9、黒幕概念は愉快

ダメだ……。

理知歩愛紗の存在が本当に消えている。

愛紗が所属していたクラスの男子に一応聞いてみたが、「誰?」と言われただけだった……。


俺はイライラしながら、おもいっきり文芸部の扉を開く。

『バンッ!』と音が響かせながら出入口が開く。






「うわあああ!?ビックリしたわあああ!?」


黒幕概念の姿の少女は大声を上げて驚愕していた。

やっぱり概念さんのクラスに行っても不在だと思ったら部室を私物化してくつろいでいたらしい。


「ちょっと!?普通ノックとかするでしょ!?」

「お前勝手に俺の部屋入ってノート読んでたりしてたじゃねーか!お前もノックしてから常識語れよ!」

「ぐぬぬぬぬ……。か、神に正論とは生意気な……」


エニアverじゃなくて、概念verの白い肌に黒い髪の少女は恨めしそうに俺を見ていた。


「クハッ!なんの用だ人の子よ」

「今更お前に威厳とかないからな!?」

「ないのか!?」

「お前の本名で人を呼ぶ癖とか概念を自称するとことかそんな女子いねーからな!」

「……えー?ウチそんなこと言わんしー?ひ、秀頼の聞き間違いじゃねー?」

「何ちゃっかり話し方変わってんだよ……」


そんな咲夜みたいな喋り方じゃなかったじゃないか。

概念さんに向き合う様に席に座る。

俺が概念さんに話があるのが通じたのか、概念さんも椅子に座る。


「クハッ!どうした、秀頼?ウチになんか用か?」

「え?そのキャラで通すの!?」

「ウチになんか用か?」


ごり押ししていた。

本当に可愛い神様だからユーザーにバカにされるんだぞ、お前……。


「…………理知歩愛紗をどうした?」

「クハハハッ!残念ながら心臓を抜き取って存在ごと消してしまったよ。惜しい子を亡くしたもんだよ」


愉快そうに概念さんは嗤う。

特殊な立ち位置のキャラだったとはいえ、エニアが愛紗を消してしまうなんて……。


「クハッ!どーれ、お前にご馳走してやろう」


概念さんの座る席の机にコーヒーが2人ぶん現れる。

実に便利な能力だ。

神様ってチートだな。


「お飲み。秀頼が好きなエスプレッソとかいうやつじゃ」

「誰がお前が出したコーヒーなんか飲むか!毒が混ざったりとかしてそうだし……」

「そんな発想はなかった……。んな物騒なことウチがするわけないだろ……。引くわー……」

「えぇ……?心臓抜き取って存在消す奴に引かれるの俺……」


いじけた目で概念さんは俺を見てくるが、絶対に手を付けない。

原材料が本当にコーヒー豆かも確信できない黒い飲み物に口なんか付けるわけがない。

本当にコーヒーの芳ばしい香りがして飲みたくなるが我慢する。


「良いもーん!ウチ全部飲むもーん!ふんっ、秀頼なんか嫌いっ!べーっだ」


舌を出してあっかんべーと、挑発してくる。

ギャルゲーのヒロインみたいで好きになりそうである。

そして、そのまま優雅にコーヒーに口を付ける。


「…………ゲホッ!ゲホッ、けほっ……。な、なにこれっ……げふっ……」

「えぇ……?」


概念さんはすぐにコーヒーカップを手放し、口元を抑えはじめた。

咳き込んでいて、涙目になっている。


「にっがーい!なにこれぇ……?ゲホッ、ゲホッ……」

「…………」

「炭酸飲みたい!炭酸飲みたい!」


瞬時にコーヒーカップがメロンソーダの入ったコップへ変化し、ストローで吸いはじめた。


「ふぅ……、生き返るぅ……」


概念さんが嬉し涙を浮かべてメロンソーダを味わっている。

よっぽどコーヒーの味が合わなかったらしい。

多分ブラックだったし、ダメだったんだろうな……。

砂糖とミルク使えよ。


「クハハハッ!残念だが、理知歩愛紗亡き今、ウチに負けはあり得ぬよ」

「今更シリアス風になるの無理だよ!」

「まぁ、せいぜい審判の日でも待つのだね。あ……、君はあと3年以内で死ぬんだっけ?クハハハハハハハ!」

「煽るな!煽るな!」


話にならないので席を立ち上がる。

未だ嗤いが収まらない概念さんをほっといて部室から抜け出した。


「…………」


『君はあと3年以内で死ぬんだっけ?』

概念さんの言葉が反響する。

忘れたいことに遠慮なく踏み込んできやがる。


時間の無駄だった……。

教室に向かう途中、昼休み終了の鐘が鳴る。

俺は急いで教室へと走って行くのであった……。












次回、『西軍グループ』による緊急招集発動!

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