23、月【贈り物】
それから何日かクラスを見てまわったが、中々良い情報が見付からない日々が続く。
ただ、わたくしはタケルと2人で色々歩き回ることが好きになっていた。
それが、学校にいる間だけなのは寂しいとすら思いはじめていた時であった。
「なぁ、美月。そのさ……、放課後の学校帰りに遊びとか飯食いとか行かないか?」
「さ、誘ってくれるのか……?」
「あぁ。美月だから誘ってるんだ」
タケルのまっすぐな瞳に、気付いたら頷いていた。
ほ、放課後デートというやつだろうか……。
恥ずかしさもあるが、不思議と嫌な恥ずかしさではなく、ワクワクしてムズムズする恥ずかしさである。
それを遥香に相談すると「美月さん、恋してますよ」と言われてしまった。
「ボクが明智さんに向けている気持ちと同じです!」と言い切られてしまった。
まさか、わたくしがタケルに恋をしているのか?
わからない、わからない、わからない。
最初はわたくしの用事を手伝ってくれる優しい人くらいの認識だったんだけどなぁ……。
「美月、じゃあ行こうぜ」
「あ、あぁ!エスコート頼むぞ」
「OK!」
学校の昇降口で待っているとタケルと合流する。
タケルの気持ちはどうなんだろうとか考えてしまう。
「あ……!」
「どうした?」
「秀頼と三島だ」
タケルのまっすぐな視線を追うと、仲良く話している遥香と、気持ち悪い作り笑顔で会話する明智秀頼が見える。
なんであんなにも白々しい顔を見せられるのかわたくしにはわからない。
ただ、タケルやその他の人にもそれが通じない。
わたくしの感覚が間違っているのだろうか?
遥香に不審な影が落ちている予感がするが、どんな対処をすれば良いのかわからない。
「よし、秀頼と鉢合わせしないようにこっちに行こうぜ」
「っ!?た、タケル!?」
「こっちに行こうぜ」
タケルが赤い顔をして、わたくしの左手を取る。
異性に肌を触られているのに、嫌な気はしなかった……。
「デートとしてはベタかもだけど……、モールで良いか?」
「どこでも……。というかデート!?」
「ッ……。そ、その……、俺美月が気になって気になって気になってさ!夜も眠れなくなるくらいに美月のこと考えて……」
「え?」
夜も眠れなくなるくらい美月のこと考えて……?
美月?
美月って……、わたくし?
「好きなんだよ。……だから手を握りたくてさ」
照れくさそうなタケルはグイグイわたくしを引っ張りながら顔を見せずに告白する。
……ッッッ!?
た、タケル……。
「タケル!」
「ん?」
「……、わたくしも……同じ気持ちなんだと思う」
「……えっ!?」
「わたくしもタケルが好きだぞ」
「…………ま、マジで!?か、彼女って自慢して良い!?」
「条件付きだがな」
「条件?」
タケルがドキッとしたのかこちらを振り返る。
普段からは考えられないほどに顔が赤い。
「わたくしもタケルを彼氏と自慢すること」
「ッ!?す、好きです美月!」
「た、タケル!?」
まだ通学途中の生徒が見ている中、タケルが抱き付いてくる。
人目は恥ずかしいが、悪い気はしなかった。
こうして、わたくしはタケルと付き合うことになった。
そのまま手を繋ぎ、ショッピングモールを歩き回る。
永遠や遥香などの友人ではなく、彼氏と買い物に出掛けるというのはくすぐったかった。
というか、これデートって呼ぶのか……。
いつもよりお互い緊張して口数は少ないながら歩みを進める。
タケルが柄にもなくオシャレな雑貨売場に連れ出すのを可愛らしいなと微笑ましくなる。
いかにも女性が好きそうな店の雰囲気であったが、タケルは気にしない様子でエスコートする。
もしかしたら妹と来たりするのかな?と勘ぐると理沙さんに対抗意識が沸いてくる。
「あっ、これ可愛いな」
子豚のイラストが描かれた箸に目が行く。
いつも使っている箸が飾り気のない黒い箸なので、こういったのに目が惹かれてしまう。
「くっくくく……。子豚を選ぶ美月も可愛すぎ……」
「わ、笑うなタケル!?」
タケルからギャップのせいなのか笑われる。
家族から無難なモノを押し付けられてきた反動もあり、こういうのに目が肥えているのだ。
仕方ないだろ!?
