明智秀頼以外にも、少し前にタケルのクラスメートのヨル・ヒルという生徒とも接触してみたがめぼしい情報はなかった。
今回もそうなる気はしたのだが放課後に会ってもらえるらしいので2人でその先輩に会うことになる。
その日の放課後、紹介された先輩を訪れて『呪いを解く』ギフトの話をした時であった。
「あー、そういや去年に『ギフトなんちゃらを解く』ギフトだって奴がクラスにいたなぁ。顔の紋章を消せるとかなんか言ってた気がする」
「ほ、本当ですか!?」
「その人に会わせてください!お、お礼もしっかりします!」
いくらかお金も出すつもりだ。
あてにしてなかった情報源からまさか『『ギフト享受の呪縛』を解く』ギフトの持ち主の情報が聞けて興奮する。
「ただ、会わせるのは無理なんだよ」
「え?」
しかし、先輩の一言で冷や水をぶっかけられた気分にさせられる。
わたくしが唖然としていると、タケルが「どうしてですか!?」とわたくしの言葉を代弁する。
「そいつ、半年前くらいから行方不明なんだよ」
「行方不明……?」
「親も学校も友達もみんな居場所がわからないんだ……。まるで神隠しにあったみたいにそいつ消えてしまったんだよ」
「神隠し……?」
「なぜかこの学校、悪い不良生徒が神隠しみたいに消えたりさ、死んだりする事件多いんだよ……。その犠牲者になったんだと思う……」
ようやく見付けたのに、その目的の人物は消えてしまった事実に思考が真っ白になる。
背中、全身に鳥肌が立つ。
立っていられるのが奇跡なほど、気持ち悪い……。
それに気付いたタケルが先輩へ頭を下げて、わたくしの手を引っ張る。
そのままされるがままにタケルに連れられて、止まった先はわたくしのクラスであった。
「落ち込むな美月」
「タケル……」
「もしかしたら他にも同じギフト所持者がいるだろうしさ、気にすんな!振り出しに戻っただけだよ」
タケルが優しく背中を叩く。
「くよくよするな!また見付ければ良いだろ」と頼もしく笑う。
そうだな。
まだ振り出しに戻っただけだ。
同じ条件の人をまた探すだけだとポジティブになる。
「あ!美月さんに十文字さんだ」
「遥香」
ちょうど教室から遥香が出てきた。
通学カバンを持っているので、帰るのであろう。
「美月さんと十文字さん付き合っているんですよね。おめでとうございます」
「そ、そんな風に言われると俺も照れるよ」
「ふふっ。末永くお幸せに」
遥香が自分のことのように微笑む。
もしかしたらこんな事態を予想していたのかもしれない。
「じゃあ美月さん、また来週会いましょうね」
「あぁ、また月曜日な」
遥香に手を振り別れた。
本当に良い子だ。
明智秀頼と付き合っているのかはわたくしは知らないが、あの男にはもったいないとすら思う。
「じゃあ俺らも帰るか」
「そうだな」
そして、わたくしはタケルと手を繋ぎ廊下を歩き出す。
ずっとこんな日々が続くと良いのに……。
ただ、時間とは残酷で変化を生み出す。
三島遥香が家族全員とギフト管理局員3名を殺害。
そのまま逮捕。
そんなニュースがテレビから放映された……。
真っ青になりながら遥香にメッセージを送っても返事がない
あの遥香がそんなことをするわけがない。
タケルや詠美に連絡するも、『冗談じゃなさそう……』と現実を突き付けてくる。
わかっている。
わかっているけど、そんなのあり得ないだろ……?
遥香にどんなことが起きれば、犯罪の加害者になるのか想像も付かなかった……。
週末を終えて、ギフトアカデミーに向かう通学時間。
『本当に遥香は学校にいないのか?』
それだけがソワソワしてしまい、いつもの通学時間より早くマンションを飛び出してしまう。
歩幅も大きく、早歩きになりながら学校を目指す。
そして、学校が近付いた時にイライラさせるものが視界に入る。
『秀頼の誰にも譲らない強いところ素敵よ』
『あぁ。そりゃあ俺より弱い奴しか世の中いねーからな。はっはは』
『今日、ウチに来ない?』
『おーけー、じゃあ学校終わったら即お前ん家行くわ』
明智秀頼がケバいギャル系の女子とイチャイチャしながら目の前を歩いていた。
男に甘えるように女は甘い声を出し、頭空っぽのように胸を腕に押し付けている。
──なんだ、あの男は?
遥香と付き合っていたのではないのか?
付き合っていなかったとしても、友達が逮捕された報道がされたんだぞ?
どうして、そんなにヘラヘラ笑っていられる?
どうして、女にチヤホヤされている?
遥香に対しての情はないのか?
そんなの遥香が浮かばれないじゃないか……。
無意識に拳を作り、男を睨み付ける。
その視線に気付かない2人はそのままバカみたいな中身のない話をしながら曲がっていき廊下へ消えていく。
わたくしは気持ち悪い2人が見えなくなるまで見送り、別の方向へ曲がって自分の教室に向かう。
教室に入っても遥香の姿はない。
空いた時間に勉強をして待っていると、クラスメートのコソコソした声がする。
『三島の事件やばくね?』
『あの地味子が家族とギフト管理局殺害だろ?頭狂ってやがる』
『こわぁ、もしかしたら僕らも殺されてたってこと?』
『逮捕されて良かったじゃん』
…………。
遥香のことを何も知らない連中が遥香を語るな……。
彼女は家族が大好きで、自分のペットの自慢をしてくる良い子だ。
そんな子がギフトで人を殺害したなんて事故に巻き込まれたか、ギフトが暴走したかくらい想像が付くだろ!?
地味子ってバカにするな……。
遥香を面白く語るな……。
明智秀頼にイライラし、遥香の風評被害にイライラし、好き勝手にしてくる何もかもが壊したい。
クラスの連中に何か言ってやろうと、シャープペンを机に置いた時であった。
「ハルカが理由もなく家族を殺すわけないだろ!」
机を叩き、大声で叱る詠美の姿があった。
「だ、だってお前も報道見ただろ……?」
「なんだ?テレビだけが真実なのか?お前はテレビが『リンゴが青いです』って報道したら信じるのか!?」
「そ、それは信じねーけど……」
「消えろハゲ」
クラスの男子に食ってかかる詠美の姿があった。
普段はおちゃらけた女がこんな真面目に声を出す姿は始めてであった。
それが今だけは頼りがいがあった。
遥香を本当に友達だと思ってくれる人がクラスにいてくれて、本当に心強い。
言い争いは詠美が『言い過ぎた』と退いて席に戻ろうとしていた時にわたくしと目が合う。
それから笑顔でピースを向けてくる。
『私はハルカの味方だよ』、詠美の姿がそれを物語っていた。
いつも何考えているかわからない詠美だけど、良い友人だと嬉しくなり、胸が熱くなった。
†
次回、タケルと……。
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