「じゃあその箸、俺が買うよ」
「た、タケル!?別にそんなの……」
「良いの良いの。俺が買いたいの」
タケルが箸を物色する。
そして、違う色の箸も手に取る。
「美月のお揃いで俺のぶんも買おう」
「……タケル」
「この箸で美月の手作り弁当とか食べたいな」
「……ッ!?そんなこと言われれば作るしかないだろ……」
「マジで!?マジで!?」
タケルの顔もパァと明るくなる。
そんな目を向けられて拒否なんかできるわけないだろうに……。
バカップルになりつつあるような……。
ま、別に悪い気はしないな。
それからは雑貨売場を出て、本屋など色々見てまわる。
特別なことは手繋ぎくらいしかしなかったが、初の放課後デートはこんな感じに過ぎていく。
タケルと付き合えて、わたくしは幸せを噛み締めていた。
「あー、楽しかったなぁ」
デートの余韻に浸りながらいつもより遅めの時間になったが夕飯を調理していた。
デートの時間ぶん、夕飯の時間がズレてしまった。
ギフトアカデミーに入学し、マンションで美鈴と2人っきりで暮らしているが1回もわたくしの料理も口にしなければ、毎日美鈴は夜遅くに帰宅するので一緒に食事もしない。
だから1人前の青椒肉絲を作り上げた。
寂しい思いをしながら毎日食事をする。
これがわたくしの食事だ。
たまにタケルを招いて2人で食事もできるのかワクワクする。
そして、今日タケルが買ってくれた子豚の白い箸を開封する。
この箸でご飯を摘まんで口にすると、タケルと食事をしている気分になり、嬉しくなる。
「ムフフフ」
ちょっと顔がにやけていると玄関からの物音がして正気に戻る。
美鈴が帰宅したみたいだ。
いつもわたくしの食事中に帰宅しないで、わたくしがお風呂に入っている時に美鈴は帰るのだが、今日はタケルとのデートで時間がズレたので美鈴と顔を合わせることになる。
「た、ただいま美鈴……」
「…………さいあく」
「…………」
ぼそっと美鈴はわたくしに悪態を付く。
未だに妹と和解できずに、嫌われている。
もう、何年もこんな感じなので慣れている。
小さくなりながら食事をしていると珍しく美鈴から「ねぇ」と呼ばれて、顔を上げた。
「どうした美鈴?」
「なに、その箸?」
「こ、これか?これは……、贈り物だ」
はじめて出来た彼氏からのプレゼントだ。
値段は高い品物じゃないが、特に物に執着はないのでこれで満足だ。
タケルを考えると胸が熱くなる。
「…………彼氏?」
「そ、そうだな。……うん。彼氏だ」
「…………」
美鈴は興味もなさそうに自室へ消えていく。
わが妹ながら自由過ぎる……。
静かになった空間で、孤独の食事を終えるのであった……。
「タケルさん……。どうして?どうしてお姉様なんかと……。美鈴の方が……。美鈴の方がもっとずっとお慕いしているのに……。…………お姉様は毎回毎回美鈴から何もかも奪っていくんだ……。…………くっくく。くっくくく、本当にお姉様は美鈴の邪魔ばっかりするんだから……。お荷物女は殺してあげるわ」
鈴の憎悪は嫉妬を生み出し、増幅していく……。
†
次回、呪いを解ける人が見付かる……?
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